第一話
お詫びと御願い:
この作品は2024年4月頃、こちらに掲載したものですが、2024年11月に小説投稿サイト「ハーメルン」にも転載しております。
ハーメルンでは一般社団法人日本音楽著作権協会 (JASRAC)、株式会社NexToneからの許諾により、投稿小説の「サブタイトル・前書き・本文・後書き」においてJASRAC管理楽曲・NexTone管理楽曲の利用が許諾されています。
これによりハーメルン版の「魔王カラオケすみれ」は作中に登場する歌詞がそのまま掲載された、「完全版・魔王カラオケすみれ」となりました。
宜しければ是非、当作品はハーメルンにてお楽しみ下さい。
完全版・魔王カラオケすみれ(小説投稿サイト・ハーメルン)
https://syosetu.org/novel/359561/
カラオケスナック「すみれ」が転移して来てから一か月半が経った。日本は今頃夏も盛りだろうか。
カラオケスナックの店員であり異世界転移者である私は、浪人生でもある。だから仕事と勉強を両立させなくてはならない。
私の勉強部屋は店ごと異世界転移してしまった、カラオケスナック「すみれ」のカウンターだ。私が開店前の店で英単語の暗記に取り組んでいると。
「ワーハハハ! もう逃げられんぞ人間め!」
店の外の、魔王城玄関ホールで騒ぎが起きる……ああ……魔王軍に敗北した冒険者が、生け捕りにされて連れて来られたのだろうか。私は店の入り口に駆け寄り、扉を少しだけ開けそっと外を覗き込む。
きゃああ! あれは女騎士ですよ! そうに違いない、本当に居るんだああいう人、レオタードの上に鎧を着て長いブーツを履いて剣と盾を持ってて……その剣と盾は、オークの皆さんに取り上げられてしまったようだが。
ど、どうなるの? 今からあの子どうなるの? めちゃくちゃスタイルのいい可愛い子だけど、やっぱりあんな事やこんな事をされてしまうのか!?
「ちょ、ちょっといい?」
「ヒエッ!?」
扉から外を覗き見していた私は、後ろから声を掛けられて飛び上がる。振り向くとオークのおじさん……青い肌の亜人ではなくイノシシ獣人系のオークのおじさんが一人、困った顔をして首の後ろを掻いていた。
「シーッ、ごめんね裏口から入って」
オークのおじさん達は今日も仕事の定期パトロールをしていたのだが、その途中で、あの女騎士が落とし穴に掛かっているのを見つけてしまったという。
「普段は女の捕虜はハーピー達が預かってくれるんだけど、あいつら空中部会の慰安旅行に行ちゃっててあと四日は戻らないんだ、どうすりゃいいのか解らなくて」
「えぇ……牢とかに閉じ込めるんじゃないんですか?」
私があくまで一般論としてそう言ってみると。
「ええっ、女の子をトイレも風呂もない衝立一つない牢に入れるのか!?」
オークのおじさん達はまん丸に目を見開きドン引きしてそう言う。何ですかそれは。
「あの……そういうのがイヤなら解放しちゃえばいいじゃないですか」
「そ、そんな簡単に言わないでくれ、捕まえちゃったものはしょうがないだろ! 俺達だって魔王軍の端くれなんだ、何か嫌がらせくらいしないと」
私とオークのおじさんが、店の入り口でそんな話をしていると。
「うるさいなあ……」
店の隅のボックス席で横になっていたゴルゴン三姉妹の三女メデューサ様が、被っていた膝掛けにくるまったまま起き上がる。
「え……ああっ、メデューサ様! ちょうど良かった、メデューサ様に御願い出来ませんか!? 我々はうっかり女騎士を捕まえてしまって困っていたのです!」
大変困る事なのだが、オークの皆さんは捕まえて縄を掛けた女騎士さんを「すみれ」の店内に連れて来た。ここは健全なカラオケスナックですよ! そんな、真面目でプライドの高そうな女騎士さんをいたぶるのに使われてはいけないのだ。
「あの皆さん、ここはカラオケスナックです、乱暴な真似はやめて下さい」
私は一応、バックヤードの入り口からそう呼び掛ける。でも少しだけ、あの女騎士さんがどんな目に遭うのか興味もあったりする。
「ほほう、人間共の女騎士を捕まえたのか!」
ああっ、魔王軍の若手幹部の一人、バルロッグ様もやって来た……
メデューサ様が、縄を掛けられてひざまずいている女騎士さんに近づいて行く。
「殺すならさっさと殺せ、私は命乞いなどしない!」
気高くそう叫ぶ女騎士さん、そんな、命を粗末にしてはいけない! だけどきっとモンスター共はそう簡単に女騎士さんを殺したりはしないのだ、どうなるの? これからどうなるの? ドキドキ。
「ほーん。命はいらないって? 随分簡単に言ってくれるじゃん、アンタ生まれた瞬間から一人で生きて来たのか? この年まで誰の力も借りずに育ったのか」
「わっ、私には立派な父母が居る、もちろん父母の恩を忘れるものか! 私はただ、貴様ら魔物に膝を折ってまで生きる気はないと言っているのだ!」
メデューサ様は尚も殊勝に叫ぶ女騎士の顎に手を触れ、持ち上げる……
「そんな強がりを、いつまで言っていられるだろうね? あーあ、時間外労働なんて面倒くさいけどしゃーない……立ちな、アンタ」