91.五芒星の結界
夢野の真下、落下地点付近に、オレが巻き起こした強烈な渦は、夢野の落下速度を落とし、空気のクッションとなって夢野を包み、落下の衝撃を吸収した。
「夢野!」
オレが近づくと、夢野はすぐに目を覚まし、よろけながらも立ち上がる。
そこに、一旦は吹き飛ばしたはずの餓鬼が、間髪入れず襲いかかってくる。
すかさず夢野は、二本の指で刀印を結ぶと、空に星形――五芒星を描き結界を展開する。
跳び付くように襲いかかる餓鬼は、その勢いを消すことができず、そのまま結界に突っ込む。
結界に突っ込んだ餓鬼の身体は、真っ黒な細かいすすのようになって、チリチリと燃え尽きていく。
夢野は、燃え残った餓鬼の身体に呪符を貼ると、すかさず五芒星を描き次の結界を展開する。
そこにまた、次の餓鬼が襲いかかってくる。
夢野の結界は、持続時間がそれほど長くはないようで、最初から結界を展開して待ち受けるといったことができない。
餓鬼が踏み込んでくるタイミングに、結界の展開を合わせなくてはならないのだ。
しかも、結界に触れなかった餓鬼の身体は再生を始めるため、呪符によってその動きを封じておかなければならい。
ある程度、餓鬼を引き付けなければならない危険な呪法であるにもかかわらず、夢野の動きは洗練されていて華麗とさえ思えるほどだった。
上方には、肉列車の六本の腕が夢野を捕らえようとうごめいていたのだが、今はまったく動けなくなっている。
けも娘がその太い大蛇のような腕の上を引っかきながら俊敏に走りまわり、そのけも娘を追うように動きまわった腕は、互いにからみ合って動けなくなってしまったようだ。
肉列車の異形が車両側面の窓に目玉の位置をギョロリと移し、からまった腕に目を凝らす。
列車の出入口扉を押し開き、肉列車のゆがんだ口がせり出す。
「あーくそー、めんどくせー。めんどくせー。めんどくせー」
腕を少しずつ動かし、からまった腕をほどこうと、自らの腕と苦闘する肉列車。
けも娘は、単にたわむれていただけのようだったが、結果としてかなりの時間をかせぐことに成功していた。
エン魔はといえば、肉列車とホームを挟んで反対側にとまっているもう動くこともないだろう列車の上に腰かけ、退屈そうに足をブラブラさせている。
生死を分ける状況にも関わらず、まったく意に介さない表情のエン魔。
エン魔からしてみれば、すべてのものの生き死には、繰り返される流れが形づくる輪の中にある過程の一つにすぎないのかもしれない。
夢野がさらしのように巻いた白衣を餓鬼の爪がかすめる。
白衣のさらしに、熱を帯びた血の赤がにじんだ。
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次回、「92.呪符と旋風」
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