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21、最後の戦い

 優一は梅津を背負って、避難所になっている学校を目指した。

 まだ雨が強く降っていて、二人ともその雨を受けながらの道だった。

 それでも、二人とも明るい表情を浮かべていた。雨を心地よく感じていた。


 優一の足元には、梅津の家に住んでいた猫たちが一匹たりともはぐれずに歩いていた。その中にはゴンの姿もあった。

 梅津が優一に尋ねた。


「四郎君は鈴音ちゃんを迎えに行ったんじゃろ? 優一君は行かなくて良かったんかい?」

「え、なんで? おれは行かなくてもいいだろ」


 優一はそう答えた。


「ワシがお荷物になってしまって、優一君の青春を逃してしまったんじゃないかと思うとったんじゃ」

「いやいや、おれは別に鈴音のことはどうも思ってねえよ」


 優一はそう言って、さらに自分の青春のありようについて語った。


「おれいま、青春を燃やすべきめっちゃすげえことを見つけちゃったんだよ。それに全力投球だよ」

「そうか……」


 梅津は優一の背中から優しさと強さの両方を感じていた。


 ◇◇◇


 鈴夜が亡くなってから、鈴音は実質の一人暮らしになっていた。

 松田家に食事を呼ばれるなど、特に孤独になることはなかったが、いまは孤独の中にいた。


 鈴音は窓越しに外を見ていた。強い雨がまったく降りやまない。

 待てども、雨の音が無限に続くだけだった。


 一応、四郎とは夜に会う約束になっていた。鈴音はそのときをただぼんやりと待っていた。


 四郎のことが好きなのかは自分でもわからない。

 あちこちを徘徊する猫がたまたま餌場を見つけるように、そこに四郎がいただけなのかもしれない。

 田舎の律に、異なる音が混じったのをただ珍しく見ているだけなのかもしれない。

 鈴音はまだ自分の人生のありように自信を持てずにいた。自分が迷子の仔猫であることを悟っていた。


 ずっと人付き合いが苦手で、老人の集まりにも肩身の狭さを感じていたが、こうして薄暗い中、一人でいると寂しい気分になった。


 そんな鈴音の視界に猫の姿が入った。


 土砂降りの中、猫はてくてくと一人寂しそうに歩いていた。


 鈴音はその猫を招き入れてやろうと思い、外に出た。

 傘を差して雨を受けると、その勢いに傘が壊れてしまった。

 鈴音は壊れた傘を畳み、雨の中に身を入れた。


 先ほどの猫を追いかけて小走りになった。

 どっちに行っただろうか、鈴音はキョロキョロと探し回った。


 たかが一匹の野良猫。それでも、鈴音は雨の中探し回った。

 やがて、山道に入る。


「あ、いた」


 野良猫は山の斜面を歩いていた。どこか怪我しているようにも見えた。


「おいで!」


 鈴音が呼んだ。頭につけていた鈴が音を鳴らした。

 しかし、猫には届かなかったようだ。猫は雨に打たれる中、その場で丸くなってしまった。


 鈴音は猫のもとに向かおうと斜面に乗り出した。

 その道中、鈴音は地面を失った。

 強い衝撃が体を襲った。意識はその瞬間に消えた。


 鈴の音が1つ暗闇に広がった。


 ◇◇◇


 四郎は鈴音の家に到着した。

 鈴音の家は昔ながらの木と瓦屋根の家になっている。

 隣に車庫があり、開け放しになった先に鈴音の自転車が見えた。


 ベルを鳴らしたが、まったく反応がない。

 とうに避難したのだろうか。

 鈴音のところには、松田などが支援に入っている。松田は大型車も完ぺきに乗りこなせる。おそらく、松田たちと共に学校に避難したのだろうと推測した。


「それならば、学校に急ぎましょう」


 四郎は学校のほうに視線を向けた。


 そのとき――。


 四郎は後ろで鈴の音を聞いた。

 振り返ってみると、そこには何もない。雨が地面を打つ音と溝の水の流れだけが響いている。


「……」


 空耳だろうと思った。鈴音の身に着けている鈴の音が特徴的だから、四郎はたびたびその音を思い出していた。それを聞こえたように錯覚したのだと考えた。


 しかし、学校に向けて歩き出したとき、もう一度鈴の音がした。

 四郎は足を止め、胸に抱えていたエニグマを見つめた。


 エニグマから鈴の音がしたような気がした。


「君、しゃべれますか?」


 四郎はエニグマにそう尋ねていた。非現実的な奇跡に遭遇していた四郎は神秘の一つぐらいは信じることができる状態にあった。

 エニグマはしゃべらなかったが、先ほどの鈴の音は錯覚のようには思えなかった。


 四郎は山のほうを振り返った。

 視線の先に急な斜面の山がある。ダムも設置されていて、たびたび水害が発生しているのだという話を松田から聞いたことがあった。

 四郎の視線の先で、もう一度鈴の音が響いたようだった。


「鈴音さん……」


 四郎は学校のほうではなく、山のほうに向けて走り出していた。

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