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023.初対面と入団試験1

 諸事情により、トーネの一人称を「私」から「僕」へと変更しました。

 いやー……思った以上にアイリスとの見分けがつかなくなってしまいまして……。唐突に申し訳ありません。


 エンバーが帰ってから数分後の応接室。

 そこには、共鳴の方舟(レゾナンス)の団長アイリス。共鳴の方舟(レゾナンス)の中でアイリスに次いで実力のある白狼。そして、エンバーとトーネがいた。


「まあ、まずはお帰り。エンバー君」

「あ、ああ。ただいま……です」


 いつものアイリスとは違う剣呑な雰囲気に違和感を抱きつつ、ぎこちなく返答する。

 だか、居心地悪く感じているエンバーとは裏腹に、トーネは応接室の内装を興味深げにキョロキョロと見渡している。


「あのぉ……一体なぜ……それに師匠も……」

「うん。まあ、朝帰りに女連れなんてサイコーないじりネタを持ってきたことに関しては今度いじるよ?」

「それは遠慮するが……」

「……そのようなことより、今はそこな少女だ」

「え? 僕?」


 いきなり呼ばれたトーネはキョトンとした顔をする。そんなトーネを鋭い目で見る白狼。ハラハラとしながらエンバーは両者を見るが、アイリスがため息を吐きながら仲裁する。


「はぁ……待った待った。白狼。喧嘩をするために呼んだんじゃないでしょ?」

「……まあ、そうでござるな」


 白狼は腕を組み目を瞑る。

 依然としてピリピリとした空気が続いたが、それをやぶったのは深くため息を吐くアイリスであった。


「……エンバー君。そこの彼女、何者だい?」

「えっ。何者?」


 何者かと聞かれ、エンバーの頭のなかには真っ先に「竜」という単語が出てきたが、流石にそれを話すのは不味いかと思いながらなんと誤魔化すかを考える。

 が、予想外のところから声が発せられた。


「ーー僕は、竜だよ」

「っ!?」


 エンバーは驚きトーネを見る。

 その言葉に、白狼は目を据えて腰に携えた刀の柄を握り、アイリスは目頭を摘み、今日何度目かのため息を吐く。


「はぁ……。やっぱりねぇ。で? その竜さんは、うちになんのご用件で?」

「うん。実は、君たちのクランに入りたくてね」

「……うぇ?」


 アイリスは鳩が豆鉄砲を食らったようなまぬけ顔を披露する。が、すぐに立ち直ってから真面目な顔を作り直した。


「……マジ?」

「うん。マジだよ」

「……何が目的だい?」

「目的? んー……強いて言えば、人間観察?」


 その回答に、アイリスは頭を抱えた。

 まあ、ある種の災害が、ほとんど気まぐれのような理由で自身が団長を勤めるクランへと乗り込んできたとなったら頭も抱えたくなるものだろう。


「……エンバー君。説明」

「あっはい」


 エンバーは、昨日起きた出来事を包み隠さず、全てを話し始めた。

 武器、魔導具を貰ったこと。加護を貰ったこと。護衛のこと。そして、トーネをテイムしたことも。


 一通り話を聞いたアイリスは再度ため息を吐く。

 だが、苦い表情をしたアイリスとは裏腹に、隣に座る白狼は先ほどとは打って変わり目を輝かせている。


「す、すごいではないかエンバー! 上級竜の加護を二つももらえるのか!?」

「まあ、そうなる……というか、もう得てるかも」

「かも。じゃないよ。もう付いてる」

「それはどうでも……よくはないけど、今は、トーネちゃんの扱いについてだよ」

「扱い?」

「どういう意味だ?」


 トーネとエンバーは揃って首をかしげる。


 もし仮に、トーネは竜でありエンバーにテイムされていると正直に言った場合、竜をテイムしている貴重な人材として各方面からエンバーがスカウト、ないし拐われてしまう可能性が出てくる。

 だからと言ってそれを偽った場合、暫くは大丈夫であろうが、もしばれた場合、無断で竜を国内に招き入れたという意味で国家転覆罪を言い渡される可能性もあるのだ。


「な、なるほど……。意外と考えているんですね」

「意外と。は余計。どうなのトーネちゃん。上級竜たちから何か便利なの貰ってないの?」

「貰ってるよ。今付けてるネックレスがそれだね。長老のお手製の魔導具で、鑑定を誤魔化したり、結界をくぐり抜けたり、探知を阻害したり出来るらしいよ」


 トーネは首に掛けているネックレスを主張しながら説明をしてくれた。

 それを聞いて、バレないことに安心していいのか、規格外の性能に驚いたらいいのか分からないアイリスは顔を引きつかせ、「そう……」と力なく呟いた。


「それでそれで? 僕は共鳴の方舟(レゾナンス)に入れるのかな?」

「あぁ……入りたいんだっけ? まあ、強い戦力は大歓迎なんだけど……」


 アイリスは腕を組み渋る。

 その姿を見て正直、エンバーは意外に思っていた。共鳴の方舟(レゾナンス)の団員を見ると、大抵がそれなりの実力者である。当のエンバーも、ルーキーという枠で見れば頭一つ抜きん出た実力を持っている。中級竜であるトーネであれば喜んで引き入れると踏んでいたのだが読みが外れた。


「ふむ……意外そうな顔をしておるな。エンバー」

「ええ。まあ。戦力を増やすって意味では打ってつけかと思ったんですが……」

「まあ、それは間違いない。だが、強すぎる力は時に破滅をもたらすものだ。トーネ。仲間になるやも知れぬ故、面と向かって言おう。お主の力は、もしやすると拙者たちには余りあるものやも知れぬのだ」


 白狼はトーネへと向き、しっかりとそれを告げた。

 だが、トーネはそれをなんともないというように、同じように面と向かって言う。


「勿論分かってるよ。僕の力は人間にとって異端に近い。それは自覚してるよ。でも、忘れてない? 僕、エンバーさんのテイムモンスターなんだよ?」

「そうなんだよねぇ。そこが問題だ」


 悩んでいたアイリスが顔を上げる。

 仮にこの場でトーネの入団を拒否しても、結局はエンバーのテイムモンスターであるため、トーネを拒絶するのであればそれに巻き込まれる形でエンバーの追放も決まってしまう。


「ほぼ人質じゃないか」

「そんなことないよー」


 アイリスからしてみれば、トーネを入団させなければエンバーが離脱する。そう言われているのだ。

 トーネは、してやったりとドヤ顔をしながらソファーでふんぞり返る。

 それに呆れたエンバーは二人の会話に口を挟んだ。


「言っておくがトーネ。アイリスさんがお前を入団拒否したらテイムは解除するぞ?」

「……へっ!?」


 思ってもみなかった一言に反応が遅れ、後に素っ頓狂な声を上げるトーネ。彼女は横に座るエンバーの肩を掴み揺する。


「ちょっ! 中級竜だよ!? 中級竜とかテイマーでファイターである君にとっては喉から手が出るくらいに……!」

「いやぁ……クランに迷惑が掛かるくらいなら解除するかなぁ」

「うそぉ!?」

「ふっふっふ。エンバー君の忠誠心を甘く見たね! さあさあ。形勢逆転だよぉ? トーネちゃんー?」

「ぐ、ぐぬぬ……」


 さっきとは打って変わって調子に乗るアイリスと、ぐぬぬと声に出し歯噛みするトーネ。この二人は悪ノリという部分では相性が良いのだろう。


「……まあ。マジレスするとトーネちゃんの入団は試験を受けてもらってからだね。正直、余りにもイレギュラー過ぎる」

「んー。わかった!」


 トーネは元気よく返すと、その場から立ち上がる。


「それじゃ、早速やろ!」

「うん。さあみんな。裏庭に集合! 楽しい楽しい、殴り合いの時間だよ!」


 アイリスはどこかウキウキした様子で部屋を出る。


 やはり、戦力の増強は嬉しいのか? などと、浮かれたアイリスの後ろ姿を追いかけながら、エンバーはそんなことを思うのであった。


 * * *


 応接室での話し合いから数分。共鳴の方舟(レゾナンス)の全団員はギルドハウスの裏庭に集合していた。


 トーネの事情を知らない団員たちはなんともないが、事情を知っている白狼とエンバーはどこか緊張した面持ちだ。そんな二人を不思議な目で見る団員を他所(よそ)に、アイリスとトーネの戦いの火蓋が切られようとしていた。


 この戦いのルールとして、トーネの竜形態への変化が禁止されている。理由としては、今度共鳴の方舟(レゾナンス)に入った場合、『エンバーのテイムモンスター』ではなく、『共鳴の方舟(レゾナンス)の一団員』として振る舞う必要があるからだ。人形態でどれほどの力があるのか。今回の戦いで知りたいのはそこなのである。


「さてさて。それじゃあトーネちゃん。準備はいいかい?」

「ふふん。もちのろん! どっからでもかかってきんしゃい!」

「威勢が良いね~。それじゃーー」


 アイリスは右手をてんかざし、()()()


「『遠慮』『なく』」


 その次の瞬間。エンバーたちの視界は白い稲妻で埋め尽くされ、耳にはけたたましい轟音が鼓膜を刺激していた。


 アイリスが使ったのは風魔術の派生魔法である、雷属性の魔法。その中でも特にアイリスが得意とする「白雷(はくらい)」と呼ばれる魔法である。

 この魔法。というより、雷属性の魔法の使い手というのは極々少数である。その理由として、雷属性の魔法はフレンドリーファイアが酷く、挙げ句の果てには術者本人も雷の余波を食らってしまうからである。特にこの白雷は破壊力は桁違いなものの、誤射、並びに自傷が他の雷属性の魔法に比べて酷いため、使う魔法使いは滅多にいない。


 白雷が裏庭に落ちたことにより、辺りには砂煙がモクモクと舞ってしまっている。

 そんな中、砂煙の中で仁王立ち状態で立っているのは、術者であるアイリスのみだ。

 そんなアイリスの回りには、半透明の結界が張られていた。アイリスが雷属性魔法をデメリットなしで使うことが出来るのはこれが理由だ。アイリスは卓越した雷属性魔法以外にも、類い稀なる結界属性魔法の才能があったのだ。それにより、アイリスは独自に「白雷誘導筒型結界」というものを編み出した。これにより、アイリスの得意技である白雷のデメリットを完全に帳消しにし、戦闘での安定した立ち回りを獲得した。

 因みに、アイリスの二つ名である「雷鳴」はこれが由来である。


「ふぅ……。やり過ぎたかな? おーい。トーネちゃーん。でーておーいでー」

「ハハハ……。ここにいるよー」


 そう、呆れた声色であるのはトーネだ。しかし、砂煙がある程度晴れ地面があらかた見えるようになった今でも、その姿を視認することはできない。

 アイリスはしばらく辺りを見渡し、ようやくその姿を視認することが出来た。


 トーネが居た場所。それはーー空である。


「……それ、有り?」


 そのトーネの姿は、かつての竜の面影のある立派な翼が生えていたのだ。

 あくまでも、この試合のルールは「竜形態」への変身はアウトであり、翼が生えているのはいえ、あくまでもこれは半分以上が「人」の姿である。


「ふふん。有りよりの有りだよ! ……僕のギフトは一級の『竜装』。身体の一部分を竜の形に変形させることが出来る。そんな攻撃なんて、僕の華麗な翼捌きでひょひょいと避けて見せるさ!」


 トーネのさりげない気遣いと分かりやすい説明。これは、トーネの事情を知らない団員たちへの配慮である。


「……にしても、アイリスって本当に人間? 詠唱改変をあのレベルで完成させて、尚且つそれが二重詠唱って……。下手したら上級竜でも出来ない芸当だよ?」

「ひどいなー。こんな美少女に向かって本当に人間って。そっちこそ、そうやってパタパタ浮いちゃって。本当に人間? 一見すると悪魔みたいだよ?」


 二人はやんや、やんやと言い合っているが、その実、二人は互いに隙を見抜こうと視線がバチバチと交差している。



 少し戻り、視点が変わって観戦サイド。

 真っ白な落雷が目の前に落っこちた団員たちは腰を抜かして驚くかとも思ったが、一人を除いて驚くものはいなかった。

 そもそもアイリス自体が戦うことは滅多にないが、いざ戦うとなればあの白雷は大体の戦いで使用している。既に共鳴の方舟(レゾナンス)の団員はこの技は既知であるのだ。……そう。ただ一人を除いて。


 いきなり目の前に落っこちた雷に腰を抜かして驚いていたのは、共鳴の方舟(レゾナンス)に先日入団したばかりの少年。エンバーである。


「な、なんだ……今の」

「ハハハ……。まあ、初見じゃそうなるよな」


 そう呟くのはエンバーについで新規の団員であるゴードンである。どうやら、ゴードンにも似た覚えがあるようだ。


「ありゃ、団長の得意技の白雷ってんだ。雷属性魔法でも上位の破壊力を持っているが、自傷が酷いんだ。あんなに完璧に扱えるのは、団長くらいだろうな」


 ゴードンは手を取り起き上がるのを助ける。

 因みに、エンバーがリングをテイムするときに、ゴードンがやけに心配していたのはこれが原因だ。流石にアイリスも場をわきまえているが、もしこの白雷を放っていたら………今頃、リングは跡形もないだろう。


「おっそろしいですね……。トーネ大丈夫かな」

「……そういや、あの嬢ちゃんはお前が連れてきたんだったな。……てか、お前今日朝帰りだったよな!? まさかテメェ!?」

「いやー、あれを卒業と言っていいのか……。殆ど酒の勢いだったし……」

「バカ野郎! 卒業は卒業だろ!? つーか、襲われたくない奴の前で酒なんて飲まないだろ普通」

「そ、そうですよね! 俺はもう、卒業ーー」



「ーー酒?」


 おっそろしく低い声。二人の背筋は無意識にピンッと伸びた。

 聞いただけでも背筋に悪寒が猛ダッシュしそうなその声の出所は、腰に携えている刀の柄を握り、ガンギマっている目でこちらを見ている白狼である。


「ゴードン」

「お、おう。なんだ……でしょうか」


 恐怖の余りに口調がおかしくなるゴードン。よく見れば、冷や汗がダラダラである。


「今……酒を飲んだと聞こえたが?」

「いや……それはエンバーが」

「ほほう。エンバー」

「は、はひ。なん、でしょうか。師匠」


 超濃厚な殺気の中で何とかして声を発する。

 そして、次の言葉でーー死を覚悟した。


「実はな。昨日、拙者の大事な。大事なお酒が無くなってな。何か、情報を持っておらぬか?」


 ーー終わった。死んだ。あれ、師匠のだったんだ。


「えっと……その……ッ!あ、あー!トーネが!」

「誤魔化されるとでも……」

「いや、本当です、本当! 見てあれ!」


 白狼は訝しみつつも、二人の戦いの方へと視線を向ける。すると、砂煙の晴れたその場所に、竜の翼で羽ばたくトーネの姿があった。


「なッ!」

「なんだ、ありゃ!?」


 白狼は竜の姿を見せたことに、ゴードンは人に禍々しい翼が生えていることに驚きを隠せないでいる。

 一方エンバーも、翼を見せたことに驚いてはいつつも、その実、酒の件があやふやになりそうなことに安堵している。


「……僕のギフトは一級の『竜装』。身体の一部分を竜の形に変形させることが出来る。そんな攻撃なんて、僕の華麗な翼捌きでひょひょいと避けて見せるさ!」


 団員の皆が驚いているのを尻目に、トーネがわざと団員たちに聞こえるように説明を始めた。

 その説明に納得がいったのか、団員の様子は多少落ち着いた。だが、恐れなくなっただけで、未だにその翼に団員の皆は目が釘付けである。

 

 これなら、酒の件も有耶無耶に出来る!

 そう考えるエンバーだったが、どうやら、それは許されないらしい。


「……エンバー。稽古の時、覚えていろよ」

「はい……」


 エンバーは力なく、項垂れるのであった。



 魔法関連及び詠唱改変については長くなるためもう少し先で詳しく説明します。

 現在の章のタイトルが修行編ですし、おそらく何十話先ってのはないと思います。……多分。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。ブックマーク登録や評価、感想をいただけるとモチベが爆上がりします。また、「ここおかしくない?」、「ストーリー矛盾してない?」ということがありましたら感想で指摘していただければ幸いです。

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