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第4話 馬術は苦手です

お互い騎士科の授業にも慣れてきた頃、馬術の授業が始まった。

馬術は3年生と4年生は合同での授業となる。上級生が下級生の生徒に付き、教えながら練習するためだ。

リアナは馬術の授業が今回初めてとなる。兄弟や知り合いがいる場合は指導係として担当することが多い。

リアナ「じゃぁ、リアナ…馬の乗り方を教えるよ。(自分で自分の名前を呼ぶのはなんだか変な気持ち…。)」

クムサス「”お兄ちゃん”、よろしくお願いします。」

複雑な表情を浮かべるリアナを見ながら、クムサスはつい笑いそうになる。

今日はウォレスやイースレイは別の学生を教えている。

狙ったわけではないが、馬術の授業があることを思い出し、騎士科へ進んだことにはお互いにホッとしていた。

建前上はリアナがクムサスを教えているのだが、何せ中身が逆だから教わっている風に教えなければいけない。

クムサス「お兄ちゃん、もしかしてお馬が怖いの?」

リアナ「うん…。馬に乗るとかなり高い位置になるでしょ…っじゃない、だろ?」

クムサス「お兄ちゃん、演技も下手だね…。」

リアナ(お馬に乗りながら、お兄ちゃんの演技なんてしてる余裕ないよぉ!)

クムサス(あまりこそこそ話をしていると先生に怪しまれるぞ。いいから普通にしてろよ。)

リアナ「どうしてもこの足を引っかけて馬にまたがるまでが勇気が要るの。」

クムサス「お馬に乗った後はどんな気持ちになるの?」

リアナ「う~ん…高くて、足元がぐらついて、そわそわする感じ……かなぁ…。」

リアナと木登りもしたことはあるが、苦手という訳ではなかったから高所は平気なのであろう。単に馬という生き物が苦手な気もして来た。

クムサス「お馬さんの目をじっとみつめて、優しくなでてあげたら仲良くなれるかもしれないね。最初の授業で乗りこなせる人はいないから今日は撫でてあげてもいい?」

兄の自分そっくりな演技に感嘆しつつも、リアナは馬という生き物自体が大きくて苦手だ。大きくてなんだか怖い。

クムサス「お顔が怖かったらほら、お腹の方に行ってそっと撫でてあげてみたら?お兄ちゃん。」

みんなそれぞれのペアで夢中になっているから少々ヘンテコな会話をしていても誰も気にしない。リアナはそのことにホッとしつつ、馬の腹に回る。

リアナ「こんな感じ?」

恐る恐る触ると、馬の腹は暖かい。

クムサス「そうそう、お腹を優しくなでて、それから少し顔を寄せて頬っぺたで温度を感じるの。ね?怖くないもんね?」

リアナは毛並みの良い馬の腹を撫でつつ頬を寄せる。頬に暖かい温度が感じられてなんだか落ち着く。

クムサス「そろそろ乗ってみようか?急に歩かせろとか走れとか言わないから。私が前に乗るけど手綱を持っておくね。」

リアナ「分かった。やってみる。」

そっと先にリアナが乗る風に見せかけ、クムサスは後から乗るリアナの手を引く。

クムサス「一瞬だけ足に力を加えるんだ。その後は、馬にまたがるように意識して。僕が手をしっかり引くから安心してろ。」

リアナ「“私”でしょ。リアナ。(自分だって時々間違えるんだから。むぅ!)」

クムサス「わざとだよ。はは。ほら。」

一瞬で手を引きリアナを後ろに乗せる。兄のこういうエスコートの上手さは普段から知っているが馬術の授業でもとなると感嘆としてしまうリアナ。

リアナ「すごい…!と、すごいな、リアナ。もう馬に上手に乗れるなんて。」

お互いにぎこちない演技をして目を合わせるたびクスクスと笑ってしまう。

クムサス「いきなり走ったら怖いからね。最初は乗ってから撫でてあげるんだ。」

リアナ「そうなの?」

クムサス「うん。馬は臆病だって父様が言ってたの。」

リアナ「そっかぁ…。」

二人でしばらく馬を撫でていると、いくつかのグループは馬に乗って走り始めた。その内、幾人かの下級生は涙目になり泣き始める。

時折こうして調子に乗った上級生が下級生にちょっかいをかけるため、乗馬がトラウマになる下級生も出てくる。そうなると指導係の上級生が交代になる。

早速とばかりに、ジェイドが交代の依頼をして来た。

ジェイド「すまない、クムサス。恥を忍んで頼むが、この子と妹君を交代してくれないか。」

リアナはまだ今日が初めての乗馬で下級生に教えるなんて出来る訳がない。

リアナ「無理だよ…そんな。」

クムサス「お兄ちゃんじゃなきゃ、怖くてお馬に乗れっこないもの。交代なんて無理だよぉ~。」

鳴きまねをして嫌がるそぶりをするクムサス。困ったような表情を浮かべるジェイド。

彼は滅多にこんな風に人を頼らないので不思議に思っていると、ジェイドの担当していた下級生が文句を言い始める。

ローガン「オレはもっと上手いやつにおそわりたいんだっ!お前の方が上手だって聞いたぞっ!」

この下級生はローガン・ディック。ディック家は公爵家で、このローガンという少年はかなり我儘で有名だ。我儘過ぎて公爵領の学舎から転校させられた程だ。

クムサス(まずいやつに目を付けられたな…。どうしようか。)

クムサスは乗馬も得意だ。剣術ほどじゃないが、そこそこの腕前だから、面倒な貴族位の子たちが押し付けに来たというところだろう。

クムサス「お兄ちゃんと離れるのは嫌だから、一緒にならいいよ。ディック君、それでもいい?」

その言葉に一瞬焦ったリアナだったが、兄クムサスは中々の知恵者だからきっと何か考えがあるのだろうと思い我慢する。

リアナ「リアナがそれでいいなら…。」

ジェイド「すまない、恩に着る。じゃぁ合同で教えよう。」

クムサス「ところでどうして交代なんてすることになったの?ジェイドさんは乗馬の腕前はお兄ちゃんよりずっと上手なのに。」

ジェイド「………!!それは!」

やむない自重があるのだろうと思ってはいたが、ジェイドが焦るため仕方なしに一瞬リアナから目を離す。

「恥を忍んで言うが、実はな」とジェイドから説明されるクムサス。なんのことはない、我儘すぎて色々な上級生にたらい回しにされて回るところがなくなってしまっただけなのだった。

ローガン「おい、お前!早く僕に馬の乗り方を教えろよ。」

リアナ「もうお馬には乗せてもらったの?まだゆっくり慣れていった方がいいよ。」

ローガン「さっきから何度も乗せてもらっている!なれるも何も馬に乗って走れと言えばいいだけだろう?!」

リアナ「でも最初はお馬さんも怖がるから、撫でてあげたりした方がいいよ。」

ローガン「なんだ?お前、さっきから“お馬さん”だって?!まるで女みたいだなっ!よく見りゃ顔も女みたいじゃないか!」

兄が気にしている女顔をからかわれ、そして言葉遣いに直球な指摘をうけて思わず黙ってしまうリアナ。

ローガン「なんだ今度はだんまりかよ。いいから早く馬に乗せろよ。」

リアナ「駄目だよ、ちゃんと言う事聞かないと危ないよ。」

横目で兄に助けを求めようとするが、侯爵家のジェイドと何やらコソコソ話している。

ローガンは我儘だけどディック公爵家、もう一方でジェイドはここフォード領の侯爵家。どちらにも立場が弱く、口を挟むことも出来ず上手く言い出せないリアナ。貴族位としては子爵家は立場が弱い。

そうこうしている内に、焦れて勝手に馬に乗ろうとするローガン。必死でリアナが止めようとするも乗馬階段を使って勝手に乗ってしまった。

リアナ「待って!ディック君。」

リアナは焦り、乗馬階段を使ってローガンの後ろに回り乗り込む。

リアナが馬に乗った直後、ローガンは思い切り馬の腹を蹴った。馬がいななき走り始める。

また運の悪いことに走り出した途端、別のペアが乗っていた馬とぶつかり、驚いた馬が全速力で始めてしまった。



ヒヒーンッ!!馬のいななきと共に振り返ると数メートル先に進んでいるリアナとローガン。クムサスは焦る。

クムサス「追いかけないとっ!」

ジェイド「何言ってるんだ。クムサスが乗っているんだから大丈夫だろう?」

クムサス「大丈夫じゃないっ!君の馬を借りるぞっ!」

そうこうしている内にまた別の馬にぶつかりそうになり、ローガンは落っこちる。幸いにも馬には蹴られずに大した怪我はなさそうだ。

問題があるとすればリアナの乗ったパニック状態の馬だ。

クムサスはジェイドが乗っていた馬に乗り、駈け出そうとする。その後ろにひらりとジェイドが乗り込んできた。

ジェイド「危ないだろう?!一人でいきなり馬に乗るなんて。」

クムサス「ジェイド、恥を忍んで言う。追いかけながら言うから黙って今は馬を貸してくれっ。」

ジェイド「どういうことだ?!」

リアナの乗った馬ははるか先に走り始めている。必死でしがみつくリアナを見てクムサスは気が気でない。

クムサス「実は僕が”クムサス”だ。」

ジェイド「何を言っている?!お前は妹君のリアナじゃないか。」

クムサス「違うんだ。精霊式の後、何故か僕とリアナの身体が入れ替わったんだ。だから“クムサス”に見えるが、あれはリアナなんだ。」

ジェイド「なんだって?!」

クムサス「いたずらなんかじゃない。まだリアナは馬に乗ったことがない。あれじゃ一人で馬を止めることが出来ない。」

ジェイド「お前がクムサスだって…?信じられない。だが…。」

最近になって騎士科の授業で弓に転向した事、性格が泣き虫になった事、そう言われれば今までの事に合点がいった。

ジェイド「…にわかには信じがたいが、今までの事をかんがえると、そうだな…。分かった、信じるよ。まずは追いつこう。俺が手綱を持つ。」

ジェイドが信じてくれたことに安堵するクムサス。

クムサス「ありがとう。ジェイド。恩に着るよ。」

ジェイド「やっぱりお前どこか頭でも打ったんじゃないか?素直にお礼言うなんて…。」

クムサス「うるさいな…。いつも突っかかってくるから苦手だっただけだよ。」

そのつぶやきを聞いてプッ!と吹き出すジェイド。

ジェイド「ははは!確かにお前の方がクムサスっぽいな!行くぞ、追いつこう!」

馬術は流石上流貴族というべきか、ジェイドはぐんぐんとスピードを上げていく。

一方で、幾人か事態に気づいた生徒が先生に駆け寄るもはるか先に進んでいるため追いつけない。また公爵家のローガンが落馬した方に気を取られ、先生はてんやわんやしていた。

クムサス「リアナ…ッ!馬を撫でながら落ち着かせるんだっ!リアナーッ!」

リアナ「お兄ちゃん、怖いよっ!お馬さんが走り続けるの。」

クムサス「馬を撫でて落ち着かせるんだ。さっきやったろう?!」

リアナは大泣きしながら振り落とされないように手綱を握りつつ馬の首を抱きかかえるようにして摩る。

リアナ「お願いお馬さん、落ち着いて。私も怖いよ。振り落とさないで…。」

すると馬がブルブルと言い始め徐々にスピードを落としていく。

クムサス「リアナッ!そのまま少しだけ手綱を手前に軽く引くんだ。決して腹は蹴るなよ。」

ブルブルと口から泡を出し、暴れそうになるのを堪えている馬をみてリアナは可哀そうになる。一瞬見えたが、ローガンが蹴った馬の腹から血が出ている。

リアナ「そっか、さっき思い切り蹴られたりぶつかったりして痛かったんだよね。待ってて。」

リアナは再度馬の首に抱き着き呪文を唱える。

リアナ「ヒーリング…。」

嘶いていた馬も痛みがとれ落ち着いてくると歩くのを止め、立ち止まった。

ジェイドと乗っていた馬からひらりと降り、リアナの乗る馬に駆け寄るクムサス。その馬の手綱を握ると、リアナの手を引きそっと馬から降ろした。

普段は飄々として感情を表に出さないクムサスも、リアナが無事だったことに安堵し涙が溢れた。

クムサス「リアナ…ッ!よかった!…本当に良かった!!」

リアナを抱きしめ泣きじゃくるクムサス。リアナも恐怖がまた後から遅いかかり、また涙を流れた。

リアナ「怖かったよぉ…!お兄ちゃんっ!」

しばらく抱き合って涙を流す光景を見て、ジェイドはこれは嘘でも夢でもなく、現実なのだと知るのだった。



クムサス「ジェイド。助けてくれてありがとう。」

リアナ「助けてくれてありがとう。ジェイドさん。」

ジェイド「本当に入れ替わってるんだな…。信じられない…と、さっきまでは思っていたが。今なら信じられるよ。」

クムサス「信じてくれるのか。本当に嬉しいよ。それでその…恥を忍んでお願いがあるんだけど…。」

ジェイド「なんとなく想像がつく。乗馬を“リアナ”に教えればいいんだろ?“クムサス”って言えばいいのか?」

笑いながら言うジェイドに「周囲に不自然だから見た目通りでいいよ。」とクムサスは言う。

ジェイド「なぁ、これって元の身体には戻れるのか?」

クムサス&リアナ「戻れるならとっくに戻ってるよ…!!」

そんな兄弟の嘆きを聞いたジェイドはこの後から色々な面での協力者となる。

因みにリアナには内緒だが、クムサスはウォレスとイースレイには身体の入れ違いをすぐに相談し、バラしてしまっている。

なぜリアナに内緒かというと、それは単にリアナが気を抜くと素が出てしまうからである。

クムサス(…女言葉をしゃべる僕なんて絶対に見たくない…。)




4.5話(閑話) ~お兄ちゃんの想い~


乗馬の授業を終えルーミラと帰宅するクムサス。

ルーミラ「今日の授業はどうだったの?専攻が一緒じゃないから寂しいわ。」

クムサス「ローガンって言うちょっと我儘な子がいてね。大変だったの。」

ルーミラ「あぁ、あのうわさが絶えない彼ね。大丈夫だった?」

クムサス「お兄ちゃんが助けに来てくれたからなんとか無事だったよ。」

ルーミラ「そう…。怪我がなくて良かったわ。そうだこれっ!」

家政科で作ったクッキーをルーミラが差し出す。いつもの事だが、ルーミラは2個くれて、一つは必ずクムサスにくれるのだ。

クムサス「いつもお兄ちゃんの分までくれてありがとうね。」

ルーミラ「何言ってるのよっ!知ってるくせに。」

クムサス「何を?」

ルーミラ「もう!意地悪言わないでよ。私がクムサスを好きなことは知ってるでしょ?」

クムサス(?!…うそだろう?え?えぇーっ!!??)

クムサスはこの日、ルーミラからのいきなりの告白をされ、眠れない夜を過ごすのだった。



リアナ「母様…。今日お馬が暴れた時にお兄ちゃんが助けてくれたの。」

メリル「えぇ?!怪我はない?大丈夫だったの?!」

リアナ「うん。私は大丈夫だったの、お兄ちゃんにも怪我はないよ。」

もじもじしながら母親に恥ずかしそうに言う。

リアナ「お兄ちゃん必死で助けに来てくれてね、その後いっぱい泣きながら心配してくれたの。」

メリル「…そう。」

リアナ「王子様みたいだったよ!」

少し興奮気味に言うと、メリルは人差し指を口の前に出し、

メリル「お兄ちゃんはね。王子様じゃなくて、騎士ナイトなのよ。」

リアナ「なんで?」

メリル「だってお兄ちゃん、ずっと好きな子がいるでしょう?」

リアナ「もう、知ってるってば!ルーミラでしょ?両想いなんだしさっさとくっつけばいいのに。」

あはは、と笑いながら言うリアナ。

メリル「王子様なら伯爵家のルーミラを簡単にお嫁に出来るでしょ?でもウチは子爵家だから…。認めてもらわないといけないのよ。」

リアナ「誰に?」

メリル「それは…色々な人によ。お父さんは私たちを守るためにクムサスが剣を頑張ってるって言ってたでしょ?それもあるのだけど…。」

リアナ「ルーミラのためにも頑張ってるってこと?」

メリル「ううん。クムサス自身のためよ。いつかお嫁に来てもらう時に認めてもらえるように頑張っているのよ。」

リアナ「そっかぁ…。」

メリル「でも剣はリアナには向かないわね。だから弓でしっかり頑張ってあげるのよ。」

リアナ「うん!分かった!でもお兄ちゃん、勉強はあんまり頑張ってないよ。」

メリル「そうね、そこはお父さんからガツンと言ってもらいましょうね。」

大きめの一軒家とは言え、会話は割と筒抜けで。またもクムサスは自室で顔を赤らめ俯くのだった。

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