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第七話 作戦

 


 突然、アルが生きていました、と街に戻った場合の混乱について、二人で考えてみた。


「先ず私のいるパーティ、チーム〈アル〉を始めとしたギルドや学園関係者には大ニュースとして広がって、祝福歓迎で大騒ぎになるのは間違いないわね」

 リサが、ギルド側の動きを予想する。


「ああ、そうだな。あのゴーレム戦に参加した冒険者たちや命を救われたメリッサの兄たちアムンゼウス軍幹部も、恐らくは黙っていないだろう」


「そうか。アルは、アムンゼウスの軍部の人たちと会っていたんだっけ」

「うん、じじいに無理やりな」


「じじいって、ギルマス?」

「あのハゲだ」


「あ、そうか。ギルマスの孫って設定だったからね。それなら使者がやって来て感謝の品を贈呈しようとか面倒な動きが出る可能性もあるし、場合によっては勲章みたいな奴が授与されたりして……」

 そう言って、リサは脅かす。


 それに加えて、アルをファミリーの一員として秘密を共有するギルド長の家に住む人物の動向も、アルには気になる。



「でもそれは、恐らくどんな形であろうともこれ以上は隠すことができないし、早く言った方が楽になると思うけど」

 彼らにこれ以上隠しておくのは愚行であると、リサはアルを説得する。


 確かに、最低でもギルド長とその家の住人には真相を話して、先に協力を仰がねばならないだろう。

 そのためにまたギルド長がこちらへ難題を持ち込んだとしても、必要最低限のリスクとして諦めるしかない。しかし、それが、アルには一番不安な点である。


「それはリサが、あのじじいのことをよく知らないから呑気に言えるんだと思うぞ」

「じゃあ、先にナタリアさんとケイティさんに話してみる?」


「それは、もっと気が進まない」

「それじゃ話が進まないよう」


「そうだな」

「どうしてアルは、言葉だけ冷静なの。そうだな、じゃないんだよー、もう!」


「……ごめん」

「じゃあ残りの一人、ギルマスの秘書さんはどう?」


「メリッサか?」

「あのね、メリッサさんは年長で、ギルドの優秀な職員なんでしょ。もっと敬いなさい」


「ああ……確かにメリッサはギルドにもアムンゼウスの軍部にも通じているし、冒険バカの姉ちゃんたちと違って頭も切れる。何かいいアイディアを出してくれるかもしれないな」

「よし、それでいこう!」



「メリッサはじじいの秘書なので、基本的に一日中アントンと一緒にいる。じじいが外出する時もあるが、家にはナタリアとケイティがいる。彼女と話しをするタイミングが難しい」

 どちらかというと、メリッサに気を遣い一人にしないようにしているのだった。


「うーん、先生たち二人はヒカリの化けたマットでクレンツ村にくぎ付けにして、後は誰かギルドの知り合いからギルマスのスケジュールを入手してうまく秘書さんに接触するって感じかな」

 確かに、ナタリアとケイティが揃って村にいる時が狙い目だろう。


「リサは、それでいいのか?」

「何が?」


「こんなことをしていると、ニコル達とはなかなか合流できないぞ」

「うん、仕方がないよ。多分あっちもストーンゴーレムとの再戦が終わるまでは、きっと気が抜けないと思うんで」


「ああ、そうだったな。そっちの準備は進んでいるのか?」

「うん、それこそギルマスとファロストの誓いの二人が先頭になって作戦を練ってるもの」


「そうか。それなら、これはチャンスだな」

「あ、そうだね。これは大きなチャンスだ。迷宮攻略のときなら間違いなく秘書さんは彼らと離れて、一人になると思う」


「攻略は、いつになる?」

「え、それをわたしに聞いちゃう? ストーンゴーレムがいつ復活するのかなんて、アルの考え次第じゃないの?」


「そりゃそうだな。このまま放っておけば、三日後にはゴーレムが復活する。ギルドの支度が間に合わないようならもう少し遅らせることも可能だが、逆に三十層が簡単に通れなくなれば、この村はもっと過ごしやすくなる」

 アルからすれば、すぐにでもゴーレムを復活させてしまいたいくらいである。


「うん、それならその間わたしたちも、湖の畔でのんびりできるかな?」

「ああ、俺がマットの姿になり、リサもあの店でのんびりしていればいい」


「そうか。あそことここを気楽に行き来する暮らしも、悪くないよね」


「ああ。村の冒険者を追い出してから、復活するゴーレムをもっともっと強くしてやろう。今後冒険者が誰も通れないようにすれば、静かに暮らせる」

 アルにとっては、そういう時間が本気で欲しいのだった。


「アル、発想が迷宮の魔王になってるよ」



「ところで、リサにはここにいる間にもっと強くなってもらわないと」

「はあ、私もあれからずいぶん実戦を積んで強くなったつもりなんだけど、みんな強すぎるんだよ……」


「ちょうど今、クレンツ村にナタリアとケイティが来ている。俺は暫く上に行き、攻略計画の進捗状況などをそれとなく聞いてみる。リサはここでヒカリと訓練をしていてほしい」

「まあ、仕方がないか。でも、浮気はダメだからね!」


「……わかってる」


 アルと三人の女性たちとの関係は進展なく、今はマットとして距離を置いているのだと釈明はしている。こうして念を押して言われるほどには、リサが気にしていないのは明らかだ。


 アルが思春期を迎えたころ迷宮の村では人口が減り、恋愛の対象になるような年頃の女性はいなかった。


 アルの異性に対する知識は村の大人たちから聞いた話と、好きだった小説の中だけに限られている。その小説に描かれていたのは主に王侯貴族の暮らしぶりで、今のテネレをはじめとする一般庶民の暮らしについては知らない事が多い。


 幸い今では密かに街へ出て新しい小説がいくらでも手に入るので、店番をしながら毎日読書をして社会勉強中ではあるが。


 そうしてアルはまた今日も人間社会の勉強をすべく、ヒカリと交代するために三十二層へ向かった。



 ゴーレム再戦に向けた準備が三十二層でも始まっている。それを指揮するギルドの面々の中に、二人の姉ちゃんたちの姿もあった。


 うっかり声をかけて手伝わされるのも面倒なので、アルは真面目に店番をしながら売り物の傷薬を作ったりして忙しそうに働いていた。


 夕方になり夕飯の魚でも釣ろうと釣竿を持って湖畔へ出ると、さっそく一仕事終えた二人が目ざとくマットの姿を見つけて近寄って来る。


「やあ、久しぶり」

 ナタリアが、先に声をかけた。


「ああ、忙しそうだな」


「うん、またあの大きいのと一戦構えなきゃならないと思うと、うんざりだよ」

「勝てるのか?」


「そりゃもう、今度はしっかり作戦を立てて準備してるからね」

「でも、そろそろ復活する時期じゃないのか?」


「そうなの。ちょっと間に合わないから、一週間から半月くらいはボスが暴れることになるかもね」

「ああ、そりゃいい。この村が静かになる」

 それは、心の底からの本音だった。


「あんたは参加しないのか?」

「ああ、今は冒険者と言うよりも、村の道具屋だからな」


「何言ってんだい、一緒に戦おうよ!」

「勘弁してくれ。俺はあんたらみたいに強くはない」


「大丈夫、今度の作戦はきっとうまくいくぞ」

「どうするんだ?」

 そういえば、アントンとこの姉ちゃんたちが中心になって作戦を練っていると聞いた。


「ストーンゴーレムの弱点を徹底的に突くんだよ」

「ほう」


「ギルド長が遠くの石切り場まで行って、石の壊し方を教わってきたのさ」

「ほう、例のハゲか?」


「そうそう、そのハゲが高原の西にある石切り場まで行って、採掘の現場で色々勉強してきたらしい」

「でも前のときも魔道具でボカンと爆発させていたけど、びくともしなかったぞ」


「ああ、もっと原始的な方法でやるんだと」

「面白そうだな」


「なんだ、興味があるなら後でゆっくり話してやるよ」

「わかった。では今夜飯をごちそうするから、後でたっぷり聞かせてくれ。店を閉めたらボブのおやじの店に行く」


「了解、またあとでね」

 ルンルンと村へ帰っていく二人の姿を見ながら、アルは少し後ろめたい気持ちになる。


「確かに、いつまでも人を騙して暮らすのは、あの悪いじじいのやり方と同じだ。とはいえ元に戻るのも御免だが……」

 今後ますますそうして正体を隠しながら暮らすことが必要となるのだが、小さな迷宮村で育ち何の隠し事もなく育ったアルには、居心地が悪いのだった。



「……で、アントンが視察してきた結果を街の石屋と確認して、今回の作戦ができたわけ」

 ナタリアが、自分のことのように自慢げに話をしている。


「弱点を突くと言っていたな」

「そう。岩ってのはさ、急激な温度差により割れるらしいんだ」

「で、魔道具を活用して熱と水による交互の連続攻撃をするんだって」

 アルは、迷宮村の酒場でナタリアとケイティと向かい合って座っている。


「つまり、熱を加えてから、水をかけて急激に冷やす。すると表面に細かなひび割れができるので、更に冷気で凍らせる。すると、ひび割れに入り込んだ水が凍って、ひび割れを更に広げる」


「面倒な作戦だな」


「でも、この繰り返しにより自然の岩は風化して、割れて崩れるんだとさ」

「その後は?」


「弱った岩石を破壊する、物理攻撃が必要だ」

「じじいが見て来た採石場の石割を参考にして、鋼鉄のノミでゴーレムの体に穴を開け、くさびを打ち込む」


「今は、そのための特殊な破壊兵器の開発を急いでいるらしい」

 どうやら、重い鋼鉄製のハンマーで、先の尖った鋼鉄の杭を打ち込むようだ。


「どうやって、そんなものをゴーレムに打ち込むんだ?」

「それには、ゴーレムの動きを止めて、巨大なハンマーでノミを叩き、穴を穿つ」

「そう。次にその穴へ更に大きな楔を打ち込み、楔の頭をひたすらハンマーで叩き続ける」


「ゴーレムの動きを止める? どうやって?」

「うん。魔物素材の繊維で編んだネットに魔力を流して被せ、ゴーレムを押さえる」


「そんなものまで作っていて、間に合うのか?」

 こんな大掛かりな作戦だとは、アルは思いもしなかった。時間をかけて練られている計画に、感心する。


「上層で栽培している迷宮葡萄の蔓を干して編んだものと、西の迷宮ジメールの中で養殖されている虫型モンスターが吐き出す繊維を編み込んで作成中らしいよ」


 ギルド長からは、強力な物理貫通能力を持つ技の伝授もあるらしい。



「で、肝心の準備は、どの辺まで進んでいるんだ?」


「うーん、道具の用意にあと二週間、てところかな。その後一週間は訓練が必要か。三週間あれば何とかなりそう」

「なるほど」

 すると、あと三週間は静かな時間を過ごせるのだ。


「まあ、もうじきゴーレムは復活しちゃうだろうけど、ある程度のランクの冒険者は、誰かがゴーレムを引き付けておけば、その隙に何人かは通過できるんじゃないかと思う」

「そうやってここから逃がさないと、地上へ戻れない奴も出そうだからね」


「ランクの低い連中は、今のうちに早くここから地上に戻さないと」

「あんたは逃げないで大丈夫なの?」

「ああ。俺は店があるから、ずっとここにいるさ」


「なんだかな~、あんただけだよ。こんなに緊張感のない、呑気な冒険者は」


「はは、じゃあな。あんたらも死ぬなよ」

「なんて挨拶だ」

「冗談じゃない。こんなところで死んでたまるか」



 


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