013.女子会と同僚(悪)
エンバーたち四人と一匹が森に入って数時間が経過した。
薬草を探しながら、とはいっても純粋に人数が増えているため、ゴブリンの発見数はかなり上昇。午前中だけで(現解体しているのを含め)計6体の討伐&解体が完了した。
一方、リリアンのパーティーもかなりの数の薬草を採取することが出来ていた。その理由がリングの存在である。ウルフ系統の魔物というのは軒並み鼻が利く。当然これにはリングも当てはまり、一つ薬草を見つけると、後は匂いで簡単に見つけてしまうのだ。それにより、最低採取数が3本なのに対し、午前中だけ13本もの薬草が集まった。
「うへへ……薬草がいっぱい……」
「リリアン、キモいわよ」
「ヨダレ、ヨダレ!」
草原の上に並べられた薬草を見て、リリアンは目をオーアマークにしながらヨダレを垂らす。
因みに、リリアンたちが受けた依頼通りだと、依頼達成で400、超過分を一本190オーアで買い取って貰えるため、超過分10本で1900オーア。占めて2300オーアである。それを三人で分割と考えれば少ないかもしれないが、午前中だけと考えれば妥当であろう。
「でもまあ、あれに比べればねぇ」
フェイは現在必死にゴブリンの解体をしているエンバーを横目に見る。
「いやいや。あれの動き見たでしょ。ジョブが『格闘家』の私でも無理だよあれ」
三人はエンバーがゴブリンを狩る姿を思い出す。エンバーは六体のゴブリンを狩ったわけだが、それぞれの倒し方が違っていた。一体は喉を突き。一体は剣術で。一体は体術でと、様々なレパートリーを見せた。その動きはとても気持ち悪い……もとい、とても真似できそうになかったため、リリアンたちもゴブリン討伐に乗り出そうと考えたが、エンバーの戦いぶりを見ると尻込みしてしまった。
因みに、リリアンたちが気持ち悪いと感じた一番の原因は技能『加速』にあったりする。
「あれでアタシたちと同ランクってのが怖いわねぇ」
「本当に」
「あはは……」
フェイはしみじみと呟くとリリアンはそれに同意し、何を言っていいのかわからないシエスタは苦笑いするしかなかった。
リリアンは気まぐれに、少し離れた場所で現在も必死に解体しているエンバーを見る。その手付きはどこか手慣れており、年にはそぐわないカッコよさが醸し出ていた。そんな時、リリアンはふと、目の前に居るパーティーメンバーに問いた。
「ねえねえ。エンバーって、どー思う?」
その問いに対し、二人は目をパチクリさせる。
「どうって言われても。別に良い奴だと思うわよ?」
フェイに同調するようにシエスタは隣でうんうんと首を縦に振る。
リリアンはハァと溜め息をつく。
「そうじゃなくてさぁ……男としてだよ」
「あぁ。そういう」
「ふぇ!?」
二人はそれぞれ反応を見せる。
フェイは少し考えた後に口を開く。
「良いんじゃない? 顔はそこそこで、実力もあるから甲斐性もある。それでもって性格もよくて、将来性でも共鳴の方舟とかいう凄いクランに入っていて……超がつく優良物件よ」
「べた褒めするね。シエスタは?」
「ふぇ? え、えっと……」
シエスタはチラリと解体中のエンバーを見る。
「別に、エンバーには聞こえてないんだから。ほらほら。ぶっちゃけちゃいなよ」
「え、ええと……凄く、良いと思います」
「ふーん。どこら辺が?」
「や、優しい所とか、強いところとか、カッコいい所とか……!」
段々とヒートアップしていくシエスタを生暖かい目で見る二人。
「ほーん? シエスタもべた褒めするねぇ? もしかして……本気で狙っちゃう?」
「ほ、本気!?」
シエスタは顔面を真っ赤にしあたふたしてしまう。その様子がおかしく、フェイは盛大に笑ってしまう。ここで漸く、からかわれていることにシエスタは気が付いた。
「もう、リリアン!」
「ハハッ。ゴメンゴメン。シエスタが可愛くてつい」
リリアンはシエスタの頭をポンポンと撫でる。
シエスタはムスッとする。
「でもシエスタ。本当にエンバーを狙うつもりなら覚悟した方がいいよ?」
「覚悟?」
「うん。今朝見たけどさ、何人かの受付嬢の目がそれはもう、ギラギラしてたよ。まるで、小動物を狙う肉食獣みたいな目をしてた」
「えぇ……」
それを聞いたシエスタは少し引いた。
因みに、ギラギラしていたのはエレイナとシャイナである。エレオニカはどんな目をしていいのか分からず、少し目を背けていた。そのせいか、対応の際に素っ気ない態度になってしまった。現在、激務に追われながらもエンバーへの対応に対し悶々としているエレオニカである。
「受付嬢の仕事は婚活の場とか言われてるらしいわ。冒険者の中には社会的強者が多いから」
そんなこんな話していると、解体が終わったのかエンバーがこちらに近付いてきた。
* * *
「おかえりー。終わったの?」
「ああ。二体分となると、流石に大変だな」
エンバーはその場に座る。
「あら。流石に疲れた?」
「まあな。主に解体で。少し早いかもだが、飯にする」
エンバーは懐についているアイテム袋からサンドイッチを取り出す。数少ないオーアで買ったものである。
因みに、リリアンたちはアイテム袋の存在を知っている。初めてみた時は吃驚仰天していたが、なんかもう、驚くのに疲れたとエンバーの行動に驚くことが少なくなっていった。
「なら、私たちもそうしよっか」
「そうね。丁度、お腹空いてたし」
「はい。宿主さんに台所を借りて作りました。エンバーさんもどうぞ」
シエスタは掛けているカバンから二つの弁当箱を取り出す。それから数十分、四人は笑いながら食事を取った。この間、リングはスヤスヤと、光合成しながら昼寝していた。
* * *
「……あれで弱体化してるの?」
「ああ。剣術は特に。ありゃ、斬るっつーより、叩き付けるだな。どう頑張っても刃が立たない」
ふーん、とフェイはサンドイッチにかぶり付く。
ワイワイと喋りながら食べていると、不意にリングが起き上がった。
「どうした? リング」
「ガルルルルルッ」
リングはエンバーたちが来た方向に身体を向け唸る。
よく分からずに呆けていると、向こうから四人の男女が歩いてきた。その人物たちは武装している。
その人物たちからは、明らかにこちらに敵意を向けた目線をしている。
「ッ。戦闘態勢」
エンバーの言葉にハッとした三人は即座に立ち上がり、身なりを整える。
「明らかに敵意がある。何が起こるか分からないが、戦闘態勢を取っておいてくれ」
三人は小さく頷く。
四人の男女が近づいてくるにつれ、四人の全貌が明らかになる。一番右にいる女は背に弓を背負い、二番目にいる男は腰に長剣を携えていて、三番目の男は背にゴードンのような大剣背負っている。四人目は、パッと見魔法使いのような格好をしている。
声が届く距離まで来ると、相手の四人の内、長剣を携えた男が声を張り上げた。
「おいおい。なんか、敵意剥き出しだな。俺たちは、単に依頼に来ただけだぜ?」
「だったら、素通りすればいいだろ。つーか、敵意剥き出しで、武装しながら歩いてきたら誰だって警戒するだろ」
声を張り上げた男は少し意外そうな顔をする。
「敵意……流石、共鳴の方舟に入るだけはあるんだな。だが、所詮はロック。カッパーである俺には勝てないぜ?」
「(カッパー……)」
同ランクで言えばゴードンと同じ。冒険者としては中級に位置するランクである。
エンバーは頬に汗が流れるのを感じる。
「カッパー、ね。そんな奴が俺たちに何のようだ」
「決まってんだろ。身ぐるみ剥ぎに来たんだよ。共鳴の方舟の連中は無駄に派手な衣装にバカみたいに高価な素材を使っているからな。ゴードンを狙った時はしくじったが、今回はしくじらねぇ。言っとくが、後ろにいる奴らも対象だからな。身ぐるみ剥いで、することした後は奴隷行きだ」
エンバーは静かに歯噛みする。自身を狙っただけであれば三人は逃がせただろう。だが、どうやら三人もターゲットであるようだ。三人を守りながらというは流石にキツい。
「三人とも、戦えるか?」
「舐めないで。これでも、アタックウィザードのジョブを与えられたのよ」
「まあ、対人は初めてだけど、何とかなるでしょ」
「私は支援するしかないので……」
シエスタはその場で三人にバフを掛ける。
「女神よ・祝福を=『筋力上昇』『脚力上昇』『魔力上昇』……ハァ、ハァ、これが、限界れふ」
「想像以上だ、ありがとう。俺はあのカッパーを殺る。恐らく、弓は俺か、シエスタを狙うと思う。二人は他の二人を。リングはシエスタを守っていてくれ」
「「オッケー」」
「ワウッ!」
リングはともかく、二人はエンバーとゴブリンとの戦いを見ているからか異論はでない。
「それじゃ、行くぞ」
エンバーは自身に身体強化(昇華)、加速(昇華)を掛けて長剣の男に肉薄する。
「……っは?」
エンバーの速さに付いてこれなかった長剣の男は間抜けな一言を発した後、漆黒の棒で殴り飛ばされた。
吹き飛ばされ、地に何度かゴロゴロと転がった男に、尚もエンバーは追撃を仕掛ける。
「ッハ!」
エンバーは手に握りしめる漆黒の棒を長剣の男に振り下ろすが、男は長剣を引き抜き、カキィィィンという音を辺りに鳴らす。
「ゲホッ……クソッ、聞いてねぇぞ、この強さッ!」
「共鳴の方舟所属舐めんなッ!」
などと言い放つが、実のところ、目の前のこの男の実力を疑っていた。
あの模擬戦。初手の接近に加速は使っていなかったとはいえ、加速を使っていたとしてもギリギリで止めた、あるいは、止められなくても目で追うことは出来たであろう。
しかし、この男はそれが出来なかった。目で追うどころか、反応すら出来なかったのだ。
男は一度距離を取りたかったのか、腕に身体強化を集中させ、エンバーを遠くまで飛ばす。
「うおらぁ!」
「っ、」
エンバーは飛ばされるが、難なく着地する。
「油断大敵」
エンバーが着地した真後ろに立つ、大剣を握りしめたゴードンに匹敵しうる大男。
一瞬、エンバーは驚くが、次の瞬間にはエンバーの顔は安堵に包まれる。
「ぐっ……」
エンバーの背後に立ち、したり顔であった大男は背から魔法を食らったのだ。
「油断大敵」
膝をつく大男の背後でニヤリと笑うフェイ。
ホッと安堵しているエンバーだが、少し離れた場所から魔法使いが杖を構えているのに気が付く。
「フェイ!」
「大丈夫」
杖を構え、今にも魔法を撃ちそうな男。
そんな男に迫撃を仕掛ける者がいた。リリアンである。
「こらっ、勝手しない! 『重撃』!」
「グフッ」
『格闘家』のジョブにて習得できる技能を魔法使いの男にぶつけるリリアン。
魔法使いの男はその場で崩れ落ち、腹を抱えて悶え始めた。
「チッ。ワンパンかよ……」
「おとなしく、降伏したらどうだ?」
「……そうだな。流石に、もう無理だ。ナルナ、降参だ」
男はその場で剣を捨て、両手を挙げる。そしてそれを見た女弓士引いていた矢を戻し、弓をその場に捨てる。
エンバーは訝しむ目をするが、男はただ下を向いたままであり、女もまた同じであった。
「……さて、どうするか。お前ら、何かロープとか持ってないか?」
「持ってるわけ」
「流石に、こんなことになるとは思わなかったから」
シエスタもリングに隠れてブンブンと首を横に振っている。
「ま、そうか。なら、どうする……」
と、エンバーが男に背を向けた瞬間であった。一応、自身に襲い掛かられても反応できるように警戒はしていた。しかし、それは自分に襲い掛かられた場合である。他の、リリアンのパーティーメンバーに襲い掛かられるのは対応外であった。
「キャッ!」
「フェイ!」
男は、自身がエンバーの死角になった瞬間動きだし、近くにいて、接近戦が一番ダメであろうフェイを人質に取ったのだ。
「動くなよ。動いたらコイツを殺す」
男はいつの間にか手にしていたナイフでフェイの首元を撫でる。
男は後ろ歩きで、現在弓を引いて警戒しているナルナと呼ばれていた女弓士に近付いていく。
「(……しくじった。降参した瞬間に殺すべきだった。どうする……どうするッ!?)」
身体強化(昇華)と加速(昇華)で急接近……ダメだ。一度見られている。ウィップでフェイを助ける……ダメだ。ウィップの出力が無さすぎる。
頭の中で様々なことを浮かべながら、フェイを助ける方法を考えるが、これといった良い案が浮かばない。
すると、そんな時だった。
「ほほう。面白い局面のようだな、少年」
凛とした声が辺りに響く。
背後を取られたエンバーは当然、視界に入っていたであろうフェイを掴んだ男の顔も驚愕の色に染まる。
「あ、貴女は……」
「て、テメェ……白狼!?」
男の発言に、一瞬フリーズしてしまうエンバー。
そこにいたのは、以前アイリスが話していた共鳴の方舟の最後のメンバー。白狼その人であった。
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