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第二十一話 魔神復活

 


「あーあ、リサが魔王を殺しちゃったか……」


 アルが呟くと、リサが真っ赤な顔をして振り向いた。

「違うよ、ちゃんと手加減したんだからっ!」


「おお、では新しい迷宮王はリサか」

 セシリアが大袈裟に驚いて見せる。


「いやだから、ちゃんととどめを刺さないでおいたんだって、見てたでしょ?」

「我はしっかりと手加減をして、魔女どもを皆生かしておるぞ」


「も~、何で私だけ……」

 動かなくなった魔王の亡骸に集まり、魔女たちが泣き崩れている。


「さて、どういうことか聞かせてもらおうか」

 アルが魔女たちに近寄った。



 泣き叫ぶ魔女たちを落ち着かせやっと話をさせてみると、この魔王は本来この上にある六十九層のエリア主で、魔女たちはその配下であった。


 しかし迷宮が聖なる力に囲まれると次第に魔力を削がれ、迷宮主と共にその力を落としていた。

 そこへ、教会の連中が襲ってきた。


 数十人規模の聖魔法使いの集団に襲撃を受け、特にアンデッド系の魔物を揃えていた魔王の階層はひとたまりもなかった。


 そして魔力を削られて弱ったところを、ヒカリと同じ水晶玉により操られてしまった。

 教会が得た最下層の迷宮主やアルについての知識は、この時に魔王が持っていた情報によるものだ。


 教会の僧侶たちはその後最下層へ行き、結界魔法により迷宮主を封じた。魔物を忌避する彼らは、新たな迷宮主になろうとは最初から望まなかったようだ。

 だからその代わりに魔王が七十層へ降りて、迷宮主の役柄を演じることとなる。


 封じられた迷宮主がどうなったのかは、取り巻きの魔女たちにはわからない。

 魔王を人質に取られた魔女たちは黙って魔王の元にいて、命じられるままに動いているだけであった。


「では、この階層のどこかに本当の迷宮主が封じられているということか」

「アル、わかる?」

「感知の輪を広げてみる。少し静かにしてくれ」

 アルは眼を閉じて、階層内全域に意識を広げた。


 結界を用いた封印魔法の痕跡を探るべく、魔力の細い糸を追いかける。広い玉座の間の奥には迷宮王の私室があり、迷宮王の魔力の痕跡が多く残っていた。

 その残り香と同じ匂いのする魔力を求めて、探知する。


 広い階層を調べるために、アルは歩いて奥の間に行き、そこから順を追って丁寧に調べて歩いた。

 やがて広間の片隅に積み重なる幾つかの岩の前に来た。その前でアルは集中する。



「これだ。この中に王の魂の香りを感じる」

 アルが一つの巨岩に触れて、魔力を注ぐ。


「聖魔力の痕跡を巧妙に消しているが、普通の魔法ではないな」

 アルが手で触れると、そこに魔法陣の一部が浮き上がる。


 それを上から撫でるように触れていく。すると魔法陣の記述の一部が書き換わり、岩の表面が輝き始めた。

 そうして岩の表面に触れながら、魔法陣を解いていく。


 ついに岩全体がまばゆい光を放ち、その光が消えた後には一体の魔物が立っていた。

 魔王より一回り小柄なその体はより人に近く、しかし頭には二本の曲がった角が生えている。


「魔神……」

 アルは無意識に呟く。


 太い角と細く長い尾がなければ大柄の人と変わらない姿だが、封じられていたにも関わらず内部に秘めた魔力は魔王の比ではない。存在そのものが、神のごときオーラを纏っている。


 魔神は目の前のアルをじっくりと見る。そして右手を体の前に置き、恭しく腰を折った。

「助かりました、テネレの王。いや、あなたのことはバラクの王と呼ぶべきか」


「なるほど、あんたが本物のティリアの王か」

 やっとティリアの迷宮王に辿り着いたのを知ると、アルは緊張を解いた。



「いや、我はもう王ではありませぬ」

「なに?」


「我は教会に敗れ封じられ、そして足元へ下った」

「まさか、正教会の連中が迷宮の王なのか?」

 それは最悪の事態である。


「いや、あのエイナルという若者も強かったが、謀略により我を封じたのみでは王の資格は得られない」

「では誰が?」


「当然、あなただ。バラクの王よ。あなたが今よりこのティリアの王だ。いやここも、新たにセシルの名を得ている。今日からあなたはこのセシルの王だ」


「なるほど。あのガキがここをそう呼んでいたな」

 セシリアは知らぬうちに自分の名の一部が正式に迷宮の名となっていたことを、苦々しく思う。


「封じられた我を救ったあなたをこの迷宮の正式な王と認め、我は全権を委ねる。我はあなたのしもべとなろう。あなたにこそ、その資格がある」

「俺はただ、結界を解いただけだぞ?」

 アルは本気でそう思って、ただ茫然としている。


「それは違います。あなたが四十九層の洪水を鎮め、北の山の聖なる水の流れを元に戻しました。おかげで失われていた我の力も半分は戻りました。その功績は、紛れもなくあなたのものだ」

「それならば、魔王を倒したリサや魔女たちを追い払ったヒカリにも……」


「いや、我の封印を解いたあなたの魔力からは、数多の魔物の敬意と信頼の香りが強く滲み出ている。こんな魔力の持ち主に出会えて我も幸せだ。できることなら迷宮を放り出してどこまでもあなた様に付いて行きたい」


「おい、そうもいかないだろ?」

「では我の力を受け取りたまえ」

 魔神がそう言うと、アルがテネレの王となった時と同じように、ティリアの迷宮に受け継がれた記憶がアルの中に流れ込んだ。


 その力に翻弄されて、アルは天井を見上げたまま立ち尽くす。



 それは、つい最近の出来事だった。

 数十人の教会の僧侶が怒涛の如くこの最下層へ攻め込み、魔神を攻めた。


 十人以下の小パーティに分かれて迷宮へ入った教会の若き僧侶たちは、三十層を過ぎたあたりで自然と集まり、人の減った夜間に迷宮攻略の最前線を突破して下層へ向かった。


 全員が魔王のいる階層を攻め、水晶玉で魔王を配下に加えた後、最下層を攻める。


 エイナルを先頭に配下にした赤い目の魔王を使って、弱っている魔神を包囲した。

 やがて追い詰められた魔神が最後の反撃に出ようとしたとき、魔王に使ったのと同じ支配の玉が魔神に放たれた。


 だが魔神はその水晶玉に不吉なものを感じ、短い転移により階層の隅へと逃がれた。


 僧侶たちは予定を変更して、別の水晶を使った。追い詰められた魔神に向けて、エイナルの持つ水晶玉が光を放ち封印魔法が一斉に炸裂した。

 聖なる光に囲まれた魔神は、今度は逃げ切れずにそのまま封印された。



 教会は迷宮王の資格を放棄するために、魔神を封じた。

 だがそれが個人の優れた力によるものならば、迷宮王の継承は行われたのだろう。

 しかしティリアの迷宮王たる魔神は、優れた個人の力に屈したわけではない。迷宮王の間の片隅にあった岩に封じられてはいるが、迷宮王の座は揺るがなかった。


「俺が封印を解けたのは、事前にあの北の小屋にあった魔法陣を見ていたからだ。聖なる地下水の流れを変えて操っていた、教会の聖魔法だ。正教会の使う魔法については、だいぶわかって来た。次は南の地下水も元の流れに戻そう」

 アルは跪く魔人の手を取り立ち上がらせた。


「あり難き幸せ。よろしければ、我は僕としてこの迷宮の再建に尽力したい」


「ああ、頼む。あんたは魔神。その力はこんなものではないだろう。良ければこれからはあんたのことをリティーと呼ばせてくれ」

「おお、名まで戴けるとは、恐縮至極。では先ずは倒れた魔王を復活させましょう」

 魔人は倒れた魔王を取り囲んだ魔女の方を見た。



「その前にリティー、お前が封じられた経緯を他の者にも聞かせてやってくれないか?」

 魔人はアルと共に歩み寄る。そして事情が分からず立ち尽くしているリサたち三人と魔女たちに向かって、この最下層が教会に襲われた時の経緯を語った。


「なるほどね、やっぱりあのエイナルって奴が黒幕だったのか」

「ギルドに内緒で教会が迷宮の攻略を進めていたとは。あのガキ、許さん」

「我に恥をかかせたのはあの少年か。次は容赦せんぞ」

 三人はそれぞれに憤る。


「リティーの仇も討ってやるからね」

「おお、アル様の奥方たちも頼もしいですな」

「お、奥方たちって……」


「わ、我は奥方ではないぞ」

「存じております。ヒカリ殿はアル様の大切な護衛役、アル様を頼みましたぞ」

「よし、我に任せるのだ」


「セシリア様、正教会がこの迷宮をセシルと呼ぶのは、あなたの名を戴いているのですぞ」

「ああ、知っている。恥ずかしいだろ、あの馬鹿どもめ」

 セシリアは更に顔を赤らめた。



「さて、俺たちは早く南の水源も取り除かねばならない。一度地上に戻って出直しだ」


「ああ、私も今度は力になりたい」

「我の復讐も」

「わたしだって、奥方として……」

「「それは違う!」」

 アルとセシリアが、同時に叫んだ。


「でも、わたしはアルの婚約者だし……」

 リサは少々拗ねている。


「ではリティー、あとは任せたぞ。迷宮北側を囲む聖なる水は、次第に減っていくだろう。迷宮の瘴気も増えるはずだ。俺たちはお前の居室に魔法陣を残して帰ることにする」


「アル様。既にあなたはこの迷宮の王。魔法陣がなくても迷宮の力で迷宮内での転移はいつでも可能です」


「おお、そうだったな。ではまた来る」

 アルは三人を連れて、そのまま上層へ転移した。



 


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