025.新技能と正体
エンバーが白狼に連れて来られたのは、エンバーの予想していた通り教会であった。この教会は前回ゴードンと共に訪れた教会と同じである。というより、この町には教会は一つしかない。その理由として、この町に、この国に広く浸透している宗派が関係している。
その宗派の名を『聖神教』。光属性魔法を司る神として崇拝されるこの宗派だが、なんと、この国の王族が代々聖神教の敬虔な信者なのだという。それだけ聞けば、その王族が他の宗教を拒んでいるように見えるが、実際は他の宗教の教祖たちが王の怒りを買うのではと必要以上に恐れこの国に教会を置いていないだけである。
因みに、あくまでも聖神教は「宗派」であって「宗教」ではない。その大元となる宗教は「魔神カトラミスタ教」である。その宗教はその名の通り魔神カトラミスタを崇拝しており、他宗教の中でも二番目に信者が多いことでも有名である。
「着きましたね、教会。どうします、師匠。中に入って待っていますか?」
「いや、拙者は外で待っている。どうも、拙者は宗教という他人縋りの考えには賛同できそうもない。そんな拙者が教会に入っても天罰を受けるだけであろう」
白狼は肩を竦めながら言った。
これから教会に入ろうというエンバーだが、ハッキリ言って、エンバーもその考え方は理解できる。両親の教えというのもあるが、「不確かなものに頼るよりも、自分の手で道を切り開け」とは父の言葉である。他、村に滞在していた神官もエンバーには「神は助けてはくれない」という神官らしからぬことをエンバーに教えていた。
そういった育ちもあって、エンバーも神様は信じていないのだ。
「そうですか。それじゃ、ぱぱっと終わらせて来ますね。少し待っててください」
「うむ。しっかりな」
白狼は手を振って送ってくれた。エンバーはそれを背に教会の扉を開けるのであった。
* * *
時が経ち、エンバーと白狼はクランホームへと帰路に着いていた。
その二人の空気ーー否。エンバーの雰囲気のみが、どこかおかしい。
実のところ、白狼はこれの理由を知らない。教会から出てきたときには既にこの有り様だったのだ。
しかも、どれだけ話し掛けても空返事のみで、増えた新技能のことを聞いても何故か挙動不審になるだけであった。
「なぁ、エンバーよ。一体全体どうしたのだ? 教会から出てからどこかおかしいぞ?」
「……そうですねぇ」
イラッ
「おーい。エンバー」
「……ええ。その通りです」
イライラッ
「おい。拙者の言葉が聞こえていないのか?」
「……そうですねぇ」
イライライラッ
「……そうか、エンバー」
スチャァ……
「うん……え?」
我に返り、自身の隣を歩く白狼を見る。
白狼の手元には、鞘と鍔の間から白銀に輝く刃が見え隠れしていた。白狼のKATANAである。
「そんなに斬られたいか」
「すいませんっ! マジで! すんませっした!」
エンバーは何度目かの命の危機を機敏に感じ取り、90度直角の綺麗なお辞儀を見せ即謝罪した。因みに、前回の命の危機は酒の件で問い詰められた時である。
「はぁ。訳を話せ。いい加減斬るぞ」
「いや……それなんですけどねぇ」
脅されて尚も渋るエンバーにそろそろ怒りも爆発しそうになるが、逆に言えばそれはそれほどに恐ろしいものなのだと身震いしてしまう白狼。
「……構わん、話せ。どうせ、後で検証をするのだ。遅かれ早かれ話すのだから構うまい?」
「……それも、そうですね」
エンバーは歩みを進めながら自身が見たものについて話し出す。
「まず、今回は新技能は5つ増えていました。その内、二つが上級竜の加護関連の技能だと思います」
「ふむ。となると、テイムで増えたのは3つか。リングの時も3つ増えたのだったな。まだ事例が少ない故、信憑性はないが、テイムすれば新技能が3つ増えると考えるべきか……」
「まあ、それはいいんですよ。問題は新しく増えた技能で、一つが……風魔術耐性」
風魔術耐性。これは風属性魔法に限った耐性ではなく、風属性魔法の派生魔法である雷属性魔法や空間属性魔法への耐性がつくものである。
「そして……二つ目なんですが……」
「渋るな。言え」
「はい……。二つ目は、竜眼、です」
「竜眼……?」
「ええ。どうやら、竜のみが使える固有魔法みたいです。効果は分かりませんが……」
「まあ、そこはトーネ殿に聞けば分かるであろうよ。それで、3つ目は?」
それを聞いた途端、エンバーの目が泳ぐ。
「渋るな。言え」
「うぅ……分かりましたよ。その、3つ目は……」
少し溜め、エンバーは意を決して口を開く。
「その、ドラゴンブレス、です」
「……ふぇ?」
それを聞いた途端、白狼は普段にない可愛らしい声で反応を見せたのだった。
* * *
白狼はイラついていた先までとは変わり足取りが軽い。その理由は間違いなくエンバーの新技能を聞いてからだ。
白狼は「強さ」に執着する節がある。前例の一つに、トーネのことを訝しんでいた筈が、上級竜の加護を聞いてから上機嫌になったことが挙げられる。
理由までは分からないが、エンバーは生き残る為にも心の1ページに白狼の生態を書き込んだ。
それからしばらく歩き、そろそろクランハウスにたどり着くというタイミングで、先行していた白狼が振り返った。
「エンバー。来い」
「? はい」
突然のことに驚きはしたが、エンバーは言われた通りに白狼に着いていく。遠くまで歩くという訳ではなく、近くの路地裏に少し入ったところで立ち止まった。
「いきなりどうしたんです?」
「……アイリス殿についてだ」
「っ」
その名前が出たことで、エンバーは一瞬硬直してしまう。
一体、どうしてあんな魔法をぶっぱなしたのか、この歩く最中に何度も考えたが、その答えは出なかった。
考えれば考えるほどアイリスへの疑心の心は深まっていき、挙げ句の果てにはトーネを実験台にしたのではないかという考えまで浮かんでしまった。
「まあ、お主が疑っているのも分かる。だがな、アイリス殿は基本善人だ。今回の件は本当に、アイリス殿のミスだろうよ」
「それは、分かってはいますが……」
「ならば、許してやれ。それも強さだ」
「……はい」
エンバーは強く頷いた。
それを見た白狼は固かった表情を崩し、朗らかな笑みを浮かべる。
が、すぐにそれを固い表情へと戻す。
「……今の話を踏まえて、だ。エンバー。アイリス殿には気を付けたおいたほうがいい」
「え? 気を付ける、ですか?」
白狼はコクリと頷く。
なんの冗談だとも思ったが、それは冗談を言っているような目ではなく、戦いの最中などに見れるようなガチの目である。
「アイリス殿は、恐らく何かを企んでいる。それが何かは分からないが、な」
「企んでいるって……何を?」
「分からないと言ったろう。これは一種の勘のようなものだ。だが現に、パーティー初期からいたメイナに聞いても、適当にはぐらかされるだけで、否定はされなかったからな」
「うーん。勘違いのような気もしますけど……」
「とにかく、アイリス殿は信頼はしても信用はするな。信じすぎると、足元をすくわれるぞ」
それだけを言うと、白狼は路地裏から出た。
慌てて白狼について行くが、エンバーのその目は戸惑いに満ちている。
当たり前といえば、当たり前だ。トーネの件の後に師からのアイリスを疑えという発言。何が真実で、何が違うのか。誰を信じて、誰を疑えばいいのか。
結局、エンバーは悶々とした心を持ちながら、クランハウスへと戻るのであった。
* * *
クランハウスへと帰ってきた二人だが、早速クランハウス内の違和感を感じ取っていた。
二人は団員たちがいると思われる食堂へと真っ直ぐ向かったのだが、どうも様子がおかしかった。
にこやかに日常的な会話をするアイリスとトーネ。どこか二人によそよそしい団員たち。何時もなら客人相手に真っ先に話しかけるメイナも今回ばかりは観戦に回っている。
二人は揃って首を傾げると、帰ってきた二人に気が付いた団員たちは二人ーー否。エンバーに縋るように足元へと群がってきた。
「お、おい、坊主! 彼女が中級竜ってのは、なにかの冗談なんだよな!? そうなんだろ!?」
「? ……?? …………!?」
いきなり言われたことに理解が追い付かなかったが、段々と頭の処理が追い付き、やがて事の意味をしっかりと理解した。
「な、なんで、そのことを!?」
「そのことって……やっぱ、マジなのか……」
ゴードンは力なくトーネを見る。
エンバーは何がなんだか分からなかったが、この状況を知っているであろうアイリスとトーネに視線を向けた。
その視線に気が付いたアイリスとトーネは会話を止め、エンバーたちへと向き直った。
「僕の正体を明かしたのは僕の意思だよ。一応、君の護衛って体だけど、僕もクランの団員になる訳だからね。それに、正体を明かした方が動きやすいし」
「そういうこと。勿論、皆には口止めしてるよ? 竜を無断でクランに迎え入れたってなると流石に面倒だからね~」
超重要なことをあっけらかんと話すアイリス。
トーネもそれについては特になにも思っていないようで、取り敢えず、この話題はお預けとなった。
「はぁ。……にしても坊主。竜をテイムしたのか。これじゃ、負けるのも時間の問題かもなぁ」
「カッパーでも上澄みのあんたがなに言ってんの。でも、新しい技能も気になるね。どうだったの?」
「あー……」
そこまで言われ、エンバーは白狼に話したときのように渋り始めた。
「ん? その反応だと、あんまりよくなかったの?」
「いや、むしろその逆で……」
「ふふん。なんとな、技能の一つにドラゴンブレスがあったのだ!」
「……はっ!?」
白狼はふふんっ! と自分のことのように自慢するようにメイナに誇る。
ドラゴンブレスといえば、最強にして最恐の魔法の代名詞である。とある伝説では国一つを焼き滅ぼし、またとある伝説では海を割ったとも云われる伝説の魔法。一人個人で扱っていいような魔法ではなく、国に管理されてもおかしくないような。そんな魔法なのだ。
「ド、ドラゴンブレス!? って、あの!?」
「うむ。あの、でござる。まさか、エンバーにそのような技能が身に付くとは……僥倖よの」
「なんであんたが一番嬉しそうなの……?」
「弟子の成長が嬉しくない師が居る訳無かろう。将来成長したときに、丁度いいサンドバッグ……もとい、修練相手になりそうだ!」
「それが本音かよ」
驚きで意識が少し飛んでいたゴードンに突っ込まれる白狼。
その物騒な台詞に今から身震いを始めるエンバーに対し、今まで何かを考えていたため黙っていたアイリスがエンバーに問いかけた。
「それで? 他には何が?」
「他だと、風魔術耐性と、もう一つあって。なあトーネ。竜眼ってなんなんだ?」
竜眼、という言葉に対し、トーネと、どういう訳かアイリスまでもがそれらしい反応を見せる。
「竜眼……? まさか、発現した技能って……」
「ああ。その、竜眼だったんだ」
「うっそー……。一応、竜眼って竜の奥義って扱いなのに……。ドラゴンブレスもだけど」
トーネは正真正銘、演技でない素の驚きを見せた。
「んー。でも、どうしてかな? 竜眼っていうのは言うなれば竜の身体の一部分みたいなものなんだよ。なのに、人間のエンバーさんに発現した……。それに、竜眼の特徴として、目の周りが少し特殊なことになるはずなのに……それがないよ」
「まあ、それを言うならフォレストウルフの使う『加速』が使えたりもするし、今更な気もするけどな」
エンバーは気にしていないようだ。
トーネはそれに対して刹那の間考え込むが、自分には分からないと悟ったのか考えを放棄した。
「う~ん……そっか。身体に不調がないならいいや。でも、なにかあった時は随時報告してね。何かあったら僕が大目玉食らうんだから」
「ああ。わかった。気を付けるよ」
と、そこまで話し、午前中の話しは一旦解散とし、そこからは少し遅れた昼食となった。新技能の性能テストは午後からとなった。
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