野球優遇なんでやねん

作者： xoo

　先週、参議院予算委員会の中継がラジオで流れていた。

　WBC優勝の話を枕に持って来ての質問だったが、

部活で野球をする中学生が激減している、20年前の15分の1になっている、というものだ。少子化が進行しているけど同期間でサッカーなど他の部活動はそこまで減っていない、と。野球は用具代がかかる、と。少年野球でも遠征などで親御さんの負担が重い、と。野球経験者の岸田総理はどう考えますか、と。

　なんなんだろ、「野球は特別」でなきゃならないのか。

　他のスポーツでも小学生やその前から取り組むような種目は親御さんの負担が重い。サッカー少年団だって親が交代で送迎を強いられたりすると聞くし、フィギュアや水泳などの個人スポーツでも強くなればリンク代プール代遠征費衣装代コーチ代と青天井に費用が嵩む。用具代だけ取ってもサッカーや柔道あたりは個人の初期費用は少ないが（中高の体育教科の武道で柔道が多い理由）、防具用具で野球より初期費用がかかる種目はいくつもある。

　確かに昔、「野球は特別」だった。貧乏人が成り上がる手段、またはスポーツで飯を食っていける手段が限られていた。

　「巨人、大鵬、卵焼き」。日本のプロスポーツは相撲と野球しかなかった。そして野球は、プロになれなくても食っていける手段が用意されていたスポーツだった。

　チームが減っているとはいえ、社会人野球なんてものもある。昔は「半日（形だけ）仕事して、午後は練習」「試合は業務扱い」が曲がり通っていた。都市対抗レベルの競技者じゃなくても、「高校の野球部出身＝即、内定」なんて会社も珍しくなかった。「野球が好きで好きで」という経営者役職者もいたし、「野球部出身者は上意下達が効き、兵隊として使いやすい」という経営者役職者もいた。ある公立病院の院長が野球好きで高校野球出身者ばかり事務職に採用して地域の大会に勝ちまくっていたが、職員採用が市に一本化されたらチームが弱体化した、という話もあった。

　高校としても野球は生徒集めの手段だった。共学化する、ブランドものの可愛い制服を導入する、特進コースを作って進学実績を上げる、それよりも１回、甲子園に出れば名前が売れる。大阪兵庫あたりの中学生を特待生として引っ張ればワンチャンいけるかも知れない。野球部だけでなく、他の生徒も就職進学につながる。志望者が増える。地区大会でも他の生徒が応援に駆り出され、甲子園なんか出た日にはバスを仕立てて全校応援（軍隊感が強いよねえ）。

　企業や高校大学にとって、「野球は特別『安い』」のか。

　競技スポーツとしての中学校の部活は、複線化の影響を受けている。昔は、中学校の部活→高校の部活→大学の部活または社会人またはプロ、だった。今は野球でプロに行くような子は小学生から始めるし、中学校の部活（軟式野球）ではなくリトルシニアリーグ（硬式野球）を選ぶ子も珍しくない。野球こそ高校野球は高野連に一本化されているが、サッカーなど高校でも部活に参加せずに競技レベルを上げて行く種目、子どもは珍しくない。ポジティブな意味でも野球を中学校の部活以外でやる子どもが無視できなくなっている。

　ネカティブな意味では？。「野球はダサい」とは言わないが、相撲と野球以外でも飯を食っていける種目が見える今では、野球は特別じゃなくなっている。それに野球は、中学生から競技を始めてもソコソコ楽しめるスポーツでは、既に無い。ドラえもんの空き地はないし、父親とキャッチボールすることもない。親世代だって、朝野球やっていないでしょ？地上波で野球中継ほぼ無いでしょ？ライト層の子どもが野球を始めるきっかけが無い（コンテンツとしての消費も怪しい）。

　「総理がアホやから野球ができひん」

　、と、いうような国会質問ではなかった。でも個人的には、「もうちょいマシな質問しろや」と感じた。

　高校の時、紅白戦もできない部員数で地区大会出ると負けの野球部と、部員数４倍の吹奏楽部とが、学校からの予算が同じだったのを、今でも根に持っている。他の部活に比べれば、校内行事参加や対外活動もある吹奏楽部は予算的に優遇されていた方だったが。