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007.模擬戦と受付嬢たち(2)

前話の内容を少し変更しました。

前)依頼にて帰っていない


修)護衛依頼にて帰っていない。


 エンバーはゴードンを見据え、口を開く。


「……分かりました。胸借ります!」


 エンバーはその場で身体強化を発動する。

 初めはお互い牽制のつもりか、出方を伺っているのか動かない。暫しの間牽制していたが、初めに動いたのはエンバーであった。身体強化にギフトを掛けた「力のゴリ押し」でエンバーはゴードンに迫る。

 遠心力で振られた棍棒をゴードンは大剣で受け止める。この攻撃によりゴードンの腕がビリビリと痺れるが、気にする猶予もなかった。

 そこで発生する音は、おおよそ木と木がぶつかり合ったとは思えないほどの轟音を生み出した。


 エンバーはぶつかり合った衝撃を流し、次の攻撃への動きへと移る。当然、ゴードンはこれが分かるわけだが、戦闘中とは言え、エンバーの動きに対し感心していた。まさか、これ程とは、と。エンバーの年齢は10歳。王都や町に住んでいれば、塀の外に出たことのないといった者も多くいるような年齢だ。そんな年齢の子供が、自身の腕を痺れさせるような攻撃を初っぱなから打ち出してきたのだ。

 はじめ、ゴードンはこの模擬戦で負けるなんてことは頭の中では考えてすらいなかった。しかし、ゴードンはこの初撃を身体で感じ、考えを改めた。これは、多少本気を出さねば倒されると。


 ゴードンは手に持つ大剣を最小限の動きで、エンバーの攻撃に合わせて胴へと袈裟斬りの要領で斬り上げる。攻撃の合間に、棍棒を振る一瞬の隙を突いて攻撃してくるとは考えていなかったのか、驚愕の表情を露にする。しかし、持ち前の反射神経を駆使してなんとか棍棒での防御に成功した。が、ゴードンとのエンバーの体格差からエンバーは遠くへと吹っ飛ばされてしまう。


「ぐぅッ!」


 10メートルほど飛ばされたが、なんとかきれいに受け身を取ることに成功する。

 受け身に対しホッとし、ゴードンへと視線を向ける。しかし、そこにゴードンの姿は既になかった。

 何処だ!? と頭の中で考えるが、答えは素早く、自然と出た。あの時、リングをテイムするときに見せたあの豪快で、華麗な飛躍。エンバーは咄嗟に上に棍棒を上げ、守りの体制入る。そしたら案の定、ゴードンは既にそこまで迫っており、ゴードンの大剣と鍔迫り合いをする。


「これも防ぐかッ!」


 2つの木の武器はガコーンッ!という音を響かせる。

 ゴードンは驚愕半分、愉快さ半分といった声で反射的に口を開いた。

 防いだはいいものの、やはり体格差というのはデカく、下になったエンバーはゴードンの重さに潰れかける。

 このままでは不味いと思ったエンバーは、鍔迫り合いの状態から無理やり軌道を左へとズラす。

 すると案の定、エンバーの思惑通り、ゴードンの大剣は少しズラすだけでゴードンの重みとともに地に沈み、辺りに砂煙がモクモクと辺りを舞った。

 鍔迫り合いから解放されたエンバーは身体強化を駆使してバックステップでゴードンから離れる。


 ゴードンから離れる最中、初めてエンバーは光合成(昇華)を使った。ギフトで強化された光合成により自身の体力と魔力が回復していくのが分かる。だが、体力と魔力が溢れると悪い予感がするため、9割程度まで回復させると光合成を停止させた。


 モクモクと舞った煙の中から出てくるゴードンを見て、エンバーは考える。どうすれば、ゴードンに勝てるのかを。正規の攻略(正面からの殴り合い)ではまず不可能だろう。色々と要素は多いが、やはり大きいのはエンバーとゴードンの体格差だ。先ほど吹っ飛ばされたのも、鍔迫り合いの時もそうだ。

 ならば、勝利への道は一つ。不意を突くしかない。

 エンバーはふぅーと息を吹くと、先から考えていた作戦を実行に移すことを決意する。


 エンバーは再度、未だ砂煙に巻かれているゴードンに急接近する。当然これにはゴードンも気がつき、再度大剣を構える。

 ゴードンは接近してきたエンバーに多少の違和感を抱いた。明確にどこの、と聞かれれば迷うが、違和感を感じる。こういった場合は、変に出るより守りに徹するのがお決まりである。

 案の定、エンバーはいつもと違う挙動を見せた。なんと、ゴードンの目の前で棍棒の持ち方を逆手に変え、投擲の姿勢を見せたのだ。当然これには、ゴードンも、これ(模擬戦)を見ている共鳴の方舟(レゾナンス)の面々も驚愕を見せた。ゴードンは違和感はこれかという合点を感じ、投擲を潰しに掛かる。ゴードンはこの時、再度違和感を抱く。果たして、相手の目の前で、隙だらけの投擲なんて手段を取るのか? と。

 そして、その違和感は見事に的中した。エンバーは棍棒の先端を地に着け、ゴードンが先ほど剣で掘った凹凸を軸に棒高跳びをやってのけたのだ。なんと、投擲と思われていたその姿勢は、投擲ではなく棒高跳びの姿勢だったのだ。


「なッ!?」


 これには思わずゴードンも声が出てしまう。投擲を受け止めようとしていた体制から無理に変えることは出来ず、自身の上を()()()飛び越えるエンバーを黙ってみるしかなかった。

 この模擬戦において、エンバーはまだ、一度も加速を使っていない。理由としては、ゴードンへの不意打ち用に秘蔵していたかったからだ。検証のときに感じたが、ゴードン含め、共鳴の方舟(レゾナンス)の面々は加速について勘違いをしている。これは単に、足が早くなるだけではないのだ。その真の効果とは、『その動作事態が早送りのようになる』というものだ。通常、身体強化で足を強化し走り幅跳びをしても、ジャンプ事態は助走の力をもって距離が伸びるものだ。しかし、この加速は違う。加速を使用して走り幅跳びをした場合、助走からジャンプまでの行動が「速まる」だけなのだ。

 今回の場合、エンバーは「ゴードンの上を飛び越える」という動作が加速(昇華)を経て高速なったのだ。その時間、実に2秒ほど。棒高跳びをする棒を地に着けてから二秒でゴードンの背後を取ったのだ。


 しかし、当然といえば当然だが、棒高跳びをしたことでエンバーには手元にある得物がない。ゴードンの背後を取ったのはいいものの、攻撃手段がなくては意味がない。しかしエンバーにとっては、これも想定済みである。ここで出るのが『ウィップ』の技能である。唯一、ゴードンがギフトを使った状態を見ていないこの技能で出来ることは、ギフトを掛けたとしても少ない。足にツタを巻き、外で会った三人娘たち程度の足止めくらいなら可能であろうが、ゴードンの足止めというのは流石に荷が重い。しかし、このツタは汎用性が非常に高い。先も言った通り、足止めも出来れば、()()()()()()()()()()

 これでお分かりだろうか。エンバーはこのツタを使い、ゴードンの付近に落ちている棍棒を掴み、エンバーの方へと放り投げた。加速(昇華)の技能を使って、である。端から見れば高速に見えるかもしれないが、エンバーから見たら周りの動きが遅く感じているため、難なく棍棒をキャッチする。


 エンバーは棍棒を握りしめ、フルスイングの要領で渾身の一撃をゴードンの横腹に思いっきり叩き込み、この模擬戦に勝利する。……はずであった。この時、エンバーは勝機を感じたからか、多少気が緩んでしまった。


「ぅぅううおおおおりゃゃゃゃああアアッ!!!」

「なッ!?」


 一歩、遅かった。

 ゴードンは先輩としての意地を見せたのだ。

 エンバーの気配を感じ、無理やり身体を動かしエンバーへと大剣を振り回した。

 いつものエンバーであれば、持ち前の反射神経でギリギリ避ける、あるいは受け流すことが出来たであろう。しかし、勝機を感じ油断したことで、動き出しが遅れてしまった。

 エンバーは棍棒をフルスイングの構えで持っていたことが災いし、腹部にモロにゴードンの大剣の攻撃を食らってしまう。


「ガッ、、、ァ……」


 強烈な痛みが頭を支配した次の瞬間には、エンバーの視界は真っ暗に染まっていた。


 この時、模擬戦の勝者が決まった。ゴードンに、一抹の罪悪感を感じさせながら。



 * * *



 ところ変わって、ここは早朝の冒険者ギルド。

 今の季節、大変とはいえ早朝は比較的平和な時間、もとい、嵐前の静けさと言ったところか。この時間は職員たちが嵐への対応をするための準備期間であり、心の準備をする時間でもある。

 しかし、この時間にも業務はある。その業務の一つとして、発行されたギルドカードの受け渡しがある。現在、エレイナが行っている業務がそれだ。


「えーっと、それでは、これがエンバー君のギルドカードになります。失くすと再発行には2500オーア掛かりますので、失くさないようにしてくださいね」

「……はい」


 トボトボと歩く少年--エンバーの事を見送る。

 エレイナは少年が歩いていくところを見ると背後を振り返る。


「ほらー。ニカちゃん、出ておいで! 隠れんぼは終わりですよー!」

「ちょ、先輩、声! 声!」


 物陰に隠れたエレオニカが口の前に指を置き、シーッ!というジェスチャーを取る。そんなエレオニカに呆れたのか、エレイナはやれやれ、しょーがないなといった、絶妙にウザイ顔でエレオニカを見る。


「まったく。そんなに()()なのが嫌なの?」

「そういう訳じゃ……ないですけど」


 エレオニカはうつ向く。

 そう。何を隠そう、エンバーとエレオニカは同じノース村の出身。同郷なのだ。

 初めて顔写真を見た時、エンバーの出身の欄の事項は他の者の用紙にて遮られていたため、その時に気がつくことはなかったのだ。更にエンバーに見覚えがあると思ったのは、エンバー自身ではなく、エンバーの父の少年期の写真を見たことがあり、それをエンバーと勘違いした為であった。


 だが当然、二人に面識という面識はない。あるとすれば、幼少期のエレオニカが赤子のエンバーを見たことがある程度か、あやしたりする程度の面識である。

 では、何故ここまでしてエンバーを避けるのか。それは、エレオニカ自身に問題があった。


「はぁ……故郷に五年間帰ってないから?」

「うぅ、、言わないで下さい……」


 エレオニカがエンバーと顔を会わせたくない理由。それは、故郷に五年間もの間帰っていないという、超しょうもない理由からであった。

 別段、帰ろうと思えば帰れる。しかし、帰れという催促が出始めたのが四年前からというのがエレオニカが帰るのを躊躇う理由なのである。

 

「なんでそこに躊躇う理由があるの? 忙しかったーとか言って普通に帰ればいいじゃん」

「はぁ……それが出来たらどれだけ楽か」

「えぇ?」


 エレイナが困惑の声を上げる。

 たかが四年とも言うが、されど四年という解釈も出来る。親にずっと心配を掛けていたらと考えると足が竦むのも理解できるか……? などとエレイナは考えていると、シャイナからトンデモ事実が飛び出してきた。


「あー。そういえば、エレオニカちゃんのお母さんってギフト持ちだったわねぇ。嘘看破系の」

「えっ」


 思わず言葉が漏れでるエレイナ。しかし、それも仕方がないことである。嘘看破系のギフトなど、どんな世界からも引っ張りだこ間違いなしのギフトだからだ。それは何故なのかと考えればそんなことは瞬時に理解できるであろう。大事な面会の場。囚人の尋問。決算報告。嘘をつかれると全てが狂うような事象に対し、嘘看破系のギフトがあれば幾つもの事象が平和的に解決されるのだ。

 そんな存在は果たして、どれ程貴重なのであろうか。ギフトには分かりやすく分類するため一つ一つに階級が決められている。それが、三級、二級、一級、特級の四段階である。この中で嘘看破系のギフトは〝最低〟一級であり、半分以上のギフトが特級の評価を得る。

 では何故、そんな存在が、ただの、普通の村にいるのだろうか。というのは当然の疑問である。そして、それを察したのかエレオニカはエレイナに対し口を開いた。


「あぁ。お母さんも昔は王宮勤めだったらしいですよ。ですが、そこの文官の人と恋に落ちて、国王陛下に直談判したらしいですよ。妊娠したら普通の村暮らしをしたい。って」

「直談判ッ!?」

「結果、それから数年後に身ごもり、今のノース村に定住しているそうです」


 あまりのスゴすぎる情報に頭から煙が上がり、オーバーフロー気味になりつつあるエレイナを介護しつつ、エレオニカは無理やり話を元に戻した。


「話が逸れましたね。なんの話でしたか……ああ、そうでした。エンバー君についてですね。これは私の予想ですが、多分エンバー君は私の写真を見ていると思うんです。学校に入学したときの写真は送りましたし。だから、あまり会いたくないんです。これで村に私の居場所がばれると面倒ですので」

「面倒て……」


 呆れた様子でシャイナはエレオニカを見る。

 エレオニカはそんな視線をものともせずに未だに頭が直っていないエレイナの髪で遊び始めた。

 これはもうダメだ。と思ったシャイナは元々作業していた作業に戻る。これは昨日、となり町の冒険者ギルドから魔導具で送られてきた依頼書である。そこには、『護衛任務の依頼達成を確認』の文字が書かれていた。


「あら。共鳴の方舟(レゾナンス)宛の。白狼さんのやつね。エレオニカちゃん」

「はい?」


 エレイナの髪で()の彫像を器用に作っていたエレオニカは手を止め、エレオニカにその紙を手渡した。


「ラッシュが終わったらでいいから、これを共鳴の方舟(レゾナンス)のギルドホームまで届けてちょうだい」

「えー。来るのを待つんじゃダメなんですか?」

「多分、今日はもう来ないわ。明日になると色々と面倒だから。お願いね」

「はい。分かりました」


 そして、エレオニカはエレイナの()を使った遊びを再開した。シャイナは無駄に器用と呟きながら自身の仕事に戻る。


 エレオニカはまだ知らなかった。ここ数ヵ月間は意識的に会わないようにしようと決めた少年に、自分から歩みだそうとしていることに。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。ブックマーク登録や評価、感想をいただけるとモチベが爆上がりします。また、「ここおかしくない?」、「ストーリー矛盾してない?」ということがありましたら感想で指摘していただければ幸いです。

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