69.薄闇の二人
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「……」
「…………」
エン魔の雷を喰らってから、どれほどの時間がたったのだろうか。
ふたたび意識がゆっくりと浮かび上がる。
ビクッと軽く身震いすると、それが合図かのようにガバッと目を開くオレ。
視界には、湯の底からの光景が当たり前のように飛び込んでくる。
――おい、おい。ほったらかしかよ。
とは言え、エン魔も夢野も、正体不明の不気味なものに、わざわざ近づきたくはなかっただろう。
オレは、念のため湯船からそーっと顔だけを出して様子を見る。
温泉施設の営業?は終了したのか照明が落とされている。
その薄暗い施設内に響きわたる熱い湿った吐息に似た声。
「……あっ……あ……ン」
声の方に顔を向けると、抱き合っている女の姿が目にとまる。
オレは、ただただ唖然とするしかない。
闇の中にかすかに漂う光が、女体の艶めかしい肌を妖しく浮かび上がらせる。
床に仰向けに寝ころんだ女に、もう一人の女がまたがりまさぐり合う。
細くしなやかな指が、ゆっくりと太ももをなで上げていく。
マシュマロの丘を包み込んだかと思うと、無造作につかみ上げる。
「あぅ……ン」
お返しとばかりに、首筋から胸にかけて舌を滑らせていく。
「紗羅、今度は、夢野さんに協力してもらうことにしよう」
それは、間違いなく素義の声だった。
――素義もどこかにいるのか。
会話の間も、指や舌がお互いの身体の至るところをなめまわしていく。
「うぅ……。そ、素良。やっぱり、シオリっちじゃなきゃ、ダメぅ……かな」
――えっ!
素義の話に紗羅がごく自然体で返しただろう会話だったにもかかわらず、素義に向かって「素良」と呼んだことに、オレは違和感を覚えた。
オレは、気付かれないよう慎重に湯船から身を乗り出し、二人の女に目を凝らす。
それは、間違いなく素義と紗羅だった。
ただ、紗羅はともかく、長身の男であるはずの素義は、背格好が紗羅と瓜二つの女なのだ。
胸なんかは、素義の方がかえって大きい。
顔こそ素義なのだが、身体はどう見ても女のものだった。
いや、そもそも素義は、もともと中性的な顔をしている。
男にしては高めの声も、女性の声だと思えばその方がしっくりくる。
胸をさらしなどで巻いて男装し、異様に長い足も何かの細工だったのかもしれない。
素良と呼ばれたのは、確かにその女のようだった。
素良が、素義の声で言葉を返す。
「うふふふ……。だってあの二人、血肉ないでしょ」
そう言ってわき腹に舌をはわせる。
「ふえっ」
紗羅が反応してうめく。
――ち、血肉って……?
オレは、この言葉に凍り付く。
――最初から、オレとエン魔のこと、気付いてたのか?
素義声の素良が続ける。
「今晩、決行ね」
「……」
紗羅も仕方なさそうにうなずいた。
紗羅と素良は、立ち上がるともう一度深く唇を重ね、お互いにお互いの腰を抱きながら、立ち去って行った。
有らぬ所から……。
それは、温泉施設の壁に設けられた隠し扉だった。
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素義→もとよし→素良→そら。
素良、紗羅、姉妹。
次回、「70.九割豚」
お楽しみに!!
 




