魔王様と商店街
魔王ドルーヴィス。
天界、魔界、地界(人間界)で構成する三大世界が創造される前から存在する神と云われ、生と死を司る神である。
彼の力は圧倒的であり、三大世界の中で単純な戦闘能力、そして知能は一番上とも云われている。
魔王はその名の通り、魔界を統べる唯一王であり、魔界に暮らす魔族にとって王であるとともに、唯一無二の主人であり、誰一人として彼に不敬を働くものは存在しない。それどころは深い畏敬の的である。
ただの魔族にとっても魔王の存在は強大であり、かけがえのないものであるのに、魔王軍つまり魔王直属の配下がその対象から外れることはありえない。まして、魔王軍幹部などの上級役職を務める者にとって、魔王の存在は決して他と比較されるものではないし、彼らの人生における魔王は何よりも優先するべき事項である。その例はもちろん最上級魔族であり、魔王軍最高幹部であるマルボロにも当てはまる。
つまり、目を覚ましたばかりの状況で自分の目の前に魔王が居た。しかも部屋には2人きり。さて、この状況でマルボロは平然を保てるだろうか?
答えはNOである。
ーーーーーーーーーー
「私たち帰れるのでしょうか?」
「さて、それはどうだろうな。現状からいうとそれは確実ではない。」
「か、確実ではない?」
「あぁ。マルボロよ、いつものように転移魔法を展開してみなさい。」
「は、はい。わかりました。」
魔王にそういわれると、マルボロは脳内で自分が魔王城に空間転移するイメージを構築した。
基本的に、魔法は人間種、魔族、天使、精霊、亜人族などあらゆる種族が使用することができる。そして、多くの場合魔法を使用する際に、杖などのアイテムを用いたり、詠唱を唱えたり、魔法陣を描き展開することで魔法を行使するができる。ただし、一部の上位の者であるならば何もない状況で無詠唱で魔法を行使することができる。マルボロはもちろん、魔王や魔王軍幹部であるならばそれが可能である。そのため、マルボロはいつものように無詠唱で魔法の行使を試みた。
しかし、いつもならすぐに魔王城に空間転移が可能であるはずなのに今回は転移することができなかった。
「んん?なぜ転移魔法が作動しないのでしょうか、いつもならこれで容易に転移できるのに。」
「どうやら特殊な制御結界が張られているようだ。その証拠に…、ほらこの通り、上級魔法などは使うことができない。」
魔王ドルーヴィスはそう云いながら、指で魔法印を構成してみせた。本来、魔界であるならばこの印を構成すると108柱の上級悪魔が召喚されるという、とんでもない魔法である。
「ほ、本当ですね…。」
(いや、冷静に考えて魔界でも最終決戦でもない限りぜっっっっったいに使用しないほどの最上級魔法を展開するのは普通に考えてドルーヴィス様おかしすぎない????)
「クフフフ…、おもしろい。この不敗で完全無欠の魔王である我輩を虐げるほどの制御結界が展開されているとは…。」
「はっ。このような世界にとばされてしめうとは本当に困ったことになりましたね。」
「あぁ…。まさに困ったことになった。」
「えぇ…。はい本当に…。」
「クフフフフフフ…。」
(ん?まて。)
「ほ、本当に困ったなぁ…。」
(んんん??)
「いやはや、どうしようか…。ふむぅ…。」
(んん…?これはまさか…、まさかまさか!)
「大変なことになったな!マルボロっ!!」
(間違いない…、この御方…、楽しんでいらっしゃるぅぅぅぅぅ!!!!!!!!)
(でもたしかに、無理もない話だ…。)
(前回の最終決戦から2年。しかも、それ以前魔王様はあまりにも長い間封印されていた。そして迎えた最終決戦、魔王様は魔界側としてとんでもない功績を出した。とはいっても、その時魔王様は復活直後。つまり魔王様の持てる最大の魔法を完璧に操ることはできなかった。つまり、印を唱えることも勿論叶わなかった。でも、いま。魔王様の力は結界によって制限されている。ということは印を唱え放題ということだ。ではなぜ魔王様がそこまで印を唱える、つまり魔法の構成にこだわるのかというと…、そう、魔王様は…。
重度の厨二病だからだ!!!!!!!!!!!!
そもそも魔王様は、生と死を司る万能神であった。しかし、あの女神たちが魔王様に『世界を創ろう!』と持ちかけたのが失敗だったんだ。魔王様はその時惹かれてしまったんだ…。『あれ?死の王?魔界の王ってカッコよくね?』って…。
いや!たしかにね!私もかつてそうだったからわかるよ?見習い死神時代は眼帯を意味もなくつけてたし?だからわかる…けど!!!!魔王様はあまりにも厨二病期間が長すぎる!!!多分、十万年はやってる!!!そして、封印期間がなによりも良くなかったんだと思う。あの期間、魔王様は虚無空間でずっと孤独だった。もちろん、娯楽はない。ということは魔王様がすることはただ一つ。”厨二病ごっこ”である。封印解除直後の魔王様を見てればわかる。明らかに闇属性魔法の数が増えていた。その数、ざっと5万。そのうち魔王様しか扱うことができない魔法が49,992。つまりは、それだけの期間闇魔法研究に費やしていたのである。普通に考えて頭が悪い。いや、治療魔法の研究とかしろよって思う。)
「と、とにかく魔王様。このあとどうしましょうか…?」
「クフフフ…決まっているであろう…。」
ゴクリ…
「「「お散歩だっ!!!!!」」」
ーーーーーーーーーーーーー
朗らかな初夏、青い空にギンギンの日差しがさす。
雨でも降るのだろうか、遠くの空には入道雲が備わっている。夏の始まりを感じさせる。
そんな気持ちのいい太陽エネルギーを浴びて、青々とした緑の葉がもさっと生い茂る木々が植えられた公園には、小学生くらいの男女が活発に、ハツラツに走り回っている。
あぁ、なんて気持ちのいい昼下がりなのだろう。
心も身体もリセットされる…。
100%のリラックス…。
はぁ、癒され……………
るわけないだろっ!!!!!!!!!!!!
私の隣に歩いているのは魔王様だよ?????
落ち着けるわけないよね?????
冷静に考えて、一緒に日本とかいう異世界に飛ばされて、しかも魔王様と居を同じくするってことだけでも心臓破裂ものなのにさ、そんな魔王様と2人でお、おおおお散歩なんてさぁ!!!!!
もうこれってデートだよねぇ!?!?!?!?
そうだよね??????
魔界にいる時は魔王様にお近づきになることはほとんどなかった。なにか魔界であった時の報告か、滅多にない戦争のときくらいしか魔王様に接触はできなかった。それが今では真横にいるのだ。平常でいれるわけがない。
「マルボロよ…」
「はっ!はい!なんでございましょうか!?」
「せっかくだ。商店街の方に行ってみないか?」
「商店街、でございますか…?」
「あぁ、先ほど大家さんに『買い物をするときはどこに行けばいいでしょうか?』と聞いたところ、商店街を進められてな。魔界にも商店街があるだろう?もし、日本の商店街の良いところがあるならば魔界商店街の参考にしてみようと思ってな。」
「おぉ!それは良いですねっ!ぜひ目指しましょう!」
(…。というか、大家さんって一体…?そういえば、日本に飛ばされた時も気付いたらアパートの中に居た。あの時は近くに魔王様がいらっしゃったから、全然気付かなかったんだけど、冷静に考えてなんの手配もしてないのに、都合よくアパートに飛ばされるわけないよね…?ってことは、魔王様が色々やってくださったのか…?さっき大家さんとか言ってたし…。)
「あっ、あの魔王様。」
「ん?どうしたマルボロ。」
「わ、私が目覚めるまで魔王様は何かなさっていたのでしょうか。私、気付いたら魔王様のお側におりましたので、それ以前の転移する記憶とかはないのです。」
「あぁ、そうか。そういえば言ってなかったな、すまない。」
「い、いえっ!」
「そうだな…。我輩が転移されたところからまずは話そう。」
そう言うと、魔王様は一息ついて話し始めた。
「転移した日の夜、我輩は家で日課の深夜アニメを観ていた。なぜなら、声優さんのファンミーティングが近いからだ。いつもファンミーティングが近いと我輩は必ずアニメを見返す。そうすることでより本気になれるからな。本気にならなきゃいけないんだ、何を隠そう今回のファンミーティングでは、じゃんけん大会が開かれる予定だからだ。優勝賞品はずばり、声優さんとのツーショットチェキ。これは何をしてでも入手しなければならない。前回のイベントでは、レヴィにとられてしまったからな。あの時は悔しくて悔しくて、悪魔の住む地域諸共吹っ飛ばそうとまで思っていた。まぁこれはサタンとアスモの説得で止めたのだがな!あの時の2人の焦った表情と、ベルゼとマモンの抱腹絶倒具合の差はとんでもなかったな。今でも思い出し笑いしてしまう。」
「そ、そんなことがあったのですね…。」
(いやいやいやいやいやいや、情報が多すぎるって!!!!え?魔王様ってアニオタだったの!?しかもファンミまで行ってるってことはガッツリだし…。それに、レヴィさんとのイザコザもツーショットチェキが原因だったなんて、、、、、、。
こんなの、、、、、
こんな魔王様、、、、、
最高すぎるっ!!!!!!!!!!!!!!)
*マルボロは重度のアニオタです。ep.1参照。
「マルボロよ…」
「うっ!はっ、はい!!」
「ついたぞ。」
「こ、これがっ!」
ーすずらん通りー
そう書かれたアーチ型の看板が商店街の入り口に聳え立っている。
「ここが商店街でございますか…」
「そのようだな。さて、少し歩いてみるか。」
商店街は両側に歩道と真ん中に車道が存在し、石のタイルが敷かれている。真ん中の車道は車道とはいうものの、ほとんど車通りはなく、ほぼ歩行者天国のようになっている。多くの人が、この車道を歩行者天国のように利用していた。
「魔界の商店街とは全然様相が違いますね…。」
魔界にも商店街はある。かつて、魔王ドルーヴィスが七人の神々に封印された際、その封印によって魔王は力を失い、魔王が維持していた魔界の防御結界は打ち破られてしまった。その結界の崩壊に呼応するように、大量の天使や帝国軍が魔界に攻めてきた。その時、魔界の防衛にあたった者たちが所謂九大魔族と呼ばれる九つの魔物であったが、彼らの奮戦虚しく魔界への侵入を許してしまった。一度、侵入を許した魔界は酷く荒廃し、もともと建てられていた建物は全て破壊されてしまった。そのような状況の中で、墓場都市セメタリルを統治したマルボロによって、魔界復興政策が採られ、その中に屋台形式の店を多く開き魔界を活気つけるというものがあった。それこそが今日の魔界商店街であり、その充実度合いはおよそ日本の商店街に匹敵するものではなかった。
多くの人々がすれ違う、賑やかな商店街。
平日の昼時ということもあって、行き交う人のほとんどが主婦かお年寄りであった。
その中で、人間の格好に擬態しているとはいえ、体長190cmを超える見かけない巨漢の男と、170cmの魅惑の身体をもつ見かけない女が異彩を放たないわけがない。
商店街の視線がマルボロたちに降りかかる。
「なんか、すごい見られますね。」
「あぁ。不審者などと思われているのであろうな。」
「ふ、不審者ですか…!私ならば良いですが、偉大なる魔王様を不審者なんて…!赦せません。魔王様、ここにいる人間どもを駆逐することを進言いたします。」
私がそう言いながら魔王様に視線を向けると、頭上からチョップが落ちてきた。
「いだっ。」
「マルボロよ。ここはあくまで人間の世界。人間の自治があり、人間の生活がある。だからこそ、我々が不審な目を向けられるのも当然である、防衛本能だ。」
「し、しかし…!」
「もっとよく想像してみろ。もしここでマルボロの提案を受け入れたら、我々は間違いなく彼らにとって侵略者である。あの低俗な鳥共と同じ、な。」
「うぅ…、承知しました…。でも、そしたら私たちはいかにして暮らせば良いのでしょうか?」
「ふむ。人類との共生だな。」
「人類との共生…。」
「例えば、私が新たな国を傘下に加え自己の共栄圏に加えるとした際、マルボロ、お前はどのようなことを私に進言する。」
「そうですね…。まずは我が国の文化や常識、法を教え、更に経済的に安定して暮らせるように仕事を与えます。共栄圏に加えてしまえば自国民と同格…、といかなくてもそれに準じる立場を与えます。それが偉大なる魔王様が創り上げた体制であり、我々配下が正義とするものです。」
「うむ。で、あろう。ともすれば、今の我々が行うべきことはわかるな。」
「はぅ。。。そうでございますね…。魔王様、先程の私の無礼な進言、誠に申し訳ございませんでした。どうか私の命…、いえ、私の身体を乱暴に貪りつくして…」
「マルボロ。」
「はっ!!」
「私はお前のことを許そうと思っていたが、やはりお前はもう少し自重という言葉を覚えた方が良い。」
「す、すいません…。もうしません。」
「うん、わかった。よし、そしたら実際に店を利用してみるとするか。」
「はい!!」
肉屋、魚屋、八百屋、美容室、本屋…。一般的にある商店街よりも少しばかり小規模ともいえるスケールではあるが、「すずらん通り」には生活する上で十分ともいえる店が存在し、どの店も近隣住民の下、賑わいを見せていた。
少々驚かれることはあったが、店の人間は尋常の人間を迎えるのと同じように魔王一行を迎えた。肉屋でメンチカツ、八百屋でリンゴ、パン屋でサンドイッチを買い、商店街の片割れにある、公園と呼ぶには少し小さい、それでもブランコや滑り台がある広場のベンチに座り、並んで食事をとった。傍から見れば、初々しい新婚らしさを醸している。
「魔王様、このサンドイッチという食べ物、非常に画期的ですね!確かにこの様に作れば手を汚すことなく、野菜や肉を食すことができます。そして特にこの”玉子焼き”という食べ物…。魔界のコンビニにもありませんよ!」
「あぁ。あの異世界からの小僧に教えてもらい、幾ばくかコンビニというものを再現して一店舗作ったが、やはりまだまだ改良が必要だな。」
「我々の国に戻った際は、是非ともこの経験を活かし、更なる発展を目指しましょう!!」
「うむ。そうだな。」
魔王様は時より、こうして無邪気な子どものように笑みを浮かべる。いつも仕事で見るとき、魔王様は厳粛かつ聡明冷酷。優れた政治の手腕、そして誰にも敗けない圧倒的な力。隙が無い存在。魔王様に憧れる魔族は多いけれど、それは畏敬の対象として。でもそんな魔王様だからこそ、こうして嬉しそうな顔を見ると何度も見惚れてしまう。あのとき、私を救ってくれた命の恩人。ずっと貴方様の側にお仕えしたい、そう思っている。
「マルボロ?」
「はっはい!」
「なんだか今日はボーっとしているな。気持ちのいい陽気だからな。いつも気を張っているお前のことだ、存分に羽を伸ばせるならいいことだ。」
魔王様。私の事をそこまで…。
「そういえば、お前の配下のメンソルはどうだ?休暇に入ったのか?お前に似て真面目な魔族だ。良いことであるが、多少は休まないとな。」
「メンソルですね。魔王様の仰せの通り、休暇を打診いたしました。最初はくすぶっていましたが、妹とゆっくりするよう伝えたところ、喜んで休暇に行きました。」
「そうか、それは良かった。」
魔王様。直臣だけでなく陪臣のことも気にかけてくださるなんて、なんと御心の広い方…。
「なぁ、マルボロ。」
「はい、何でしょうか。」
「この世界に飛ばされて、いつ帰れるのか全く目途もないし、そもそも帰れるのかもわからない。」
「そうですね…。」
「でもな、マルボロ。私は不思議ながらこの現状にちっとも絶望していないのだ。むしろ少しワクワクしている。」
「といいますと…?」
「わからないか? これはな我々の休暇みたいなものってことだ。しばらく楽しんで過ごしてみよう。」
「はいっ!!! ぜひともお供させていただきます!!」
不安もあるけど、意外と楽しみな魔王様との生活が始まります!
久しぶりの投稿で、申し訳ございません。
本編も牛歩の様なスピードではございますが、何とか並行してスピンオフも連載させていただきます。
近々、UNDEAD KINGの続きを挙げます。本編の続きはその後かなと思います!
よろしくお願いいたします。




