8.地獄絵図
今回もお付き合いよろしくお願いします。
さて、閻魔帳を元に戻さなければならないのだけど聡亮が……。
それでは、ごゆっくりどうぞ。
「とにかく、残りの閻魔帳をさがしましょ」
閻魔様が、鋭い目線をオレに向ける。
オレは、部屋のドアを手のひらで指し示す。
「どうぞ、ご勝手に」
自由、気ままに生きると決めたオレが――いやすでに死んでいるのだが、閻魔帳さがしなどに付き合う義理はない。
切れ気味に語気を強める閻魔様。
「キミのせいでしょ」
話をはぐらかすために、オレは、わざと話題をすりかえる。
「キミ、キミって、オレにも名前があるんだけど」
閻魔様は、閻魔帳をパラパラとめくると、ある頁に目を止める。
「高槻聡亮ね。 よし、ソースケ! 閻魔帳をさがしにいくわよ!」
どうやらオレの頁は、手元の閻魔帳にあるらしい。
オレは、ふたたびドアを指して、高飛車な態度に出る。
「だから、ご勝手にどうぞ」
閻魔様は、怒り心頭といった様相。
「ほんっとに冗談じゃないわ。 少しは畏れ、奉りなさい」
「もうオレは、誰からも指図は受けないよー」
オレの人生?は、もう誰にも邪魔させない。
――閻魔様ぁー。 いやもうエン魔でじゅーぶん。
気に入らなければ、地獄でも、阿鼻叫喚でも、どこにでも送るがいい。
オレ、もう、はっきり言ってヤケクソ。
そのエン魔が、むくれた表情で、あきれたように言う。
「これを見ても、同じことが言えるわけ?」
エン魔の指し示す方向をよく見ると、コンビニの駐車場で人が争っているようだった。
一見、人同士の争いに見えたそれだが、片方はどうやら人ではない。
それは、一糸まとわぬ姿で、相手の男に襲いかかろうとしていた。
茶褐色をしたざらついた肌、肋骨などの骨格を浮かび上がらせた異様に痩せた体。
落ち武者のような頭頂部の禿げた頭に、茶毛の混じったカサついた白髪がおどる。
かろうじて皮がへばりついているだけで頭蓋骨むき出しの顔面には、眼窩に直接埋め込まれたかのようなギョロリとした眼球。
その大きく見開かれた眼球だけが、何かしら猟奇的な意志を持って、その存在感を放っている。
両の手足には、異様に長い、鋭い爪が光っていた。
もう一人のコンビニ店長風の男は、泥土で汚れたワイシャツをまくって、必死の抵抗を試みているようだった。
ここまでかなりの間、しのいできたのだろう、息が上がり体力を使い果たしているようにも見える。
こんな状況で、コンビニ営業もどうかと思うのだが、自分の利益のためなのか、世間への奉仕の気持ちなのか、いやそもそも金銭価値があるのだろうか。
どちらにしろ、異様なヤツらが、ほかにもウロウロしているのであれば、コンビニ営業など危険極まりない。
オレは、そんなことを思いながらも、異様な光景に全身の血が引いていくような衝撃を受けた。――あっ、いや、もともと血はなかったか。
次の瞬間、得体の知れない茶褐色のヤツの爪が、男の頭を払った。
男の頭が、首にかかっていたと思われるネックレスとともに、宙を舞う。
そして、鈍い音を立てながら、地面に転がり落ちた。
もともと頭のあったはずの首の根元から、破裂したかのように血しぶきが上がる。
それと同時に、男の体は揺らめき地面にくずれ落ちた。
茶褐色の奴は、俊敏な動きで転がった男の頭に食らいつき、むさぼり食う。
「ゔぉゔぎぃぃぃ……」
むさぼりながらも、涙をながし、悲鳴のような声をあげる。
しばらくすると、頭を失って倒れていた男が、その干からびかけた上体を、むくりと起こした。
頭を失った首の根元部分から、新たな頭蓋骨が、狭い首の管を押しのけて、あたかも這い出すかのようにして再生する。
手足は、皮と骨だけを残したように痩せ細り、血に染まったワイシャツは、骨だけになった体に、なんとかまとわりついているといった感じだ。
異常に伸びた鋭い爪。
もはや、それは人間ではなく、得体の知れない茶褐色のヤツと同じものだった。
頭蓋骨の眼窩には、奇異な光を放つ眼球がギョロリと見開かれている。
それは、もともと自分のものだった頭をむさぼり食う茶褐色なヤツを視野の中に捉えると、それに飛びついた。
お互いをお互いの爪で切り裂き合い、そして、眼球からにじみ出る涙を眼窩にためながら、相手の体をむさぼり食う。
首をはねられ倒されると、体からは、ふたたび頭が再生し、そしてまた、お互いを切り裂く。
際限なく、繰り返される惨殺と搾取。
これぞまさに地獄絵図といった様相だ。
オレが唖然としていると、心中を見透かしたようにエン魔が言う。
「あのねー、ソースケ。 地獄は、あんなもんじゃないからね!」
で、出た茶褐色なヤツ。
次回、なんと彼女が登場。
お楽しみに!!
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