第二十四話 決着
ゴーレムが最後の力を使い体内の温度と圧力を上げ撃ち出したのは、溶岩の塊だけではなかった。
肘から切り飛ばされ落ちて砕けた己の右拳を砲弾とし、太い二の腕を巨大な砲身に変えて、体内で膨れ上がる高圧により打ち出したのだ。
アルが迷宮の王になって以来、魔物の知力が上がり思いもかけない攻撃をすることがある。
これも本来ならボディの中心で上方へ爆発して、溶けた溶岩が高速で四方へ飛び散るだけの攻撃の筈だった。
しかし明確な意思を持って打ち出された巨大な石の砲弾は熱せられて赤く輝き、吹き出す大量の溶岩が尾を引きながらその後を追う。
岩塊の砲弾と溶岩の雨が、冒険者を襲った。
前衛は歯を食いしばって着弾地点に集結し、盾を斜めに上へ向けて、その直撃弾を上方へ逸らそうと試みた。
同時に後衛は魔法防壁を強化しつつ、下から上へと弾いて吹き出る溶岩ごと砲弾を跳ね上げた。
直撃を受けた盾持ち数人が吹き飛ばされて大怪我を負ったのを代償に、砲弾の軌道はどうにか上方へ逸れて、前線の頭上を飛び越えた。
しかもその後には、尾を引く灼熱の溶岩が雨のように降り注ぐ。
ゴーレムの腕は砲撃の反動で上を向き、そこから上空へ更に溶岩が尾を引きながら吹き出て、砲弾の後を追う。
砲弾の直撃に耐えた前衛は必死に溶岩の雨をかいくぐり、前へ向かって走り始める。
中衛も後衛も、最後の突撃とばかりに歯を食いしばってその後を追い、溶岩の雨に打たれながらもゴーレム本体に止めを刺すために殺到する。
それにより取り残されたのは、最後方で支援魔法をかけていた学園の生徒たちだった。
前線からは一段高い丘の上に陣取り弓矢と魔法で攻撃し、支援魔法をかけていた学園の生徒たちの頭上を軽々と飛び越えた砲弾は、その後方にある岩の天井に炸裂する。
砕け落ちる洞窟の天井が、岩崩れとなって後方から一気に学園の生徒たちを襲った。
だが、それで終わりではない。
遅れてやって来た高温の溶岩が崩れた天井の岩と混じりながら、彼らの頭上へ降り注ぐ。
アルは一人後方へ抜け出して、身構えていた伸縮式の盾を最大に展開してそこへ魔力を注ぐ。
ちょうど巨大な傘のような形状で展開した防御シールドは、クモの巣のようにその周囲へフィールドを拡大する。
アルはその巨大な盾を頭上に掲げて、後方の上から迫る岩と前方から迫る溶岩の雨の中心地点へと飛び込んだ。
アルの防御シールドが落下するほとんどの岩石と溶岩を遮り、左右へ二分されて落下して転がった。
しかしその一部が後ろの前線基地に向かうのを振り返って、アルの顔色が変わる。
学園の生徒たちは守りきったのだが、このままではメリッサの兄がいる前線基地が岩と溶岩に飲まれてしまう。
そこにはアントンがいるので何人かは助けられるだろうが、全員の救助は不可能だろう。
「ゴーレムの攻撃が予想外に進化したのも、元を正せば俺の責任か……」
アルは咄嗟に頭上のシールドを消して、後方の前線基地を守るように再展開した。やや距離があるので、完全に防護することは不可能だった。
「しかし、後はアントンが何とかするだろう」
そう思ったアルは、慌てふためく軍の関係者を守るべく、最後までシールドを維持した。
アルがレッドドラゴンとの戦いで使った冷却魔法を広範囲で使っていれば、もっと楽に被害は減らせたかもしれない。しかしこれだけの目がある場所で派手な魔法を披露するのには抵抗があるし、何よりも自分には、ゴーレムの捨て身の攻撃の成果を見届ける義務がある。
束の間の判断が、その先の運命を分ける。
前線帰途の前に展開されたシールドで弾かれた岩石は、無防備なアルの足元へ殺到して埋め尽くす。立ち上る煙が全てを覆い隠した。
一瞬のうちに岩石の雨は展開したシールドごとアルを飲み込んで、全ては崩れ落ちる大量の岩と熱い溶岩の中に消えた。後には、舞い上がる砂埃と溶岩の放つガスの異様な臭気の煙が充満し、周囲を覆った。
学園の全員が振り返った時には、もう全てが終わっていた。
アルは、一人で降り注ぐ全ての岩石を食い止め、学園の生徒と教師全員の頭上を守りぬいた。
アルが食い止めなければ、多くがこの岩の下敷きになっていたことだろう。
そして熱い岩と煙の向こう側に、辛うじて岩の直撃を避けられた前線基地の姿がうっすらと浮かぶ。
双方の間に積もった岩石の山は、溶岩の熱ですぐに近寄ることさえできない。
既に巨大なアルのシールドは消えていて、そこにアルの姿は見えなかった。
煙を上げる崩れた高温の岩山から目を離せない学園の生徒たちの背後で、大きな歓声が上がる。
ついに、攻略部隊がゴーレムを倒したようだ。




