72.ホテルワゴン
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夢野の身に危険を感じて部屋に戻っては見たものの、やはり夢野は戻っていない。
エン魔は、夢野がいなくなったことで少しパニックを起こし、珍しく半べそでふさぎ込む。
――おっとあぶない。またもや、エン魔の頭をなでてしまうところだった。
キュイー、キュルキュル、キィキー。
キュイー、キュルキュル、キィキー。
突如、ドアの向こう、廊下から響き渡る錆びた鉄がするような耳障りな音。
そうそれは、以前にも聞いたことがある。
あのホテルワゴンの車輪のまわる音。
そのワゴンにかけられたクロスは、まるで遺体を覆っているかのように見えたのだった。
それは、まさに遺体を運ぶストレッチャー。
キュイー、キュルキュル、キィキー。
キュイー、キュルキュル、キィキー。
今のオレには、もはや悪い想像しか浮かばない。
――夢野!!
オレは、部屋のドアを押し開け、なりふりかまわず廊下に出る。
小っちゃなエン魔も緊縛ギツネのぬいぐるみを背中に背負ってオレに続く。
すかさず、廊下の先を左右確かめるが、ホテルワゴンの姿はどこにもない。
すでに、廊下には、一切の音は消え失せ、ピンと張った糸のような空気の中で静まり返っていた。
勢いで飛び出したものの、手がかりすら見つけ出すことができない。
どうしたものかと頭を悩ませていると、背後に不穏な気配を感じる。
オレとエン魔は、互いの顔を見合わせ、息を飲む。
それは、オレとエン魔のすぐ後ろ、砂時計の砂のような微かな違和感が肩越しに落ちる。
オレは、エン魔に目配せすると、呼吸を合わせて振り返る。
オレとエン魔が、気配の中心から距離を取り、身構えようとした、その時。
ドン、ドドド、ガシャ、シャ、シャ、シャーン。
突然、天井から制気口のスリットごと何か白いかたまりが落ちてきた。
その真っ白でモフモフした丸いかたまり。
そう、それは、けも娘だった。
けも娘は、天井から思いっきり転落してきたにもかかわらず、尻もちをついた格好で、ペロッと舌を出し、喜々とした瞳を向ける。
気配の正体がけも娘とわかってほっとしたのもつかの間、けも娘は、ピクピクッと耳を動かしたかと思うと、何かを聴き取ったのか廊下の先に強い視線を送る。
「ガウ」
突然、全力で駆け出すけも娘。
オレとエン魔が呆気に取られていると、けも娘は急に立ち止まりこちらに振り返る。
「ミィギ?」
小首を傾げ、不思議そうな表情。
エン魔が目を細め、オレを見上げる。
「シオリーの場所がわかるのよ」
オレとエン魔には聞こえない車輪の音が、けも娘には聞こえているのかもしれない。
けも娘を追って連れてこられたのは、使用されてないはずのエレベーター前だった。
スイッチやエレベーターの現在地を示すランプなどは完全に消えていて、どう見ても動くようには思えない。
けも娘は、かまわずエレベーターの扉と扉の間に爪をねじ込む。
「ミィギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ……」
扉が少しずつこじ開けられていく。
けも娘の怪力に圧倒されるオレとエン魔。
扉が開くにつれその隙間から機械音がもれ出てくる。
――これ、動いてるぞ!
「これ、動いてるー」
互いの顔を見合わせるオレとエン魔。
完全に扉が開くと、当然のようにそこにはエレベーターのかご室はなく、内部をのぞき見ると、レールやワイヤーロープなどの機械的な部分がむき出しになって、トンネルを縦にしたように上下に続いていた。
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やっぱり、地下が怪しい……。
次回、「73.エレベーターダイブ」
お楽しみに!!




