84.列車の異形
列車の中に吊るされている夢野を見付けたオレ。
手首には、縛り付けられたワイヤーの食い込んだ赤いあざが見て取れる。
オレが霊体でなかったなら、全身の毛が逆立ち、血が沸騰していただろう。
いびつに顔をゆがませ奥歯を強くかむ。
――くっ……。ゆ、ゆめ……夢野。
バン、バン、バン、バン。
オレは、列車の窓を思いっ切り叩く。
「夢野! 夢野! ゆ、め、のー!」
全身のそれこそ全霊で叫ぶ。
夢野はうなだれたまま、まったく反応を示さない。
オレの声は、夢野に届いていないようだった。
ドバッシャーーーーン。
突然、車両全体に大きな衝撃。
と同時に、列車の動きが急激に止まる。
オレは、強烈な揺れを受けて飛ばされかけたが、列車の窓枠に偶然にも指がかかり、かろうじて振り落とされずにすんだ。
見ると、けも娘もパンタグラフに身体が引っかかったようで、なんとか無事のようだ。
エン魔にいたっては、何事もなかったかのように列車の後端に直立している。
腰に手を当て、指で髪をサラリとなびかせるエン魔。
パープルサファイアの輝きを宿した瞳が彼方の闇をまっすぐに見つめる。
閻魔大王の風格と言いたいところだが、小学校の低学年にしか見えないロリエン魔では、残念ながら威厳も何もない。
何かに衝突したと思われる衝撃に前を見ると、この車両の前に止まっているもう一両の車両が目に入る。
どうやら速度を落とさずに前の車両と連結――いや、衝突したようだった。
おぞましい亡者たちの押す列車は、それほど速度が出ていなかったのでこの程度ですんだが、もう少し速度が出ていれば脱線や横転をしていてもおかしくはない。
次の駅ということなのだろうか、気付くと足元にプラットフォーム。
オレは、列車から飛び降りると車両のドアの方にきびすを返す。
そこで目にしたのは、なんとも不気味な光景だった。
衝突した前の車両から蛇のようにうねる六本の巨大な腕が伸びているのだ。
よくよく見ると、車両の中には、一杯に膨れ上がった肉のかたまりがそれこそ車両からはみ出さんとばかりに詰まっている。
その肉のかたまりは、車体を内側から押し曲げ、窓ガラスを押し割り、割れた窓やドアから腕を伸ばしているのだ。
エン魔が見据えていたのは、この光景だったのだ。
何があっても痛くもかゆくもない悪霊のオレなのだが、さすがに気を呑まれ身体が凍り付く。
巨大な腕を見上げながら後ずさり、足がもつれてよろける。
列車のドアまでの距離が異常に長く感じられた。
――オレはともかく、夢野をどうする。
凄まじい光景に気圧されかけたオレだったが、よくよく考えれば恐れることはないはずだ。
余程の裏技でもない限り、あの巨大な腕ですらオレにダメージを与えることはできないだろう。
どちらかというと、破魔矢の方が危険なくらいだ。
しかし、夢野を助けるとなるとオレにできることも限られ、よい手も浮かばず焦りしかない。
オレは、歯をかみしめるとノープランで列車のドアに向かって走る。
なかば転がり込むように車内に入ると、吊り下げられた女をかわし――かわす必要もないのだが、夢野の肩をつかむ。
「夢野!夢野!」
が、当然のごとく、オレの手が夢野の肩をつかめるわけもなく、身体ごと夢野を透けるように通過し、勢い余って列車の後方に転げる。
再三の呼びかけにもかかわらず、夢野はまったく目覚める気配さえ見せない。
振り返って前を見ると、ふたたびオレの背筋が凍りつく。
前方車両の左右の窓に、それこそ窓いっぱいの巨大な目玉がギョロリとねめ付けるようにオレを捉えていたのだった。
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次回、「85.眼窩の涙」
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