001.プロローグ
一人の少年が両開きの扉の前に立つ。
少年は人生の佳境に立っていた。少年は今までの短い人生の中で一番興奮しているだろう。
少年は満を持して扉を開けた。
新しい物語に、心を踊らせながら。
* * *
「はい、冒険者登録ですね。8番受付で行っていますのでそちらへお伺いください」
「え。あ、はい」
少年は受付の前から離れる。
受付は離れる少年を横目に次の方~と業務を再開し始めた。
少年は大いに戸惑った。少年のイメージでは、受付は冒険者に懇切丁寧に規則を教え、クエストには心配そうに冒険者を送り出す。というのがあったからだ。
これは少年が母に読んでもらっていた物語に起因し、その物語は過去の異界の勇者の武勇伝だったのだが、少年はそれに気が付かず、それが当たり前だと思っていたのだ。
少年はトボトボと8番受付へと歩く。
少年は少し歩き辺りを見渡す。8番受付を探してもなかなか見つからなかった。少年はふと、目の前にある長蛇の列の先頭を見た。すると、8番受付の文字が見える。
「うわぁ……何人いるんだよ、これ」
少年は仕方なく列の最後尾に並ぶ。
少年は列に並ぶ人を見る。男の子もいるし、女の子もいる。だかその人物たちに決まって共通する点は年齢である。男の子、女の子含め、その子達は決まって10歳ほどの背丈をしている。
「考えることは同じか……」
はぁ……と少年はため息をつく。
冒険者ギルド。一言で表すと仕事の斡旋所である。市民から受けた依頼を冒険者が解決。その依頼金をギルドが何割か貰い、後は冒険者に払われるという仕組みの組織である。
この冒険者という職業は不遇職である。ギルドか貼り出す依頼の中には魔物と呼ばれる凶悪なモンスターと戦う依頼もある。つまるところ、命の危険があるのだ。だが、この職業は人気がある。中には名門の学院を卒業してから冒険者に、という変わり者までいる。そんな理由は、過去の『異界の勇者』が関係しているのだが、今は割愛する。
この列に並んでいるのは全員10歳の少年少女たちである。なぜ、この時期にここまでの人が増えるのかと聞かれれば冒険者になれる最低年齢が10歳であるということ。それから今の季節が春だということも起因している。いつもこの時期になると村から出てきたお上りの少年少女たちがこぞって冒険者登録をしにやってくるのだ。
数十分ほど待っていると、到頭少年の順番が回ってきた。少年はワクワクしながら一歩前に出る。
「こんにちは、冒険者登録ですね。これから色々な事を聞いていくのでそれにお答えください」
「はい」
メガネを掛けた受付はボードを手に持ち質問を始める。聞かれる内容は至極簡単なものであった。名前、年齢、ギフトの有無、所持している技能などだ。
「へぇ……。確認しますね。お名前はエンバー君。年は10歳。ギフトは二級の昇華。技能は身体強化に剣術。そして、ジョブの設定を希望と……」
「はい。それで大丈夫です」
「分かりました。では2日後の昼にジョブの設定に行い、3日後の朝にギルドカードを発行いたします。それまでお待ちください」
「……え?」
2日後と3日後。これは少年にとって寝耳に水であった。まだ宿なんて取ってないし、なんなら3日分の宿代なんて持っていない。
「ちょ、それは困るんでーー」
「規則ですので。申し訳ありません。次の方どうぞ」
えぇ……と少年は呆然とする。
少年ーーエンバーは途方にくれていると、近くの男から声が掛かった。
「おーい坊主。途方にくれてねーでこっちにこい。そこじゃ邪魔になるだろ」
エンバーは声に釣られてそちらに視線を向ける。そこにいたのは筋骨隆々という言葉が似合いそうな強面の大男であった。一瞬怯みかけるも、回りにはエンバーと同じ歳の人たちが多く群がっていたため、恐る恐るではあるが大男に近づく。
「そこまで怖がらんでも……」
「いえ、そういう訳では……」
嘘である。内心ビクビクである。
いざとなれば背負っているリュックの中から即座に剣を抜くくらいはするつもりである。
「はぁ……まあ、いい。悪いがもう少し待ってくれや。あと少し人が集まりゃ、説明を始めるからよ」
そう言うと、エンバーと同じように途方にくれている少年をこちらに呼び寄せた。
エンバーはこれからカツアゲでもされるんじゃないかと、内心ドキドキしながらその時を待つのであった。
「さて、こんぐらいか」
大男はガッチリとした体を立ち上がらせ、その場に集まる少年少女たちを見渡す。
ビクビクしながらもエンバーは辺りを見渡した。中には今にも泣き出しそうな少女も見えた。
「あー、ごほん。初めまして、俺の名前はゴードン。お前たちを集めたのには訳がある。おめーらの中にはこれからの3日分の宿代なんてない。なんて奴も多くいるだろう」
人混みの中の何人かが軽く頷く。当然エンバーもその一人だ。
「そこで、だ。俺たち先輩冒険者は、テメーらの為に雑魚寝できる場所を用意した」
辺りからはおー。と歓声が上がる。
顔は強面であるが、心は優しいようである。
「だが、タダで使えると思うなよ。3日分で300オーア払ってもらう」
ここの時点で、反応は二つに分かれた。「良かった、それなら!」という顔と「マジかよ……」という顔である。
300オーアという値段はかなり良心的だとエンバーは思う。村の人に聞いた話ではあったが、普通の宿に一泊するのに700オーアほど。これを3日となれば2100オーア。損失としては1800オーアである。
300オーアなんて子供のお小遣い程度だろうにと思いながらも、大男の話に耳を傾ける。
「もちろん、この条件が嫌ならこの場から去るといい。時間を取らせて悪かったな」
それだけ言うとゴードンは「ついてこい」とだけいい、ギルドから出た。それ以上言うことはないらしい。
ここではの三つのグループに別れた。一つが、嬉々としてゴードンについていく者。二つが、未だに悩んでいるもの。そして三つ目が、絶望に打ちひしがれている者である。因みに、エンバーは一つ目に分類される。
エンバーは、嬉々として冒険者ギルドを出た。ここから、新しい冒険があると信じて。
戦闘要素多めの作品ですが、所々に日常をいれたい(願望)。プロットはある程度はある感じですが、ストックなんてのはありません。
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