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98.轟く雷

 かろうじて封じたかに見えた肉列車の異形だったが、ふたたび巨大な目玉にぬめった光を取り戻す。

 肉列車の腕がふたたび縦横無尽に暴れだしていた。


 夢野の背後から肉列車の腕が襲う。

 不意を突かれた夢野は、肉列車の腕に跳ね飛ばされ、ホームの柱に激突する。


 そのまま、動かなくなる夢野。


 肉列車が大量のよだれをたらし、六本の腕を夢野に近づけていく。


「あーぁ、もう、めんどくせー。めんどーだった。でも今度こそ、おいしく食べよー」


 こうなったら最後の手段を使うしかない。

 オレは、エン魔を正面から見つめる。


「エン魔。例の光の矢とやらを見舞ってやってくれ」


 エン魔の雷のことだ。


「?」


 わけが分からずキョトンとするエン魔。


 さすがのエン魔の雷も地下まで届くことはなく、ほとんど封じられたも同然だということを、エン魔自身も理解している。


 オレは、肉列車の上の架線に目配せする。

 エン魔も、オレの視線の先に目を向ける。


 オレは、エン魔の瞳を真っすぐ見つめ、ニッと口角を上げる。

 エン魔もオレの意図を理解したようで、同じようにニッと不敵な笑みを返す。


 そしてオレは、最後に一言付け加える。


「当然、手加減はいらないからな」


 エン魔は、オレを見上げると――エン魔としては見下ろしたいところだろうが残念ながらオレの背の方が高い、ツルペタの小さな胸を大きくそらす。


「まあ、見てなさい。わたしは冥界の王、閻魔よ。いい加減ソースケにも、その偉大さを心に焼き付けてもらうわ」


 ひとしきり言い終えると、肉列車の異形に向きなおる。


「ちょっと、キミ。悪業深すぎ、先に審判の間で待ってなさい」


 肉列車の異形が虚を突かれ、一瞬、凍りつく。


 エン魔が胸の前で両手を組み、パープルサファイアの瞳を輝かす。


「天界に生じ地獄界まで貫くまばゆい白光にして火焔、衆生を清浄に導く光の矢、この閻魔の導きによりその光を放ちなさい」


 最後の決めポーズにご満悦といった感じのエン魔。


「……」


 しかし、一向に何も起きない。


 虚を突かれて固まっていた肉列車の腕が、ふざけるなとばかりにふたたび夢野に近づいていく。


 カタ、カタカタカタ……。


 どこからともなく伝わるかすかな振動。

 その振動は、少しずつ大きくなり轟音をともなって近づいてくる。


 ……バリバリバリバリバリ。


 強烈な光を放つ青白い稲妻が、列車の架線にまとわりつくようにして駆け抜けてくる。

 そしてそのまま、肉列車の異形本体を雷光の斧がかち割っていく。


 ババババババッシャーン。


 辺り一面が真っ白な光に包まれ視力を奪う。


 こんなこともあろうかと、オレは肉列車の上に飛び乗ったとき、切断された架線の状態を確認し、列車にしっかりと固定しておいたのだった。


 エン魔の雷は、一旦地上にある鉄道の架線に落ち、その架線を伝って肉列車の異形まで到達したのだ。

 列車が木っ端微塵になることは、以前の燃える列車の件で実証済みだ。


 エン魔の雷がおさまり視力が回復すると、あれほど巨大だった異形の姿がない。

 周囲に目を向けると、夢野がホームの柱にもたれかかったまま弱々しく手を振っている。


「センパーイ、らいりょうふれすかー」


 ――夢野、大丈夫じゃないのはお前の方だ……。


 とにかく、命に別状はない様だ。


 エン魔は、おねむのようでペタンとお尻をついて座り込み、ウトウトしている。

 エン魔の雷を使ったことで、呪力だか魔力だかかを消耗しすぎたようだ。


 足取りのおぼつかないエン魔の手を引き、恐る恐る異形の詰まっていた車両に足を踏み入れる。


 とそこには、ブクブクと太った人らしきモノが仰向けに倒れていた。

 丸く突き出た腹は、脂肪のひだに覆われだらしなく垂れ下がっている。


 一見、人のように見えたそれだったが、それは人間ではなかった。

 赤黒い血のような色に染まった目、耳まで裂けた口、髪は木の枝のように逆立ち、牛のものとも鹿のものともつかない角を生やして息絶えている。


 そして、腕が六本。

 その一本が閻魔帳を握っていた。


 エン魔がにがい顔で眠そうな涙目を細める。


「ふぁー。太っちょな修羅ね」


 閻魔帳を使うことによって、自らを修羅へと落としめてしまったのだろう。


 エン魔は、ふらつきながらも何とか閻魔帳に手をかける。

 閻魔帳を手にしたエン魔は、そのままよろけてペタンと床にお尻をつく。


 おねむのエン魔は、そんなことは気にもとめず、ツルペタの胸元から閻魔帳を取り出すと二つの閻魔帳を合わせる。

 柔らかな青白い光が二つの閻魔帳を包み込み引き合うように結合していく。


 それでも、エン魔の影を含んだ表情から、まだすべて閻魔帳が揃ったわけではないということが見て取れた。


 エン魔は、そのまま印を結び呪文を唱えると、四方に梵字のようなものが施された魔法陣を、修羅の周囲を取り囲むように浮かび上がらせる。

 肉電車の修羅は、その魔法陣の中に沈んでいった。


 エン魔は、まぶたの落ちかけた細い瞳ですべてを見届けると、パタンと上体を倒し眠りの中に入っていった。


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 次回は、いよいよ話の一区切りとなります。


 この話は、まだまだ続くのですが、どうしたものかと検討中です。

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 次話を早く投稿出来るよう頑張ります。


 よろしくお願いします。



 次回、「99.旅立ち」


 お楽しみに!!

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