74.餓鬼の牢獄
風の力を借りて落下速度を落とす計画で、エレベーターの縦トンネルに跳び込んだオレとエン魔とけも娘。
しかし、落下速度は一向に落ちない。
唯一、けも娘だけが風のあおりを受けて緩やかに降下している。
霊体であるオレは、身体に気体が通過してしまうため風の影響を受けることなどないのだ。
エン魔にいたっては、服やスカートはめくれるくせに、やはり落下速度は変わらない。
はっきり言って、めくられ損だ。
その辺りは、オレの願望が影響しているのだろうか?
――ヤッ、ヤバい。
身体的には、まったく痛くもかゆくもない霊体のオレだが、墜落したときの恐怖による精神的なダメージは計り知れない。
一生、忘れることができないトラウマとなってしまうだろう。
もうすでに死んでるけど……。
オレは、エレベーターのワイヤーロープにしがみ付き、減速を試みる。
キュルキュルキュルキュル……。
オレの手とワイヤーロープの間に摩擦が発生し火花が散る。
しかし、まったくもって熱くも痛くもない。
ドン。
そして、何とかオレは最下層に停止しているエレベーターの上に着地することができた。
「いやー! ソースケー! キャー! 地獄よ! 地獄! 阿鼻叫喚……」
声の方を見上げると、エン魔の白パンツ。
バッカーン。
落ちてきたエン魔と激突したと思しき状況に目を見開くと、暗闇の中。
何かが顔に押し付けられている。
目が慣れるにつれ薄っすらと浮かび上がる白……。
――白、白パンツ?
もしやここは、エン魔のスカートの中?
オレの顔にペタンと座り込む格好となったエン魔が半べそでつぶやく。
「……地獄よ」
そんなオレとエン魔をはた目に、けも娘だけがオレの計画通り着地に成功していた。
オレは、エレベーター上のフタを開けてカゴの中に下りる。
間違いなく頂点まで気分を害したであろうエン魔と、至ってウキウキなけも娘が、後に続く。
エレベーターの扉は開いたままで、その外に人工的な明かりはない。
そこは、巨大な炎に照らされているようで、横からの強い炎の揺らめきが、そこにあるものを赤々とした光が照らす世界と深淵の闇に二分していた。
炎の光がなければ、すべてが闇の中に沈んでいるだろう。
時折、獣の遠吠えのような異音が悲鳴のごとく響きわたる。
息をひそめて耳をそばだてると、何かが動きまわる気配やうめき声が周囲からにじみ出ているのがわかった。
オレは、恐る恐る中に足を踏み入れる。
血生臭さが鼻に突き刺さる。
さすがのエン魔も、息を詰まらせているようだ。
けも娘に至っては、震えて縮こまっている。
首に結ばれた木札が揺れる。
「九豚」と書かれた木札。
けも娘は、この場所を知っているのかもしれない。
「九割豚の肉、逃げちゃったから、豚だけないんだったー」
紗羅の言葉を思い出す。
炎に照らされたその空間に目を向けると、そこには異様な光景が広がっていた。
巨大な倉庫のようなその空間には、数々の檻が牢獄のように並んでいる。
エレベーター横のカベ一面には、これまた巨大な水槽が並べられていて、天井まで届くほどに積み上げられている。
水槽の中身に気付いたとき、胃の中から苦いものが込み上げてくるのを感じた。
――あくまでも、胃があったときのイメージだが……。
その水槽の中には、餓鬼の手足、胴やなどが雑然と沈められていたのだった。
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次回、「75.エレベーターの異形」
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