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第2話 ヒヤヒヤな入れ違い生活

クムサス「…おはようございます、母上。」

メリル「”おそよう”ね、”クムサス”。さぁ、顔を洗ってらっしゃい。」

翌日になって起きて来た“クムサス”を確かめてから、ギュストとメリルは困ったと目を合わせ、肩をすくめた。

ギュスト「いよいよ腹を括らないといけないな。」

クムサスが顔を洗っていると、リアナも起きたようで部屋から出て来た。

リアナ「おはようございます。父様、母様。」

メリル「はい、おはよう。リアナ。」

チュッとおはようのキスをおでこにする。

顔を洗い終えた2人が、食卓に着いたところで、家族4人は手を組み合わせ「今日の糧に感謝し、いただきます。」と食事を始める。

ギュスト「さて…と。食事をしながらでいい。聞きなさいお前たち。」

クムサス&リアナ「…はい…。」

リアナ「畏まらなくていいわ。だって、私達にもどうにもできないもの!」

クムサス&リアナ「えっ?!」

いきなりの報告に驚いた二人が同時に声をあげる。

ギュスト「こほん…。今朝早くにメリルと神殿へ行って神官長と話をして来た。そこでお前たちのおしゃべりの件は聞いた。しかし原因はよく分からなかった。…以上だ。」

クムサス「そんな…身も蓋もない…。うそだろ、父さま。」

ギュスト「ははっ!驚きのあまり“父さま”になってるぞ、”クムサス”。」

ただな…とギュストは続ける。

ギュスト「お前たちが日頃喧嘩が絶えず、お互いに意地悪ばかりし合っている。だからこれは守護神ウィンディア様の天罰だ。という事になった!」

メリル「クムサスとリアナの身体が入れ違ったことは、神殿でも神官長様しか知りません。だから、私達は考えました。」

ギュスト「そう、メリルと昨晩から考えた結論を言う。」

ごくりと、2人は喉を鳴らす。ご飯を食べるどころではなくなって来た。

ギュスト「お互いに身体が入れ違ったまま、それぞれの生活をしてみなさい。」

メリル「クムサスはリアナとして、リアナはクムサスとして生活するのよ。」

ギュスト「性別を偽ってクムサスが男装、リアナが女装…と、どっちがいいかと母さん(※メリル)と話したんだがな…。」

メリル「それは無理があるっていったでしょっ!大体、服や学舎での着がえはどうするの?!」

ギュスト「だよなぁ…。服のサイズも違うし…。我が家は由緒正しき『貧乏貴族』。そんな訳で父さんと母さんの事を考える義務がお前たちにもある。」

うそだろ…。と頭を抱えるクムサス。

メリル「まぁ、戻るまでの辛抱よ。」

リアナ「本当に戻れるのかしら…。」

泣きそうになるリアナにギュストは言う。

ギュスト「父さんたちもどうしたら戻れるのかは分からないが、引き続き神官長と話をしていくつもりだ。内密に…だ。だから、あまり心配をするな。」

リアナ「はい…。」

クムサス「………勉強は?リアナとは学年が違うじゃないか。」

と言いかけたクムサスを制し、ギュストは更に続ける。

ギュスト「で、だ!!いいか、2人とも!これは仲良くしなかった罰だ。天罰だ。」

クムサス「だから…??」

ギュスト「勉強はクムサスは一学年上だからいいだろうが…リアナは優秀だ。常に学年5位以内。だからお前も順位をキープしなさい。」

クムサス「げ…。」

クムサスは順位は悪くないものの、勉強はあまり好きではない。苦虫を嚙み潰したような顔になる。

メリル「メリルは一学年下だから、お兄ちゃんの勉強までしないといけないわね。まぁあなたなら出来るでしょう。」

リアナ「うんっ!お勉強は好き!頑張るっ!」

メリル「でもね、リアナ。お兄ちゃんは騎士科に入っているでしょう?それと身体が戻った時のことも考えておきなさいね。」

あ…。と今度はリアナが苦虫を嚙み潰した表情になる。リアナも運動音痴ではないし、魔法は得意だ。

だが、クムサスは騎士科でしかも特待生をもらうくらいに強い。剣や弓術は学年でも常に首位になるくらいの強さだ。

ギュスト「リアナには私が稽古をつけてやろう…と言いたいところだが…。」

メリル「お父さんはリアナに甘いでしょう?」

だから…とメリルは続ける。

メリル「さ…、ご飯を食べたらお勉強と魔法と剣の稽古をするわよ。ギュストだけじゃ、子供たちに甘いから私もお手伝いします。」

忙しくなるわね…と、ニコニコしながらメリルは言う。

この後、学舎で新学期が始まるまで、メリルの厳しい訓練が始まる。この時の母メリルの怖さをギュストを含め、兄妹は障害忘れない。



時は流れてソルダムの花が咲き、雪流の月の中月を過ぎるころクムサスとリアナは学舎で学長の長い話を退屈そうに聞いていた。

学舎は一般教育の語学、算学、歴史学の他に、必須の選択科目として騎士科や家政科がある。必須外であれば商道・社交・薬草学と色々あるが、学びたい教師の授業を個人で申し込みをする。

男子の多くは騎士科へ、女子の多くは家政科を選択することが多い。

家政科で裁縫や料理など家庭に入る女子に必要なカリキュラムが一通り入ってる。一部、仕立て屋や料理人を目指す男子もまれにだが選択することもある。

騎士科は主に貴族男子向けの授業で、兵法や地理学などを学ぶ。これは領地や家を継ぐ継がないに関わらず、自治の役割を果たす兵士や砦の兵士を目指すものも学ぶ。

その他、剣・槍・弓・盾の体学、魔法を扱う詠唱学とある。魔法は、回復・解呪の司祭魔法から、光と闇を始め火・水・風・木・金の7つの精霊を使役する精霊魔法があり、魔方陣や水晶を使う呪学もある。


学舎では成人を迎える16歳までは年齢ごとに階が分かれていて、11歳を迎えるまで最寄りの神殿で読み書きを習うことが多いため、ほとんどが12歳からの入学になる。

学舎は一般的には貴族や商家向けだが時間に余裕さえあれば平民も通うことが可能だ。

学舎はグイオッド国の王・公・候の各領地に最低2つは義務付けられ、ここフォード侯爵管轄区も2つあるが、毎年の入学者はおよそ60名程度になる。

17歳~以降は各機関の研究員などに進み、配属場所もバラバラだ。その配属機関から出張して地域の学舎へとして教師として招かれる。


そんな説明を、入学式に合わせ学長から聞かされるので一度聞いた生徒は飽きて大体がぼ~っとしている。

学長「え~…であるからして…生徒諸君は勉学に励み、そしてこの学び舎から大きく羽ばたいていくことを…。」

クムサス(…まるで卒業式の様な祝辞だなぁ…。)

ぼんやりとクムサスがそんな事を考えているとタイムアップと言わんばかりに、教頭がチャイムを鳴らす。

学長「あ~、ではここいらで私からの言葉を終えます。」

よぼよぼのお爺さんが出て来て長くも30分も話をするものだから、入学生の子たちはすでにお疲れ気味の様子だった。

クムサスはようやく4年生…と言いたいところだったが、リアナと身体が入れ替わったものだからまた3年生のやり直しである。

イースレイ「やーっと終わったよ。学長の話はいつも長い!」

ウォレス「だよね~。ほぼ学長の話でいつも終わるんだ。」

クムサスの同級生、ウォレス・ザイオンとイースレイ・スノウが言う。

ウォレスは本が好きでちょっとオタクっぽいが火魔法が得意な男爵家の次男坊。イースレイは商家の出だが幻獣使いと言う珍しいスキル持ちでクムサスは気に入っている。

クムサス「だね!…っ!!お兄ちゃんのお友達…。」

リアナ「そうそう。学長の話は、いつも長いんだ。眠くなっちゃうよ。」

クムサス&リアナ(………あぶない。身体が逆なのをつい忘れてしまう…。)

クムサス「リ…お兄ちゃんっ!ルーミラが待っているから、そろそろ教室に戻るねっ!」

ウォレス「リ、リアナちゃん!またねっ!」

イースレイ「おー!妹ちゃん!またなっ!」

クムサス「うんっ!またね!」

クムサス(リアナ…頑張れよっ!)

手を振りながらクムサスは3年生の教室へ去っていく。

リアナ(お兄ちゃん、ずるいよぉ~。)

リアナは心の中で嘆く。ルーミラはリアナと同年代でキャロス兄妹ののいとこに当たる。日頃交流もあり、クムサスとも仲が良いため性格などもよく知っている。

対して、リアナはクムサスの友達とはあまり面識がない。クムサスは彼らを時折家に招くものの部屋にこもり何やらコソコソと密談していることが多い。

故にクムサスの友達の彼らの性格はあまりよく知らないのだ。

リアナ「さ、さぁ!教室に行こうぜっ!?」

ウォレス「あ、そろそろ急がないと、ポタコール先生の授業が始まってしまうよ。」

イースレイ「おっと、そうだな!」

急ごうぜ、と彼らも4年生の教室に向かう。


ポタコール先生は薬学の教師で、20代後半の女性の先生だ。グイオッド国での女性の平均結婚年齢は18歳で、20代後半で独身である彼女は少し珍しい。

ガラスの分厚い眼鏡で目が巨大に見えるせいか、顔がよく分からないことが原因だろうか。

学舎の授業で選択科目がいくつかあるけど、クムサス達は共通でこの薬学の授業を選択している。

ポタコール「皆さんが4年生を迎えられたことを嬉しく思います。3年生までは薬草・きのこについて学んできましたが、4年生からは鉱物について学んでいきます。」

リアナ(………ふむふむ。へぇ~、楽しい!私も薬学にすればよかったなぁ。母様に勧められて社交学にしたけど、もったいなかったかしら?)

ポタコール「それでは、クムサス・キャロス君。こちらへ来て、黒板へ回答を。」

いきなり呼ばれて驚くリアナ。えっと、回答を黒板へ書けばいいのね…。

リアナ「はい。」

リアナ(えっと、鉱石における効能を答えよ…かぁ。漠然とした問題ね。)

すらすらと黒板へ回答を書いていくリアナ。

ポタコール「素晴らしい回答ね。ではこの回答を読んで、回答に対する説明を皆さんへしていただけるかしら?」

この時、リアナは自分がクムサスであること、そして、普段のクムサスの授業については全くお互いにすり合わせていなかった。

リアナ「まず、ヴィント鉱石における説明から始めます。1500年前に発見されたこの鉱石は……また鉱石とは魔法における陣を刻んだり呪術を加えることで……薬物としては毒になり…。」

クラスの一同は最初こそ、どよどよしながら聞いていたが説明が進むにつれ、唖然とした表情になり、次第にどよめき始めた。

「キャロス君って、成績は良いと思ってたが、ここまですごいとは思わなかったな。」「すごいわ、これなら薬学でも特待生をもらえそう…。」

終講のチャイムが鳴り、イースレイにかけられた一言でリアナはハッとする。

イースレイ「すごいな、“クムサス”!!いつも授業じゃやる気なさそうなのに!」

ウォレス「いつも眠そうだし、聞いてなさそうなのに答えるから、クムサスはすごいんだよ。でもこんなに生き生きと答えを説明するのは初めて見たよ。君、薬学はあまり好きじゃなかっただろう?」

リアナ「え?あ…はは!うん!ちょっと鉱物は気になっててねっ!」

リアナ(お兄ちゃん、授業ではあんまり真面目じゃなかったんだ…成績良いからてっきり真面目に受講してるのかと思ってた。早く戻りたいよ…。)

そして、更に続くイースレイの言葉にリアナは一瞬固まる。

イースレイ「明日は騎士科の授業だよな。更衣室が混む前に行こうぜっ!」

この瞬間からリアナはどうやって他の人の裸を見ずに着替えれるか、悶々と考えながら過ごすのだった。



一方で3年生の教室へたどり着いたクムサスはルーミラを探す。キョロキョロとしているクムサスに声が掛けられる。

ルーミラ「リアナ!こっちよ。」

にこにこと声を掛けてくるルーミラにほっとするクムサス。

クムサス「ルーミラ!探したんだよ。またこの教室になるなんて、びっくりだけど。」

ルーミラ「なぁに?リアナ、変な話し方。それに“また”なんて、どうしたの?今年から3年生よ?」

クスクス笑いながら「クムサスの真似でもしているの?」とルーミラは言う。

クムサス「あ、えっと、うん。お兄ちゃんの真似。」

えへへと出来るだけリアナのモノマネをしながら笑う。

ルーミラ「リアナは3年生からは必須の選択科目があるでしょう?もちろん家政科に進むのよね?」

クムサス「あ~、えっと!私、騎士科に行ってみようと思うの。」

ルーミラ「えぇ?!この間まで、家政科って言ってたじゃない。一緒じゃないなんて、寂しいわ…。

 それに運動は好きじゃないでしょう?いつから騎士科を考えていたの?」

クムサス「あの…ね、実は回復魔法に少し興味があって、やってみようと思うの。えへへ…。」

ルーミラ「あぁ!確かに体術より回復魔法ならリアナにピッタリねっ!」

残念がるルーミラを横目に、クムサスは内心で詫びる。

クムサス(………ごめん、リアナ、ルーミラ。ルーミラとずっと一緒だとボロが出そうなんだ。それにリアナが家政科に行くなんて僕には想像つかない…。)




帰宅後、一日の報告と授業の内容を教え合うことを母メリルから言い渡されている。

クムサス「リアナ、今日の帰りにポタコール先生に声をかけられて驚いたぞ。お兄さんは素晴らしいですね!だとさ。…お前、薬学の授業でずいぶん張り切ったらしいな…。」

リアナ「お兄ちゃんこそルーミラに聞いたわっ!どうして家政科に入らなかったの?!」

クムサス「それは、お前…っ!」

クムサスはごにょごにょとリアナに聞かれないように文句をつぶやく。

リアナ「はっきり言ってくれないと聞こえないよ。お兄ちゃん、都合が悪くなるといつもそうやってブツブツ言うの嫌だよ。」

リアナはクムサスには割とはっきりとモノを言う。両親もリアナに甘く、クムサスもあまり強く言えない。

だけど時折こうやってブツブツ言うことにも文句を言われるとクムサスはたまらない気持ちになる。

クムサス「うるさいなっ!騎士科に入りたかったんだよ!大体、ルーミラとずっと一緒だとバレちゃうだろっ!」

リアナ「なによ…お兄ちゃんはルーミラを知っているからいいけど、私はウォレスもイースレイもあまりよく知らないの。大変なんだから!」

クムサス「よく知ってるルーミラは返って勘がするどいからバレちゃうんだ。ウォレスとイースレイは性格が大雑把だから意外と大丈夫なんだよ。」

リアナ「そんなこと言ったって!」

クムサスとリアナがいつもの様に言い合いを始めると、メリルが止めに入る。

メリル「いい加減にしなさいっ!どうしていつも喧嘩ばかりするの。」

リアナ「だって、お兄ちゃんが勝手に騎士科に進むって決めたんだもの。」

クムサス「必須の選択科目を決めるのが3年生の初日だって思わなかったんだ!」

メリル「リアナは家政科がいいって言ってたでしょ。相談なく決められると嫌でしょ、クムサス。」

クムサス「だって…。(リアナが家政科なんてありえないよ…あんなに味音痴で、不器用なのに…。)」

こういう時、母はリアナの肩を持つようなことを言う。クムサスは言いたい事があるけど、言えばリアナを傷つける事を知っているし、母メリルもそれを知っていて言わない。

メリルも家政科よりは騎士科がいいのではと思ってはいたが、家政科は何も料理と裁縫だけではない。若干の淑女教育も兼ねている。頭を悩ませていたためクムサスが決めたことにはむしろホッとしているくらいだった。

リアナ「ほら、母様だって言ってるじゃない。」

クムサス「悪かったってば。」

リアナ「ちゃんと誤ってくれないと納得できないよ。」

メリル「ほらリアナもあまりクムサスを責めないのよ。」

そしてリアナも母メリルに対して「最終的にお兄ちゃんをかばうんだから…。」と頬を膨らませるのだった。

こうなってくると収拾がつかないので兄妹喧嘩を強引に打ち切り、勉強しなさいと言って2人を席に付ける。

父ギュストが帰ってくると喧嘩をした重々しい雰囲気の中、両親は「また喧嘩か…。」とばかりにため息をつくのだった。


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