80.悪霊の謀
ピッ。
『 -10 アクリョウポイントガ、ゲンサンサレマス』
ピッ。
『 -10 アクリョウポイントガ、ゲンサンサレマス』
ピッ。
『 ミギウデヲ、ウシナイマシタ』
『ソウレイカガ、ハンゲンシマス』
素良に射られた二連の矢がオレの右肩を寸分たがわず貫通し、オレの右肩が光の粒となって霧散する。
と同時に、右腕がキラキラと虹色に輝く塵となって消えていった。
――ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバい。
オレは、霊体なので腕を失っても、まったく痛くもかゆくもないのだが、騒霊――物を動かすことができなくなれば、打てる手も打てなくなる。
――もう一歩、いや半歩前に出てくれれば……。
だが、その一歩をなかなか踏み出してくれない。
オレの腕がなくなるのを見た素良が、苦い顔で目を細める。
「高槻さん。私たちが争う意味なんかないわ。仲よく一緒に暮らしましょう」
オレは、素良に強い視線を送る。
「夢野は!」
素良が、少し視線を外す。
「夢野さんは、あきらめてください。夢野さんは、ここに来る全ての人たちのために必要なの」
オレは、さらに語気を強める。
「悪い、それはできない相談だ」
素良は、短く息をつくと諭すように続ける。
「人は、自らのことを霊長類だなんて呼んで、まるで生物の頂点にいるかのように振る舞って、生態系の外にいる高次元の存在か何かのように錯覚して生きてきたの……」
「他者の生命を喰らって生きるものは、生命を捧げるものにもなりえる」とでも言いたいのだろうか。
オレも、気持ちを落ちつかせて訴える。
「難しいことは、よくわかんないけど、きっと、なんとかなる」
――そう、閻魔帳さえ元に戻れば……。
素良が弓に矢をつがえながら、一旦、まぶたを閉じ深く息を吐く。
そして再び、瞳を開くと、悔しそうな表情でオレを見つめる。
「どうしてもわかってもらえないようですね。それでは、ここでお別れです。高槻さん、消えてください」
素良が立て続けに二本の矢を射放つ。
オレは、両手を軽く握ると――右手はないのでイメージだが……、視野の中に吹き荒れる風の動きを、意識の中心、そのさらに奥底に描き出すように強く念じる。
悪霊っぽい青黒い炎がオレの身体を包み込み、周囲の空間に異変が生じ始める。
微妙な気圧の変化が気流を生み出し、やわらかな風がただよい始める。
ビシュッ、ビシュッ。
ピッ。
『 -10 アクリョウポイントガ、ゲンサンサレマス』
ピッ。
『 -10 アクリョウポイントガ、ゲンサンサレマス』
素良の放った矢は、またもや正確に、今度はオレの左肩を貫いていく。
左腕まで失うと、間違いなく騒霊が使えなくなってしまう。
素良の正確すぎる弓が、なんともうらめしい。
その時、気流が急激に変化し始め、強い風の流れを作り出す。
荒れ狂う強烈な突風が正面から素良に向かって吹き付ける。
素良は、少しでも風をさえぎろうと、弓矢を持つ手を前にかざし身構える。
さらに、姿勢を低くし、風の圧力に負けないよう足に力をかける。
とほぼ同時、いきなり風がなぐ。
風の抵抗に負けまいと前のめりになっていた重心がくずれ、素良は前につんのめった。
そして、転ぶのをさけるための足が一歩前に出る。
素良の足がワイヤーの輪の中に……。
――は、いっ、たー。
オレは、眼球を見開き、自分でも引くくらいのえげつない笑みを、口元に浮かび上がらせていた。
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次回、「81.悪霊の罠」
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