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第十九話 魔法陣

 


 帰り道、アルは意識の無いヒカリを抱えたままゆっくり歩いている。


 大暴れしていたヒカリは、あの魔王と同じ赤い目をしていた。魔王も同じように、連中に操られているということだろう。


 しかもヒカリが魔物であることが連中には知られていて、先手を打たれた。教会の連中は魔王の知識により、アルがテネレの王であることまで知っていた。


 何故知っていたのか?

 教会の奴らが操っているティリアの王から聞いた、と考えるしかない。


「こちらの情報が漏れているというより、まさか今も監視されているのか?」

 突然アルが呟いた言葉に、ヒカリを除く二人も騒然となる。


 考えてみれば、怪しいのはあの魔王が見せた立体地図だった。

「まさかあの能力で、俺たちのティリアでの行動まで筒抜けになっているとか?」


 だが冷静になれば、迷宮の王の力が及ぶのは迷宮の中だけだと思い直す。

「確かに、この考え方はどこかがおかしい。そもそも、あんな迷宮の外までマッピングできるような能力が迷宮王にあるのだろうか?」


 それならもっと早く迷宮を取り巻く異変に気付いたのではないか? どうも細部が納得できずに、もやもやした気分になる。


「少なくとも、俺にはあんなことはできないぞ」

 魔王が示したあのマップ情報については、アルは驚愕を隠せない。



「でもアルの感覚が正しければ、あれは迷宮の外から来た他の誰かの能力だったってことじゃないの?」

 アルの独り言に、リサが我慢できずに口を挟んだ。


「だが、迷宮の外にいる俺たちを監視できるような人物がいるとは思えんが……」

「そうね。アルに気付かれずに行動を細かく監視するなど、人間の力では不可能よ」


「では俺たちが何度か迷宮に入ったのを見られていたのか。確かにそれは、迷宮の王なら容易だな」


 ギルドの監視も逃れるアルの行動を掴むとなると、セシリアにも容易に想像できない。

「うむ、そこは多分そういうことになるのだろうな」


 それでも、やはり細部にこだわればアルの疑問は晴れない。

「だがおかしい。連中は俺が転移魔法を使うことを知らなかった」

「うん、そうだったね」


「あの時魔王に会う前に、俺は何度も迷宮内で転移魔法を使っていた。だから迷宮の王がそれを知らぬわけがないと思うのだが」


「いや待てよ。その前に、四十九層であの聖なる水の氾濫を俺が止めたことすら知らなかったようだったが」

「ああ、確かに。あの時の口ぶりだと、四十九層の聖なる水の氾濫自体を魔王は知らなかったようだ。明らかに、これはおかしい」


「つまり、わたしたちが会ったあの魔王は、ティリアの迷宮王ではないの?」

「そうだ、俺たちが迷宮の底で会った魔王は、迷宮の主ではないということだ!」

「ではまさか、教会のエイナルという生意気なガキが新しい迷宮王なのか?」



 屋敷に戻る前に、ヒカリはアルの腕の中で意識を取り戻した。

 赤かった眼は元に戻っているが、うっかり暴れないよう、魔力は補充されていない。


「アル様、我はとんでもないことをしてしまいました。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」

 力なくアルにしがみついて、泣きながらひたすらアルに謝り続けている。


「ヒカリは悪くない。あの魔王から貰った水晶玉をお前に預けたのは、俺の責任だ」


「でもヒカリは悪いことをしました。たくさん、たくさん、悪いことをしました。もうおしまいです、早くヒカリを殺してください。でないとまた、ヒカリは悪いことをします」


「そんな事は絶対にしないから、安心して休め。そして今まで通り俺に仕えろ。これは命令だ」

 ヒカリはそれ以上声を上げず、黙って泣き続けていた。


 屋敷に帰ると、四人はいつものように風呂に入ってから夕飯の食卓を囲んでいる。


 ヒカリはアルに魔力を補充されて肉体的には元に戻ったが、部屋の隅で人形のように立っている。


 普段ならヒカリと罵倒し合っているリサも、今日はヒカリに対して妙に優しい声を掛けるのでヒカリはどうして良いのかわからない。


 アルに手を引かれ食卓の椅子に座ったが、ヒカリはただ黙ってアルの隣で小さくなっているだけであった。



「ところでアル、地下にあった魔法陣はどうなったの?」

「ああ、忘れていた。面倒なので周囲の結界ごと全部空間魔法で転移させた」


「えっ、だって直径十メートルの結界だって言ってたよね。いったいどこへ?」

「いや、正確に言うと収納鞄の中にある」


「それってあの魔法の鞄のこと?」


「ああ。最近空間魔法を覚えて、魔法陣なしで亜空間への収納と物体の転移ができるようになった。まあ、鞄自体も不要なのでこれもただのダミーだがな」

 そう言って何もない空間から取り出した魔法の鞄を手で叩いてみせた。


「馬鹿な。本当にそんなことが可能なのか?」

 セシリアも黙って聞いていられない。


「ええ、大量の魔力を消費しますが。だけど収納したのはいいんだけど、あんなデカ物を出せる場所がどこにもなくて。一度外へ出してから結界を解いて、魔法陣の内容を解析したいのだけど……」


「そんなものを広げられるのは、迷宮の中くらいしか思い当たらんが……」

 セシリアが、腕を組んで考え始めた。



「いやでも、まだ生きて動いている魔法陣ですよ。万が一迷宮に変な影響が出ては困るし」

「アル、魔法陣を包んでいた結界だけどさ、あれって魔法陣の下側はどうなってるの?」


「地下まで延びて球形になっているのだろうかと思ったので土ごと球形に抉ってあるのだけど……」


「普通は結界が地下まで延びていれば地下の水脈へ魔力を送れないよね」

「ああ、そうか。結界の中からでは魔法攻撃ができないのが普通だ。だから結界でなく部分的な魔法障壁を普通は使う」


「ということは、魔法陣の地下には結界がないのでは?」

 リサに言われてみれば、その通りだ。


「そうか、地上部分だけの魔法障壁だったのか。しかし発動している魔法陣はそれ自体が結界と同じだから、簡単に破壊は不可能ということだな」


「それなら魔法陣を囲んでいたのは結界というよりも、地上部分を覆う半球形の障壁だね」


「どうしてそんなものが必要だったのだろう。稼働している魔法陣自体は結界と同じで簡単に破壊不可能だ……待てよ、ならばそれ以外の大切なものを、魔法陣が守っていたのか?」


「やはりどこかで一度、魔法陣を出してみないとな」



 セシリアが顔を上げた。

「いい場所があったぞ。魔法陣を出してそっくりアルの結界で包んでしまえば、外へは影響が出ないのだな。万が一魔法が漏れたとしても、迷宮から少し離れた地下水脈がない場所なら影響は少ないだろう」


「そうだね、一度外へ出してみんなでよく観察をして、対策を考える。ダメならまたアルが収納する」

「ああ、そんな感じになるかな」

 しかし、そんな都合の良い場所が本当にあるのだろうか?


「アルよ。その結界、いったいどのくらいの時間維持できるのだ?」

 セシリアは、本気であてがあると考えているようだ。


「うーん、あの魔法陣は弱い出力で長時間稼働するように作られているから、結界も弱くていいし、まぁ何日も続けて維持しろってことでなければ、たぶん大丈夫」


「巨大な魔法陣だぞ、本気か?」

「いや、絶対の自信があるならそりゃ迷宮の中でやってもいいんだけど、万が一を考えるとさすがにそれは……」


「わかっておる。だからいい場所に案内しよう」



 翌日、魔法陣を取り出せそうな場所へ四人で向かった。

 ヒカリは子供の姿のまま昨夜から黙ってアルにくっついていて、まだ離れそうにない。


「ここじゃ」

 セシリアが案内したのは、街外れにあるレンガ造りの大きな倉庫だった。


 このあたり一帯の地下には強固な岩盤があり、地下の迷宮からはやや距離がある。

「これから冬に向けて備蓄する食料倉庫を借りた。毎年祭りの前には空にして、ちょうど今年収穫した麦を運び込むことになる。だから、今ならこの通り」


「あれ、広さは充分だけど、高さはちょっと足りないんじゃないですか?」


「ここの地下は何もないから、遠慮せず床を削り取っていい。それなら屋根まで五メートル以上あれば足りるだろ」

「確かに、それなら高さは半分で済みますね」


「あとはアルがちゃんと元に戻してくれればよい」

「はいはい、やりますよ」

「任せたぞ」


「では先に穴を掘りますか」

 魔法陣を消した時の要領で、同じ大きさの半球の穴を倉庫の中心に削り取った。

 およそ直径十メートルで深さが5メートルの半球形の窪みが床にできる。


「では出しますよ」

 アルがそう言うと同時に、白く光る魔法陣が床に出現する。

 その周囲を、アルが自分の結界で囲んでいる。



「うわぁ、すごいね、これは」

「さて、では魔法陣をよく観察してみてみましょう」


「この光は魔法陣から出ているのかな。それとも結界?」


「アル様、まさか、これはあの水晶玉と同じ種類の光では?」

 ヒカリが怯えて、アルの腕に強く抱きついた。


「おお、そうだよ。ヒカリが操られたあの玉のもっと大きな奴がある」

 そう言われてよく見ると、魔法陣の上の要所要所に篝火のような台座があって、その上に拳ほどの水晶玉が幾つも並んで光を放っている。


 それ自体の存在を隠すような淡く白い靄を纏いながら、水晶玉は輝いていた。


「この玉を守るために上部の結界、ではなく障壁があるのか?」

「きっとこの水晶玉が魔法陣と魔法障壁両方に魔力を供給しているんだね」


「なるほど、よくできておる。これは正教会の秘してきた技であろうな。今まで見たこともないものだ」


「うん、あのヒカリを操った玉と同じ魔力だ」

 ヒカリだけは顔を背けて、何も言わない。



 魔法陣自体にこの魔力玉を組み込んでいれば、もっと単純になる。だがそうなると魔法陣を一度停止させない限り、水晶玉に魔力をチャージできない。だがこの形式ならば、地上の魔法防壁だけを解除すれば、簡単に後から魔力の供給が可能になる。


「この玉に定期的に魔力を補充するために連中はやって来ていたのだな」

「いや、面目ない。地面の魔法陣に気を取られていて、この玉には気付かなかった」

「はは、アルも慌てていたんだね」


「恐らくそれだけではない。アルの結界で包んだことにより、認識疎外系の幻惑魔法が解けたのだろう。魔法陣の記述も読み易くなったのではないか?」


「確かにそうだ」



 


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