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024.入団試験2とトーネ


 二人の視線は交差し、しばらくバチバチとしていたが、先に動いたのはトーネであった。


「……『飛べ』!」


 トーネが詠唱改変で放ったのは、風属性魔法の初級の魔法である「風弾(ふうだん)」と呼ばれる魔法である。これは初級というだけあって単純な魔法で、風の塊を相手にぶつけるだけの魔法だ。ただ、単純な分簡単でなため、アイリスの放った白雷のように二節ではなく、一節で魔法を放つことが出来た。


「そんな木っ端な魔法、私に効くわけーー」

「知ってるよー!」

「ッ!」


 トーネの放った風弾はアイリスに直撃する寸前、いきなり軌道が変わり、アイリスの足元に被弾。その結果、地面の砂が巻き起こり辺りに砂煙が舞う。


 これは、先日フェイが水属性魔法を操ってエンバーの口の中で破裂させたものと同系統の技術である。水と違い破裂させることは出来ないが、風属性魔法では軌道を変えることが出来るのだ。


「っ。目眩まし…」

「正解だよッ!」

「ッ!?」


 トーネのその声はアイリスの背後から聞こえていた。

 さっきの今で、もう既にアイリスの背後に回っていたようだ。


「ッチ」


 アイリスは速攻で結界魔法を自身の周囲に展開し、落雷の魔法を展開する。


「うわっ、あぶなっ!」


 トーネはアイリスが何をしようとしているのかを察し、背に生えている翼を大きく羽ばたかせ後退する。

 すると、アイリスを中心に、空から雷が降り注いだ。白雷ほどの破壊力はないが、この落雷も地面を抉るくらいの威力がある。


「なかなかエグいことするね、アイリス。雷特化の結界魔法があるからこその荒業だね」


 そう。本来の結界魔法であれば、このレベルの落雷であれば相当な魔力を込めない限り、中にいるアイリスにも多少ダメージが入ってしまう。だが、アイリスはこの問題を結界魔法の改造という荒業で克服して見せたのだ。アイリスが張ったこの結界。物理的ダメージ、その他雷属性系統以外の魔法は防ぐことなく貫通してしまうが、その分雷属性魔法に対し異様なまでに強固な耐久性を披露するのだ。


「スゴいねぇ。二回見ただけで分かっちゃうなんて。そういうスキルがあったり?」

「さてねぇ。どうだろ? もし僕に勝てたら教えてあげようかな?」

「じゃ、聞けるね。よかった、よかった」

「ハハハ。煽るねぇ」


 トーネは手のひらの中に風の塊を造り出す。

 それに対し、アイリスは無防備に突っ立っているだけだ。

 一体何を考えているのかが分からない。なにをされても対処をする余裕があるのか。それとも既に何かを仕掛けたのか。そんな思考を頭の中に張り巡らせるが、それに対する答えは出ない。


「(まあ、当たって砕けろってね!)」


 トーネは思考を放棄しその場を駆ける。

 アイリスを見据えるが、そこに動きはない。

 訝しみながらも、警戒しながらトーネはアイリスへと肉薄する。


「(……ッ!?)」


 その瞬間。トーネの頭に警報が鳴り響いた。


「……強いねぇ、トーネちゃん。このまま進めば、負けちゃうかもなぁ」


 アイリスに動きはない。このまま行けば簡単に倒すことが出来るだろう。

 だが、トーネの予測する未来に、そんな情景はない。あるのは、無惨にもそこで倒れている自分の姿だけだ。

 トーネは慌ててブレーキを踏み踵を返す。だが、あと一歩、あと一秒、足りなかった。


「だから悪いけど、早期決戦で行くよ?

        ーー『黄雷おうらい落下神召らっかしんしょう』」


 その瞬間、白雷の比でない轟音が響く。

 視界は雷で埋め尽くされ、クランハウスのガラスはミシミシと音を上げ、限界を迎えて粉々に砕けてしまう。

 端から見ていた団員たちには、落雷による風圧と、高温度の熱風が襲い掛かろうとした。だが、観客の一人、副団長のマグナスはこの結果を予測していたのか、あらかじめ唱えていた結界を団員たちに張る。


 巻き上げられた砂煙が立ち込めるなか、アイリスは悠然と立っていた。

 砂煙が晴れると、一部ガラス化したグラウンドが露になる。そんな中に一人突っ伏していたのは、身体の所々が少し炭化してしまっているトーネであった。


 その結果に暫く呆然としていた団員たちであったが、我に返ったエンバーがトーネの元に駆け出したのを切っ掛けに、皆の時間は動き出した。


 こうして、二人の入団試験は幕を閉じたのだった。


 * * *


 トーネ。竜の年にして634歳。人間の見た目だと十代後半のような見た目をしたこの女性の正体は中級風竜である。


 数百年前から弱いながらも知恵と工夫で生きている人間に興味を持ち、自身が長老と呼ぶ上級風竜に人里に行きたいと何度も願っていた彼女だったが、今回、霊裂の血筋の人間を護衛という形でその願いが叶うこととなる。


 はじめトーネは念願の人の町に行けると舞い上がって喜んだ。しかし、それと同時に不思議にも思った。なぜ、我ら誇り高き竜が人間などという矮小な存在を守護せねばならないのかと。

 疑問に思ったトーネは素直に上級竜へと問いた。すると、二体の上級竜はどこか遠い空を見ながら、「そうか……そうよの。簡単に言えば、儀式をするため。であるな」と返してくれた。よく分からない返答に疑問符を浮かべるが、それ以上はなにも言わないと分かると、トーネはふてくされながらも踵を返した。結局、上級竜の意図は分からなかったが、楽しみなのは事実。トーネは上機嫌で身支度を始め、今にもスキップをしだしそうな足取りで楽園を出た。


 そうして静かな森を歩く最中、トーネは、上級竜二体にとって、その人間は何事にも変えられない特別な存在なのではないかと考えた。やがて、そうだと確信したトーネは久方ぶりに使う自身の技能の確認や人化の術の調整を行い、準備万端というところで、一人の少女にであった。身なりはボロボロで、お世辞にも強いとは言えない人間であったが、人間に興味のあったトーネはその少女に手を伸ばした。

 少女の話を聞き、互いに自己紹介を挟みながらフェイの怪我が直るまで辺りを警戒していると、後ろから一人の人間の気配がした。振り返りそこにいたのは、黒髪に青い瞳をした少年だった。衣装は真っ暗な森に溶け込まれそうな衣類を身に付け、見た限りは丸腰の少年。フェイの同伴者か? と考えたその刹那。少年が襲い掛かってきた。ビックリしながらも攻撃をバックステップで余裕で受け流すトーネだったが、フェイが無防備になってしまったことに後悔をし、すぐに反撃しようと一歩踏み出そうとしたとき、二人の会話が聞こえてきた。


「手応えないな……衝撃を流したか?」

「あんた……エンバー……!?」

「! フェイ。無事か?」


 なんと、フェイが少年のことをエンバーと呼んだのだ。これにはトーネも驚き、素の声で二人の会話に口を挟んでしまう。


「待って。あの人は別に--」

「……エンバーって言った? 君が、エンバー?」

「だったら、なんだ?」

「ふふ……いや、好都合だなって。ああ。僕の名前はトーネ。よろしくね」

「よろしくするつもりは……ないッ!」


 それは困るなと思いながらもエンバーの振るってきた武器を受け流すが……棒? と心の中で疑問に思う。長老たちから聞いているのはエンバーは剣士であるというものなのだが……と。

 そんなことを考えながらエンバーを迎え撃つが、途中フェイの叫びに戦闘は中断。なんでも、フェイが倒れているのを見てトーネの仕業だと勘違いしたらしい。


 その後、エンバーからの土下座やフェイの仲間との交流を経て、疑問であった本当にこのエンバーは私の探すエンバーであるのかという疑問を解消するため、一度竜の姿へと戻った。

 種族技能:竜眼。相手の持つ魔力量や生気を見極める、竜特有の技能であり、氣の種類を見分けることも出きるのだ。しかし、この技能は人化した状態で発動することができないため、一度竜の姿へと戻る必要があるのだ。結果、その氣を見たトーネはエンバーが霊裂の血筋であることを確認。すぐさま、次の行動へと移す。それが、()()()()()()である。

 本来のテイムの契約は魔物側から解除することはできず、主人の意思でしか解除することができないが、この魔法陣で契約をした場合主人から契約を切ることができず、さらに、テイムされた魔物にある命令の厳守という効果もない。あるのは、テイムをしたという繋がりのみという、今回にとっては都合の良い土竜お手製の魔導具である。


 あとは主人からの信頼を勝ち取るだけである。トーネは以前本で読んだ方法を実践してみようと胸を高鳴らせた。因みに、その本のタイトルは「男の従わせ方」という。その内容は、「男を従える場合、胃袋と下半身を掴むべし」である。因みに因みに、早速実践したトーネの感想としては、年の割に大きかったということである。


 その晩、参加したフェイと犠牲者のエンバーが寝静まった(エンバーは気絶)頃、トーネは森の中の楽園へと念話を飛ばした。


『長老様ー! エンバーさんと会えたよー!』

『ほう? なかなか仕事が速いじゃないか。よくやったぞ、トーネ』

『えへへー』

『その調子で頑張るんだぞ。……ところでトーネよ。気配から察するに、霊裂の者は気絶しているようだがーー』

『それじゃー長老様! また、定例会議で!』

『あ、おい。待ーー』


 長老の気苦労はいざ知らず、トーネはその場で横になり目を閉じた。薄れ行く意識のなかで、フェイの言っていた「最近ご無沙汰」という台詞が妙に引っ掛かった。というのも、ヤリ馴れているというという割には酔いの中で分かりやすい恥じらいがあったり、動きがぎこちないところがあったからだ。そんなときにふと、本の中の言葉を思い出した。「無理やり既成事実を作る際、相手が罪悪感を抱きそうなタイプだった場合、ヤリ馴れていると嘘をつくのも一つの手でしょう。そうすることで、相手に近寄る理由を作れるだけでなく、相手の罪悪感を減らすことができるでしょう。ただし、あくまでもそれはーー」ここから先は覚えていないが、確かこんなことを言っていた気がする。まさか、フェイも打算ありきの行動だったのか? と考えるが、既に微睡みの中にあったトーネに考える力はなく、そのまま深い眠りへとつくのであった。


 * * *


 場所は変わり共鳴の方舟(レゾナンス)の医務室。

 そこには共鳴の方舟(レゾナンス)の団員たちが集まり、トーネの無事を見守っていた。


 そして当然、トーネをこんな状態にしたアイリスも同伴しており、トーネの主人であるエンバーはアイリスへと詰め寄っていた。


「……アイリスさん。流石に、あれはやりすぎじゃないか?」


 普段とは違い、少し苛立っているような声を上げるのはトーネの主人であるエンバーである。その表情は声色から分かる通り顔をしかめており、アイリスに対する疑心が見てとれる。


「うん。まあ……流石にあれはやり過ぎたと思ってるよ。トーネちゃんが強かったから加減が……」

「加減とかのレベルじゃないでしょう!? あんな技使わなくてもアイリスさんならーー」

「エンバー、落ち着け」

「っ。……はい」


 段々とヒートアップしていくエンバーを見かねたゴードンが優しくエンバーの肩を叩く。

 それで我に返ったのか、はたまた、これ以上言えば引き返すことが出来なくなると考えたのか、エンバーは黙りコクってしまった。


 シンとした空気が部屋を支配する。

 あるのはどんよりとした空気だけである。


「ーーっん。んん……」


 それからどれだけ経ったか。暫くうんともすんとも言わなかったトーネが声を発したのだ。

 団員のみなは、特にエンバーは我先にとトーネへと近寄る。


「……エンバーさん。近い」

「トーネ……! 起きたのか!」


 トーネはその言葉にハハハと乾いた笑みを浮かべ、ベッドから上半身を起き上がらせる。


「うん。まあ、おはよ。寝起きは最悪だねぇ。僕じゃなかったら死んでたよ? アイリスさん」

「うっ。本当にごめんね。久しぶりの戦闘ってことで、気分が高まっちゃって」

「高まっちゃってって……!」

「あー、いーのいーの。喧嘩しないで。僕のために争わないで!ってやつだよ!」


 その絶妙なワードセンスに部屋はシンと静まり返る。トーネはえっ?えっ?と辺りを見るが、そこに優しい目はない。


「んっんん。とにかく、喧嘩はやめて。それよりも、僕は少しアイリスさんと話したいことがあるから、二人きりにしてくれない?」

「話したいこと? だが……」

「いーから、いーから。ほら、エンバーさんも、見てみたいのもがあるんじゃない?」

「見てみたい……ああ。まあ、確かに見てみたいっちゃ、そうだが……」

「ほら、頭を冷やすついでに行ってきなって。僕なら大丈夫だから」


 エンバーはその言葉に不承不承といった顔で頷き、団員たちと共に医務室からゾロゾロと出ていった。


「さてっと。全員出たね。『大いなる風よ・包み込め=無音(サイレント)』」


 トーネはベッドに座ったまま魔法を唱える。この魔法は、辺りに風の壁を作り会話が漏れないようにするための魔法だ。内緒話をする際に重宝される魔法である。


「さて、アイリスさん。全員居なくなったことだし、本音を聞かせてもらえるかな?」

「本音?」


 こてんと首を傾げるアイリス。その表情はあたかもなにも分かっていないといった表情であり、それを見てトーネは苦笑しながら口を開く。


「誤魔化さなくてもいいよ。っていうか、椅子に座ったら? ()()()()()()()()()()()()()()


 ここでやっと、アイリスの表情が崩れた。アイリスは目を細めトーネを見据える。


「……よく分かったね。これでも、演技は得意な方なんだけど?」

「ふふん。まーね。ささ。座って、座って。話しはそれからだよ」


 アイリスはトーネを訝しみながらも近くにある椅子を持ってきて腰を掛けた。


 * * *


 場所は変わって共鳴の方舟(レゾナンス)内の食堂。

 それぞれが座席に座っているが、そこに穏やかな雰囲気はない。その雰囲気はどこか深く沈んでおり、容易に声を発することが出来ない。


 エンバーも、トーネには気になるだろうからと言われたが、今はそこへと向かうような元気はない。トーネが言ったのは恐らく、テイマーでファイターであるエンバーの新しい技能のことであろう。中級竜という存在をテイムしたことにより、果たしてどれだけ強い技能が使えるようになったのか。確かに気になることには代わりないが、やはりトーネのことが心配なのである。


 そんな静寂に耐えかねたのか、どんよりとした空気を破ったのは異国の侍、白狼であった。


「ええぃ! このような雰囲気、拙者には合わん! エンバー、出るぞ!着いて来い!」

「え、ちょっ!」


 白狼はエンバーの手を無理やり引きながら、クランハウスを出たのだった。


 全体的に違和感が……会話の流れか、文法か。まだまだ勉強が必要ですね……。今後多少書き換えるかもです。内容は変えないのでその辺はご心配なく。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。ブックマーク登録や評価、感想をいただけるとモチベが爆上がりします。また、「ここおかしくない?」、「ストーリー矛盾してない?」ということがありましたら感想で指摘していただければ幸いです。

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