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75.エレベーターの異形

 おびただしい数の餓鬼の手足、胴やなどが沈められた巨大な水槽。

 無数に設置された檻の中からは、不気味なモノのうごめく気配が伝わってくる。


 さすがのエン魔も目を細め、苦笑いでつぶやく。


「まるで、獄卒の所業ね」


 けも娘は、恐怖のあまりオレやエン魔にしがみ付こうとするのだが、つかめるわけもなくあたふたしている。


 檻の中を注意深く見ると、餓鬼が手足を縛られ、身動きの取れない状態で吊るされている。

 ここにいる餓鬼が食肉の素となる「源体」とかいうことなのだろうか。


 極めつけは、立ち並ぶ檻のその先にある、溶鉱炉を思わせる巨大なボイラー設備らしきもの。

 オレは、自分の目を疑った。


 人らしきモノが燃えさかる炎の中へ次々ととび込んでいく。

 タンク内の水を沸騰させて、蒸気を発電機などへと送る設備なのだろうが、その燃料となっているものが人のように見えるのだ。

 しかもそれは、自ら猛火の中へとび込んでいく。


 よく見ると、その人らしきモノは、全身脂肪のかたまりのようにブクブクしていて、火柱のあがる炎の間近にいるにもかかわらず寒さに震えているようなのだ。

 寒さから逃れるためには、もはや炎の中に飛び込むしか方法がないのだろう。

 しかし、炎の中に飛び込むと身体はより大きな炎となって、焼けただれ溶けてゆく。

 その時の熱さと痛みから来る断末魔の叫びが、悲鳴となって響いているのだった。


 だが、これで苦悩の生涯を終えられるわけではない。


 完全に溶けてなくなったかのように見えたそれは、小さな脂肪のかたまりとなって炎の中から転がり出る。

 その脂肪のかたまりは、ふたたびブクブクと増殖して、人の形をした脂肪のかたまりとなって凍えるのだった。


 そしてまた、炎の中にとび込んでいく。


 これらが燃えることによって排出される炎の煙が、濃く白い闇のごとき煙となってビルを覆い尽くしているのだった。


 エン魔がボソッとつぶやく。


「地獄の亡者……」


 永遠とも感じられるほどの寿命が尽きるまで続く亡者の苦痛と恐怖が、このビルの無限の電力となっているのだ。


 第六天魔の暗冥門による六道融合は、ついに地獄界にまで及び始めているということなのだろうか。


 頭をハンマーでなぐられたような衝撃が走り、思考が止まる。

 ――実際には、ハンマーでなぐられても痛くもかゆくもないのだが……。


「ミギャ?」


 けも娘がエレベーターの脇に、異形の生き物を見つけて後ずさる。


 エレベーター周りは、構造部分がむき出しになっているのだが、その陰に隠れるかのように二体の異形が静かに呼吸していた。


 大きな四角い肉のかたまりのようなモノが、上に向けて口を開いている。

 角張った肉のかどのあたりに目があるようだが、今は閉じられていて肉ひだの中にうずもれている。

 抜け残ったようにも見える体毛が、あちらこちらからいびつに伸びていた。


 そして、驚くことにその二体の異形は、エレベーターの昇降用のワイヤーロープを口から飲み込んでいるのだ。

 身体に比べて大きくごつい両腕が、開けられた口のすぐ横から生えていて、しっかりとワイヤーロープを握りしめる。


 一見足はないようだが、ナメクジのようなひだがあり、ゆっくりであれば移動できるのかもしれない。

 ただ、ワイヤーロープが身体を貫通し床に固定されていて、要はワイヤーロープで身体を串刺しにしたような格好なのだ。

 これでは、もう動きようがない。


 その異様さに唖然とするオレ。


 しばらく警戒していたけも娘だったが、動けないとわかると徐々に距離をつめていき脇にしゃがむと、その丸い猫の手で異形の身体を興味本位にツンツンし始めた。


 その刺激に反応して、異形が目を覚ます。


 思いのほか大きなギョロリとした目が見開かれる。

 巨大な眼球がワイヤーロープを捉え、同時に涙をにじませる。

 大きなごつい腕が、ワイヤーロープを口の中に引きずり込んでいく。

 身動きのできないこの異形が飢えを満たすためには、ワイヤーロープを飲み込むほかに術がないのだろう。


 オエ、オロオロㇿㇿ……オエ。


 もう一体の異形が奇声を放ちながらワイヤーロープを吐き出す。

 いや、無理矢理、吐き出さされているのだ。

 その激痛に耐えているのか、やはり零れ落ちそうなほどに眼球を見開き、涙をためる。


 一体の異形がワイヤーロープを飲み込めば、そのワイヤーは引っ張られ、それにつながったもう一体の異形、その胃袋にあるワイヤーロープが引き出され、吐き出されるのだ。

 果てしなく繰り返される飢餓と嘔吐。


 そして、これがエレベーター昇降の原動力となっているのだ。


 ヒュルルルルルルル……。


 エレベーターが少しずつ上昇を始める。


 エン魔が呆れ顔で息をつく。


「ほんっと、地獄ね」


 ビューッ、カッ。


 その時、唖然とするオレの肩辺りを何かが貫通――いや、通過と言った方がいいか、背後のカベに突き刺さる。


 ピッ。

『 -10 アクリョウポイントガ、ゲンサンサレマス』


 それは、どこからか放たれた一筋の破魔矢だった。


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