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020.冗談とキャンプ


 現在、エンバーの後ろには自身の数倍の大きさ、そして実力のある竜がいる。本来、そんな相手に背を向けるなんてことは愚行以外のなにものでもない。

 だが、身体を動かそうにも硬直してしまい、動くことが出来なかった。


『……なんてね』

「……は?」


 その竜は、先までの低い威厳のある声ではなく、聞き覚えのある女性らしい声を上げた。


「まさか、、トーネ……?」

『正解!』


 先までの気迫がなくなり、エンバーは恐る恐る背後にいる竜へと身体を向ける。

 だが、そこにいるのは確かに竜だ。トーネの面影といえば翡翠色の瞳ぐらいである。


「本当に、トーネ?」

『そうだよ。可愛い可愛いトーネちゃんだよ。忘れちゃったの?』


 忘れた以前に面影がないだろうと心の中でツッコムエンバー。トーネはその様子を見てしょうがないなと一言呟くと、その竜の姿はポンと煙を上げながら元の可愛らしいトーネの姿に戻った。


「これで分かった?」

「あ、ああ……。でも、、えぇ?」


 目の前の光景に理解が追い付かないエンバー。

 その様子がおかしくトーネはニコニコと笑いながら、自身がエンバーに近づいた理由を話し始める。


「フェイちゃんとの遭遇はぶっちゃけ偶然だよ。元々人に興味があった僕はフェイちゃんに近づいたの。で、治るまで待っていたら君が来た。はじめは何なんだこの人間とも思ったけど、フェイちゃんがエンバーって貴方を呼んだ時は驚いたよね」

「それは、いい。なぜ俺に竜の姿を見せた?」

「んー? それはね、依頼があったからだよ。とある方から、ね」


 エンバーは頭に疑問符を浮かべる。


「とある方って……誰から?」

「長老--貴方たち人間の云う、上級竜だよ」


 ドクンと、エンバーの心臓が跳ね上がった。

 つい先日、白狼の言っていた霊竜東華襲撃事件。そして、今尚エンバーを探している可能性のある()()()スピリスト。


 エンバーは無意識に後退(あとずさ)る。

 それを見て、トーネは意味深な笑みを浮かべた。


「どーしたの? エンバーさん」

「……」


 ずさり、ずさりと後退ると、やがて魔力の壁がエンバーの背とぶつかった。


「ッ」

「あれあれ? あはは。もう逃げられないね? 大丈夫だよ。痛くはしない。本当に、一瞬で終わるからさ」


 トーネは、懐からとある魔導具を取り出す。


「じゃあ、行くよ?」


 トーネは、その魔導具を発動させた。

 すると、エンバーにとって見覚えのある魔方陣が地面に展開される。その魔方陣は現在エンバーが閉じ込められている部屋とちょうど同じサイズである。


「え……? この魔法陣」

「ほら。唱える」

「え? あ、ああ。て、『テイム』……?」


 エンバーの見覚えがあったこの魔法陣は、リングをテイムするときに使ったテイム用の魔法陣であった。

 エンバーが唱えたことにより、その魔法陣は効果を発揮し、やがて効力を失い魔法陣は光の粒となってやがて消えた。


「はーい、完了ね。これで僕はエンバーさんのテイムモンスターになった訳だ」

「え? え? ……え?」


 トーネは、いたずらっ子のような笑みを浮かべ、ペロッと舌をだす。

 ここで、漸くエンバーはからかわれていたことに気が付いた。


「お前……」

「ごめん、ごめん。冗談だよ、冗談。でも、依頼されたのは本当だよ。君を、霊裂の末裔を護衛しろってね。因みに、依頼主は霊竜じゃなくて、土竜と風竜。僕は風竜の眷属で、君たち基準で中級竜だよ」

「冗談で済むかよ……というかお前、霊裂のことを……それに、中級竜って」

「まあまあ。驚くのはほどほどに、これを上げるよ。長老たちからのプレゼントだよ」


 そういってエンバーに渡したのは幾つかのアクセサリー。それから、一振の刀である。


「これは……?」

「このブレスレットは君の氣を隠蔽するための常時発動型の魔導具。その指輪は君を探知とかのスキルから隠蔽するための、これもまた常時発動型の魔導具。そっちの刀は霊裂の氣にあった刀だよ」

「至れり尽くせりだな……本当に貰っていいのか?」

「もちろん。分からないかも知れないけど、君の存在って現状、竜たちの中では最上位で重要な人間だからね? 上級竜から魔導具と刀の贈り物。さらに中級竜の僕の護衛に、今後つく筈の上級竜2体の加護。ここまで竜に優遇された人間そうそういないよ?」

「ちょっと待ってくれ」


 今、トーネはなんと言った? 上級竜2体からの加護だと? 過去に竜の加護を貰った人間なんて、歴史上の偉人ばかりの、上級竜の加護を二つ貰えると?


「加護って、マジ?」

「マジ」

「……本当に?」

「本当に」


 二人の間に暫しの空白の時間が流れる。

 やがてエンバーは現実逃避のごとくブレスレットと指輪を付け、刀をアイテム袋に仕舞い、トーネに提案する。


「三人が心配するだろうし、そろそろ戻ろう」

「無理やり方向転換したね」


 まあ、いいけど。と続け、トーネは張られている結界を腕を振り、消した。

 結界が消え周りが見えるようになると、おそらくエンバーたちを探しているであろう三人娘の姿が露になった。

 三人は二人を見つけると足早に寄ってくる。


「もう!どこに居たのよ! 帰ったんじゃないかって心配したんだから!」

「んなことしないよ。ちょっと、トーネとな」

「うん。ちょっとね」


 意味深な言葉に頭に疑問符を浮かべる三人。

 エンバーは深入りされる前に、これからについてを話し始める。


「それよりも、これからどうするかを話し合おうぜ。どうせ、今戻っても門は閉まってるからな」


 エンバーはその場に腰を下ろす。それに釣られて三人娘とトーネもその場で腰を下ろした。


「まあ、話し合うとは言ったが、やることは決まっている。食料の調達と簡易テントの設置だ」

「食料はともかく、簡易テントですか?」


 疑問に思ったシエスタは首を傾げる。

 他の三人も同様な反応を見せた。


「ああ。メイナ曰く、俺のアイテム袋に幾つかの役に立つアイテムをアイリスさんが入れてくれたらしい。その中に簡易テントがあるらしいんだ」

「へぇ……流石上位クランね。そこまで経費から出してくれるなんて」


 経費から、か。と、エンバーは心で思う。エンバーはふと思うが、どうしてここまでクランはエンバーの面倒を見てくれているのだろうか。なにか、特別なことをした訳でもないし、特別な功績もない。あり得ないと思いながらも、感じてはならない疑いの感情がエンバーの中に生まれてしまう。


「……まあ、それは置いといて。役割分担をしよう。俺とトーネは森林に狩りに出る。三人はここで簡易テントを立てておいてくれ」

「ちょっと待ってエンバー。狩りは私に行かせて」

「リリアンに?」


 エンバーの提案にリリアンは待ったを掛けた。


「ええ。貴方とトーネには恩が溜まりっぱなしだもの。パーティーのリーダーとして、所々でこの恩を発散しとかないと大変なことになるわ」


 ドンとリリアンはない胸を張って言う。

 それに便乗し、フェイも二人の会話に挟まろうと声を上げる。


「そうよ。狩りはあたしたちに--」

「お前は休んでろ」「あんたは休んでて」

「うえ?」


 二人の声がきれいにハモる。

 回復魔法である程度は回復したとはいえ、治ったのは外的損傷のみ。精神的な疲労は抜けきっていないことを二人はとうに見抜いていた。


「フェイには休んでてもらうとして、お前とシエスタだけで森に入るつもりか? それは、あまりにも夜の森を舐めすぎだぞ?」

「それは……」


 リリアンは言葉に詰まってしまった。

 魔物というのは通常、夜行性である。夜目が効き、暗闇を恐れないというのは視認性の悪い森のなかでは最悪の組み合わせである。そんな中に、サポート役のシエスタとリリアンだけで行くのはあまりにも無謀と言える。


「だったら、僕も付いていくよ」

「トーネも?」


 エンバーの隣でトーネが手を挙げた。


「うん。僕と一緒なら安心でしょ?」

「いや、まあ……」


 竜と一緒ならな、と、エンバーは心の中で吐き捨てる。それにリリアンは不満顔をするが、すぐにトーネがリリアンを宥めた。


「まあまあ。よく考えなよ。本当に、二人だけで森の中で狩りが出きると思う?」

「うぅ……確かに。お願いできる?」

「もちろん。ってな訳でよろしくね。エンバーさん」

「ああ。分かった。こっちはテントの用意をしておこう。くれぐれも気を付けろよ。あと、この手持ちランプも持っていけ」

「お、ありがと。それじゃ、行ってきまーす」


 リリアン、シエスタ、トーネは森の中に潜っていった。フェイはそれを心配そうに見つめる。


「……さ。こっちはテントの用意だ。あいつらなら大丈夫だろ。信じて待つのも仲間の仕事だ」

「……ええ。それもそうね」


 エンバーはアイテム袋からテントを取り出す。

 二人はテントを組み立て始めた。初めはアワアワしていたフェイだったが、エンバーに教えられて段々と手際がよくなっていくのを、エンバーは優しく見守るのであった。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。ブックマーク登録や評価、感想をいただけるとモチベが爆上がりします。また、「ここおかしくない?」、「ストーリー矛盾してない?」ということがありましたら感想で指摘していただければ幸いです。

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