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第6話 なんで入れ違ったかと言うと…。

キャロス家はウィンディア教の敬虔なる信徒で、神殿には毎朝通うほどだ。

子供たちは寝坊することも多いが、両親は早朝神殿へ行き清掃を手伝う。そして父ギュストはその後の礼典が終わってからしばしば神官長と話をする。

この日もそしていつも通りに神殿の清掃をし、合流した子供たちと一緒に礼典を聞き終え、妻メリルと子供たちと神殿で別れる。

礼典を終えた神官長はギュストに清掃のお礼を告げ、その際に父ギュストは子供たちの話を神官長に聞いてもらい、子育てのアドバイスをもらう。

メリル「じゃぁ、私は先に帰っているわね。」

ギュスト「あぁ、子供たちを頼む。」

神官長「毎朝清掃の手伝っていただきまして、本当にありがとうございます。」

ギュスト「いえ、そんな。こちらこそ毎朝、うちの子供たちの話を聞いていただいて…。」

こんな当たり障りのない話から入り、大体は兄妹喧嘩の話になるのだ。

だが、ここ最近の話題は違っていて、身体の入れ違いについての話になり、込み入った話になるから人目に付かない個室で話すことが増えた。

神官長「それで身体の入れ違いについてはその後、変化はありましたか?」

ギュスト「いえ、それが全く。このままずっと戻らなかったらと思うと…どうしたらいいのか…。」

子供たちに心配をかけないように振舞ってはいるが、ギュストもメリルもまだ30代。若いため不安も多い。

神官長「私もどうにか戻らないかと色々書物も見ているのですが、なにぶん前例がないため参考になるものも見つかりませんで…。」

ギュスト「お手数をおかけして申し訳ございません。」

神官長「なにをおっしゃいます、これは精霊式で起きたこと。神のもとに起きた一大事です。」

ギュスト「子供たちは幸い順応性も高いので徐々に慣れつつはあるのですが、やはり入れ違った年齢が高くお互いの身体の変化に戸惑っているようで…。」

神官長「そうでしょうね。ましてや男女で入れ替わるなんて、お辛いでしょう。」

そんな話をしながら一向に進展がない毎日を過ごしている。


精霊スノウィング「あ、これって、あの子たちのお父さんだ。」

精霊ウンディーネ「早く本当の事をウィンディア様に報告しないと怒られるのよ。」

精霊シルフ「じゃぁ、お前が言えばいいだろ~!」

ウンディーネ「私は悪くないもん、シルフがいたずらしようとするからいけないんだもの!」

スノウィング「僕が驚いて間違えちゃったから…。」

ウンディーネ「シルフがその前に悪さしてたの!スノウィングはくしゃみで驚いちゃっただけじゃない。」

3人の精霊は父ギュストが神官長と話す度にこんな会話を繰り広げていたのだが、今日は違った。

守護神ウィンディア「ほほぅ。そんなことがあったのかや。」

精霊たち「え?!」

スノウィング「あ、あの、あの…ぼくが…!」

ウィンディア「数日前から聞いておったから誰が何をどうしたのかは存じておるゆえ、報告はいらぬ。」

シルフ「ウンディーネ!お前がちくったんだなっっ!」

ウンディーネ「ち、違うよっ!私じゃないっ。」

誰が守護神ウィンディアにばらしたのかという話になったところで、喝が入る。

ウィンディア「お主ら!みな黙りおれ!」

精霊たち「ご、ごめんなさい!!ウィンディア様!」

ウィンディア「誰からの報告かは言えぬが、まぁお前たちではないことを言っておく。なぜもっと早くに正直に言えなんだ。」

ウンディーネ「だってスノウィングが可哀そうだったんだもの。シルフが悪いのよ悪戯するから。」

シルフ「あの子たちいつも喧嘩してるってお父さんが嘆いていたから、いい気味だと思ってたの。」

スノウィング「僕が焦って加護を逆にしちゃったんだ、それで戻す時に魂を逆にしちゃって…言い出せなくて…ごめんなさい。」

ウンディーネ「守護神ウィンディア様が身体を戻す前に精霊の加護を終えちゃったの…。」

ウィンディア「……そうだったのかや。しかしのぅ…これは一大事なこと故、黙っているという事は赦されぬ。神々の集まりで報告しなければならぬのぅ。」

精霊たち「ごめんなさい…。」

ウィンディア「よい。身体を元に戻すのは別の物に依頼しておる故、お主らは何もしないことだ。」

精霊たち「わかりました…。」

闇の守護神ラーク「私も参りましょう。わが眷属が気づき報告しなければ、彼らの身体と魂はどうなっていたことか。」

ウィンディア「かたじけないのぅ。眷属のオロンと言ったか。よく報告してくれた。大事になるところだった。」

オロン「どうして大事になるんですか?」

ウィンディア「それは身体と魂が剥離した状態は長くは続けられぬ。次第に彼らの体調に影響し、衰弱してくるのだ。」

シルフ「なんだってっ?!そんな大事になるところだったの?!」

ウィンディア「そうじゃ、それだけの大事なことだったのじゃ。二度と黙っているような真似はせぬことぞ!」

3精霊たち「ごめんなさいでした…。」

オロン「あ、あのウィンディア様、ラーク様。教えていただきたいのですが…。」

守護神ラーク「どうした?何か他にもあったのか?」

オロン「いえ、僕があの兄妹のうち、お兄ちゃんの方を夜を怖がらせてしまいました。」

ラーク「それはいけないことだね。悪事に加担し続ければお前の魂が汚れてしまい、いつしか取返しがつかなくなる。」

オロン「はい、それはウィンディア様からも聞きました。そ、それで、夜が怖くないようにお兄ちゃんの”クムサス”と精霊契約をしようと約束しました。」

ラーク「なるほど、その精霊契約の方法を知りたいのだな?」

オロン「そうです。」

ウィンディア「しかし、精霊契約となると常に同じ人に使役される。お主の自由をうばわれかねんからのぉ…。」

オロン「それは分かっています!でもぼくは…!」

ラーク「ウィンディア様。この子はかなり律儀な性格でしてね…。たくさんの人に使われるより一人の方が向いているかもしれません。」

ウィンディア「なるほど。まぁ絶対に解除出来ない訳でもないからのぉ。よかろう。その時は私が見届け人となり契約を結んでやろう。」

ラーク「ありがたい。それでは参りましょうか。オロンお前もついてきなさい。」

ウィンディア「あ、うちの眷属共は置いておくからの。ついてくるなよ。また面倒でも起こされたらかなわんからのぉ。」

ウンディーネ&スノウィング「はぁ~い…。」

シルフ「げっ!見ようと思ったのに!」

ウィンディア「帰ったらお仕置きだからのぉ…覚えて居るがよいぞ。」

シルフ「はぁ~い…。」

その返事を待たずにウィンディア、ラーク、オロンはパッと瞬く間に消えた。

気づけば日はしっかりと登り、神官長と話をしていたギュストもとっくに帰っていた。



ギュスト「さて…と。今日の神官長との話の報告だが…。」

リアナ「また進展なしなんでしょ?」

最後まで話を聞かないリアナに母メリルが注意をする。

メリル「そう言わないの。神官長様もお父さんも忙しい中色々と調べてくれているのよ?」

リアナ「だってぇ~…。」

クムサス「そう言えば、数日前の晩に珍しい訪問者があったんです。」

ギュスト「珍しい訪問者?」

クムサス「はい、父上。以前僕に付きまとってしまった闇の精霊オロンを覚えていますか?」

ギュスト「あぁ…いたなぁ。またオロオロとしていたのか?」

クムサス「言え、そう言う訳ではないのですが、オロンがウィンディア様に相談する…と、言っていました。」

ギュスト「なに?!身体の入れ違いとウィンディア様に関係があるのか?」

リアナ「それがよく分からないの。聞いてもあまり答えてくれなくて…。」

メリル「そう……。でもこれは神官長様に報告をした方がいいわね。」

ギュスト「そうだな。朝食を食べたら神殿にみんなで一緒に行って相談してみよう。」

メリル「そうね。」

朝食を食べてながらそんな話をしていると、窓の隙間からヒュウッ!と風が吹き込んできた。

ほぼ食べ終えた状態であったからいいものの、手に持っていた温かかったはずのコーヒーが一瞬で凍る。

リアナ「わっ!寒い!」

ウィンディア「おっとと、済まぬのぉ。」

涼しい風と共に妖艶な美女が現れる。ウィンディアは水と冬の守護神だが天女の様な薄着である。この地方の人々は神殿の像で見ているため、皆知らないものは居ない。

メリル「え?え?えぇ?!ウ、ウィンディア様?!」

ギュスト「ウィンディア様?!どどどうしてここに?!」

オロン「こんにちは、お父さんたち。ぼくです、オロンです。」

ラーク「私は闇の守護神ラーク。我が眷属がその昔迷惑をかけたようで…。」

メリル「あ、あらあら!あらま。どうしたことでしょう?!」

守護神が2人も現れパニックになるキャロス家。一人冷静だったのはクムサスだ。

クムサス「オロン、お前、報告してきてくれたのか!律儀な性格だなぁ!」

オロン「う、うん精霊契約も学んできたよ!」

クムサス「僕もだ!先生にも聞いたし勉強したんだ!」

ラーク「おっとその前に身体を元に戻してからがいい。」

ウィンディア「そうじゃのぉ…。身体が入れ違ったままでは危ない…が、んん?珍しいな、逆になっているのに上手く定着しておる。」

ラーク「そうですね…意外なほどに定着している。安定しているが故に違和感がなかったことが原因で気づかなかったのでしょう。ふむ…。」

オロオロとしていたオロンが恐る恐る進言する。

オロン「雪の精霊スノウィングが間違えちゃうほど、この2人の魂はよく似ています。まるで双子みたいです。だからあのぉ…ここですぐに戻すのも危険かと思って…。」

ウィンディア「そうだのぉ。これではまた間違えてしまいそうだのぅ。」

ラーク「ならば2人の時に彼らで戻れるようにしましょう。」

クムサス「そんなことが出来るのですか?」

ウィンディア様がいないと出来ないとばかりに思っていたクムサスが質問する。

ラーク「出来ないことはないですね。我が眷属オロンがあなたと精霊契約をしたいと言っていましたし、このものに代理権限を与えましょう。」

ウィンディア「何から何までかたじけないのぉ、ラーク。」

ラーク「いえいえ、お安い御用ですよ。オロン、終わったら一度報告に戻ってきなさい。いいね?」

オロン「分かりました。ぼく頑張ってみます。」

着々と話が進む中、唖然とするキャロス一家。たまりかねて口を開いたのはメリルの方だった。

メリル「ところでどうして身体が入れ違ったのでしょうか?この子たちが何か粗相をしたのでしょうか?」

ふるふると震える両手を握りしめ、守護神ウィンディアに尋ねる。

ウィンディア「それは、実は我の眷属が間違えたようでの。申し訳なかったのぉ…。」

ギュスト「そ、そうだったんですか…ってっきり精霊式で何かやってしまったのかと。」

ウィンディア「そんなことはないぞぃ。ただ兄妹喧嘩をしょっちゅうしていることは聞いている。」

オロン「ウィンディア様。喧嘩は兄妹ではつきものです。だけどこの兄妹はお互いを思いやる心もいっぱいあるんです。」

ウィンディア「ほほほ!そうかや。ならばよぃ。ではオロン、そちに任せるでの!よろしゅうのぉ。」

オロン「はい。ウィンディア様。それとラーク様。ぼく頑張ります。」

ラーク「ではお邪魔しました。我々はこれで…。」

ラークとウィンディアがパッとその場から消え、オロンだけが残った。

リアナ「え?え?戻れるの?!」

メリル「………みたいね。」

ホッとし涙目になる両親とリアナ。クムサスは精霊契約でのオロン名前がまだ決まってなく、一人で思い悩んでいた。

オロンが「もう今すぐしますか?それとも落ち着いてからにしますか?」と聞くと、今が朝で学舎の授業の時間が迫っていることを思い出した兄妹は後で!と言い、朝ごはんを口に掻き込むのだった。



一日を終え、学舎から帰宅した兄妹は部屋で佇む。

クムサス「いいか、リアナ。明日からはもう戻りたいだろ?」

リアナ「もう入れ違えないと思うとちょっと残念な気持ちもあるの。明日にしない?」

クムサス「そう言いながら3日経ってるんだぞ、いい加減僕の身体を返せよ。」

リアナ「だって、お兄ちゃんの授業楽しいんだもの。」

オロン「精霊契約もしたいし、そろそろ戻ってほしいよぉ…。」

リアナ「お兄ちゃんだけずるい!精霊契約なんて滅多に出来ないのよっ?!なんで私じゃダメなの?」

オロン「だって僕が仕えたいのはクムサスだから…。」

リアナ「ずるぃ~!」

こういう所は妹らしく我儘だと思うのだが、精霊契約はそもそも精霊側から契約したいと願って初めて成立するものだ。無理に使役することは悪魔と契約するようなもので、あってはならない。

クムサス「仕方ないだろ…オロンについてはそもそもお前自身が蒔いた種じゃないか。文句を言われる筋合いが無いんだぞ。」

リアナ「分かってるけど…。なんだか寂しくて。」

クムサス「お前、我儘言ってたら僕に構ってもらえると思ってるんだろ。」

リアナ「バレてる…。だってお兄ちゃん、あんまり喋らなくなっちゃったから、つまんない。」

クムサス「ルーミラが居るだろ?」

リアナ「それはそれ!これはこれ!お兄ちゃんばっかりずるいのっ!」

クムサス「どういう意味だよ?」

リアナ「だってお兄ちゃん、ルーミラをお嫁さんにしたらみんなお兄ちゃんのそばに居ることになるじゃない。」

クムサス「な?!な!何言ってるんだよ!!別にルーミラとはまだ何も!」

リアナ「何も?(ニヤニヤ…。)」

クムサス(………こいつ~。)

そんな2人のやり取りをみてオロンがぼそりと口を挟む。

オロン「結局お二人は仲良しだから寂しくて戻りたくないんですね…。僕なんてラーク様に報告したらいいでしょうか…。」

その言葉を聞いて焦る兄妹。オロンは律儀だから冗談が冗談でなくなる。

リアナ「違うってっ!もう戻ろうと思ってたの!!ね?!お兄ちゃん。」

クムサス「あ、あぁ!そろそろ戻ろう!な?リアナ。」

リアナ「うん!もう戻るっ!ずっと戻れないのは嫌だもの。」

その言葉に待ってましたと言わんばかりに、オロンが呪文を唱え始める。

オロン「いいですか?お二人とも。もう元の身体に戻しますよ?さぁ願って…!」

リアナ「…はい。もう我儘いいません。」

そう言った途端、2人の目の前がぐらりと歪み、同時にしりもちを付いた。

クムサス「あ、ててっ!」

リアナ「痛~ぃっ!」

オロン「どうですか?お二人とも。戻りましたか?」

その言葉で両手をぐーぱーぐーぱーしながらクムサスが身体が戻ったことを確かめる。リアナは鼻や頬っぺたをつついていた。

クムサス&リアナ「戻ったぁ~!」

オロン「じゃぁ僕はラーク様に報告してきますね!」

リアナ「うん。オロンちゃん。これから私とも仲良くしてね!」

オロン「もちろんです!それではまた…。」

そういうとオロンはパッとどこかへ消えていった。

リアナ「お兄ちゃん、なんだか寂しいね。でもこれからはもっと仲良くしてね!」

クムサス「わ、分かったよっ。お前すぐそうやって恥ずかしげもなく言うんだから…。」

リアナ「何が?」

リアナにニコニコしながら言われ、顔を赤らめるクムサス。愛嬌たっぷりの妹には敵わない兄なのだった。

キャロス一家は当面、身体が戻った事への対処に苦労することになるが、兄妹で日課として一日の報告をしていたことと、あまり時間をかけずに元に戻れたたことが幸いし、徐々に元の生活を取り戻せていくのだった。

そして身体が戻るという朗報を聞き一番喜んだのは神官長だった。



オロン「ラーク様、身体を元に戻すことが出来ました。」

ラーク「キャロス兄妹のか。ご苦労だった。」

オロン「ラーク様の言う通りにしたら、すぐに元に戻ると言い始めました。」

ラーク「子供は悪戯好きだからな。少々おどかしてやったらもどるのよ。」

オロン「あれで脅かしたことになるのでしょうか?」

ラーク「ん?なに、お前が心配することでもない。また何か困ったことがあればいつでも相談しに来なさい。精霊契約を結んでもお前は我が眷属には変わりないからな。」

オロン「はい!ありがとうございます。」

周囲にいた闇の精霊たちは「ラーク様は策士だ。」とささやく中、オロンだけは「なんていい人なんだ。」と目を輝かせていた。

ラーク(オロンの生真面目さを考えれば、キャロス家の子供たちならすぐに戻ると言い出すと思いましたよ…フフッ。)

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