026.技能検証とクラン脱退の危機
名称の変更のお知らせ
諸事情により、エンバーの技能「風魔法耐性」の名称を「風魔術耐性」へと名称を変更致します。設定上、風魔法耐性だと話がややこしくなるためです。既存の設定は変わりません。
先程までギスギスしていた雰囲気は一変、皆わいわいと食事を楽しんだ。
因みに、トーネの味覚に関してだが、人間と特に相違はなかった。竜だからいっぱい食べるなどそういうこともなく、人化していたら食事量は人間と同程度で済むとのこと。一部竜の中にはその少ない食事量で済むということを利用するために人化を覚える個体もいるとかいないとか。
そんな小話を挟みながらも、昼食を終えたエンバーたちは中庭に集まっていた。本来なら色々と個人でやることがあるが、今回に関しては流石に見学したいとのこと。特に見たいのが、エンバーのドラゴンブレスである。
「さてさてー。それじゃあ始めようか。まずは一番ショボそうな、風魔術耐性からね」
「ショボそうって……まあ、確かにそうだが」
竜眼にドラゴンブレス。この二つに比べれば、確かに耐性技能はショボく見える。
「ショボいとは言うがお主ら、耐性技能の強さを知らぬのか? 上手く使えば切り抜けられる危機が幾度とあろうに」
「それは分かってはいますが……」
「なーんかパッとしないよねー」
「お主ら、先まで喧嘩していたとは思えぬほど気が合うな……」
呆れた表情で二人を見る白狼。
喧嘩があったとはいえ、仲の良さは変わらないのだ。
「それじゃ、ショボいのはぱぱっと終わらせて、凄そうな技能の実験をしようねー」
そう言いながら、アイリスはエンバーから数歩ほど離れる。
「風弾を打つから、一回目は何も無しで。二回目は技能だけで。三回目はギフトありの技能で受けてみよう」
「わかりました」
そこから、風魔術耐性の実験が始まった。
一回目受けたときは、多少手が赤くなる程度であったが、二回目、技能ありだと赤くならずに済んだ。続いて、風弾の威力を多少上げてみると、技能ありでも赤くなった。そして、技能をギフトで強化してみた場合……。
「……スゴいね。三倍の威力まで無傷で耐えちゃったよ」
「しかもこれ、魔力を込めれば込めるだけ、耐性の度合いが上がりますね。光合成と併用すれば、理論上無限に耐性が上がるんじゃ……」
「しかし、実戦で使うのは難しかろうな。魔力を込める際に、どうしても隙が出来る。まあ、そこは慣れればなんとかなるであろうが……」
正直、破格の性能であった。
魔力を特に込めない場合でもそれなりに耐性が上がり、魔力を込め続ければ無限に耐性が上がる。慣れが必要ではあるが、強敵相手でも十分に効果を発揮できる。
「一つ目から、なかなかに破格だねぇ。大丈夫かな? あとの技能がショボく感じたりしないかな?」
「流石に大丈夫だろ。どっちも竜の技能だし」
「なんか、ハードル上がってきてるんだけど……」
近くにいたトーネが言葉を漏らす。
と、そこでトーネが閃いた!と言わんばかりに二人に提案をする。
「ねぇ、エンバーさん。その技能の名前って、風魔術耐性だったの?」
「あぁ。そうやって書いてあった」
「だったらさ。もしかしたら、風属性の魔法以外にも、雷属性の耐性もあるんじゃない?」
「ッ!?」
「あー。確かに!」
魔法の名称の話になるが、「魔術」と「属性」の違いがここで関わってくる。
「属性」というのは、あくまでもその属性単体のことを指す。例えば、「風属性」といえば、風の魔法単体のことを指し、「水属性」といえば、水の魔法単体のことを指す。
対して、「魔術」とは、その魔法系統全てを指す。例えば、「風魔術」といえば、風属性魔法、雷属性魔法、空間属性魔法のことを指し、「水魔術」といえば、水属性魔法、回復属性魔法、氷属性魔法のことを指す。
今回の場合で言うと、技能の名称が「風魔術耐性」であることから、雷属性の魔法にも耐性があるのではないかという話しだ。
「凄いね、全然気が付かなかった」
「まあ、僕をテイムしたんだからね。当然っちゃ、当然だよね。腐っても中級竜だし」
トーネは照れながらもどこか誇らしげだ。
アイリスは早速と数歩ほど離れてエンバーへと手を向ける。
「それじゃー、行くよー」
「……一応言っておくが、ここで調整ミスは本当に洒落にならないからな?」
「反省したから! もうあんなことはないよ! 使うのは雷属性でも最弱の『静電気』だし、エンバー君も耐性つけるし!」
「はは。冗談だよ。もう蒸し返したりしないさ」
「むー……。んっんん。それじゃ、いくよ」
そこから再度風魔術耐性の実験が始まった。
結果として、トーネの推察通り、この技能には雷属性の魔法をも防げることが判明した。
「す、凄い……。まさか本当に……」
「僕から言い出したことだけど、この技能だけでも凄まじいね。慣れが必要とは言え、これでもう風属性の魔法はくらわないんじゃない?」
興奮した二人がエンバー以上に舞い上がっている。
因みに、当の本人であるエンバーは未だに理解が追いついていないのか、困惑気味である。
「ああ。正直、凄すぎて理解が追いつかんが……」
「とは言え、慢心はいかんぞ。これはあくまでも正面からのことを想定した場合だ。不意打ち。もしくは夜の魔力切れのタイミングで魔法が当たれば、普通に殺られてしまうのだ。あくまでも、それは保険として考えたほうがよかろう」
白狼の指摘も尤もである。
耐性の効果を上げるためには常に技能に魔力を込め続けなければならない。光合成と合わせるならばともかく、日光の届かない森やダンジョン。夜などではこの技能はほとんど封じられると言っても過言ではない。
「それもそうですね。過信しすぎて、足元をすくわれたら元も子もありませんし」
メンバーは白狼の言葉に素直に頷いた。
白狼の言い分も尤もだが、エンバー自身、この力に慣れてしまうと回避や直感の感覚が鈍ってしまうと考えたのだ。
「うむ!」
エンバーの答えに満足が行った白狼は頷いた。
* * *
風魔術耐性の検証が終わった一行は竜眼の検証に移っていた。
この技能を使いこなすのはトーネのみであるため、トーネを中心に事を進めることとなった。
「それじゃ、竜眼の検証を始めよう!」
トーネは何故かテンションを上げる。
それに釣られてエンバーとアイリスもテンションを上げるが、どうやら白狼にこのノリはキツかったようだ。
「「おおー!」」
「お、おー?」
「よしよし。それじゃ始めたいんだけど……僕の予想が正しければ、多分エンバーさんは竜眼を発動しないほうがいいと思うんだよね」
「えっ!?」
トーネの口から衝撃の事実が出た。
そんなことを言われるとは思っていなかった三人はピシリと固まってしまうが、いち早く動き出した白狼によってその疑問は投げ掛けられた。
「えっと……それは何故?」
「うん。まず、竜眼っていうのは『竜種』の初歩にして奥義なんだけど、その特性の一つとして人間の形態では使えないっていうのがあるんだ。エンバーさんに思い出して欲しいんだけど、初めてあった時、目の前で竜形態になったじゃん?」
「あ、あぁ。あの時は本当にビックリした」
「うん。実はあの時に、竜眼を使ってエンバーさんが本当に霊裂の氣を持った人間なのかを確認したんだよ」
あの時、トーネは本当に目の前にいる人間が長老の言う霊裂の氣を持った人間かどうか分からなかったのだ。だからこそ、竜形態になり、本人かどうかを確認したのだ。
「で、人間形態で使えない理由なんだけど、単純に魔力を馬鹿みたいに食うって言うのと、竜眼の負荷に身体が耐えられないからなんだよね。前者はまあ、なんとかなるんだけど、後者はどうにもならなくてね。だから今、人間形態の僕が竜眼を使おうとすれば、身体のあちら此方から血が吹き出して、眼球が飛び出して、脳ミソがぐちゃぐちゃになるだろうね」
「うへぇ……」
エンバーは自分がそうなった姿を想像して身震いする。
と、そこまで考えて、エンバーは一つの考えにたどり着く。
「……なあ、もしかして、リングの『加速』って、実は危なかったり……?」
「加速だけじゃない、光合成だって、さっきの風魔術耐性だって意味が分からないよ。技能の性質上、あれはああいう身体があってこその技能な訳で……でも、エンバーさんは使えている……なんでだと思う?」
「いや、そこで俺に振らないでくれ。当事者である俺が一番分からん」
「君を守らなければならない僕の身からすれば、正直、竜眼を使ってほしくないんだよね。あまりにも、未知数過ぎる」
「う~ん……。それはいいんだが……それだとやっぱり、光合成とか加速も……?」
「うん、まあ……」
それは、まずい。今まで使ってきた技能が軒並み弱体化しているエンバーにとって、風魔術耐性はともかく光合成と加速は戦闘における生命線となっている。それの使用が出来なくなってしまうというのはエンバーの手札を奪うのと同義である。
「流石にそれは……いや、でも……うーん」
トーネの身体への負荷という話を改めて考えて、エンバーには一つの心当たりがあった。それは光合成の回復過多である。未だ溢れたことはないが、直感的に回復量が溢れてしまうと危ないのではないかと考えてるのだ。溢れたらどうなるかというのは分からないが、もしも、先ほどトーネが言っていたような事が起きれば……。
エンバーは身震いした。
「……使用を控えよう」
「ごめんね? 早いところ使えるようにするから、一週間くらい待ってね?」
「ああ。使えるようにしてくれるだけありがたいよ」
「あ、でも、ドラゴンブレスは大丈夫だと思うよ? あれはさっきの三つと違って魔法陣系だから身体への負担は多分ないから」
「ほ、本当か!?」
エンバーは救われたような気分になる。
が、すぐ後にドラゴンブレスを発動しようとしても、どういうわけか魔法陣が一瞬現れるだけでドラゴンブレスが発動できなかった。
「な、なんで!?」
「……多分、魔力不足だね。エンバー君の魔力じゃあ多分、ドラゴンブレスの発動には届かなかったんじゃないかな?」
「そ、そんな……」
原因に心当たりのあったマグナスの言葉でエンバーは膝から崩れ落ちた。
光合成、加速、風魔術耐性を失い、エンバーに残る強い技能は身体強化とウィップのみ。とてもこれでは、共鳴の方舟について行けるとは思えなかった。
「……」
エンバーはアイリスを見る。そこには、なにやら考え事をしているアイリス姿が目に映った。
「……トーネちゃん。さっき、エンバー君の技能を使えるようにするって言ってたけど、当てがあるの?」
「うん。まあ、長老……上級竜様に相談するだけだけど。まあ、あの方なら大抵のことは何とかしてくれるよ」
「そっか……」
この会話に、何が含まれているかどうかなんていうのは考えなくても分かる。エンバーが共鳴の方舟に所属し続けることが出来るかどうかだろう。
以前、霊竜討伐でゴールドランク昇格という話から、アイリスは上へと上り詰める気なのだというのが分かるが、その目標達成には足手まといはいらないのだ。
エンバーは、現在自分が置かれている立場に絶望するのであった。
因みに、光合成、加速、ウィップをトーネは詳しく見ていないのではないかという点ですが、これは待機時間や帰り道のさながら説明していたりします。
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