68.水中の影
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長く暗い配管の中をなんとか正気を保ちながら進み続けると、光が差し始め視野が開けた。
オレは、恐る恐る顔の半分――目の辺りまで、水面から顔を出す。
前ほどでないものの、辺りはやはり薄くモヤのかかった状態だ。
しかしながら、外の白い闇とは違い、室内であることがうかがえる。
「エン魔ちゃーん。はやく、はやくー。気持ちいいよ」
どこからともなく、夢野の声。
その言葉をさえぎるかのようにエン魔の声が続く。
「エン魔ちゃん言うなー。閻魔様! 閻魔様!」
周囲の壁に反響してかエコーがかかったかのように響き渡る。
声のする方に目を向けると、そこには、なんと一糸まとわぬ姿のエン魔がいた。
小さなかわいい胸が、モヤの中でおぼろげに見えかくれする。
ほんっとに言いたくないのだが、エン魔は、性格を抜きにすれば、この世の者とは思えないくらいに――実際、この世のものではないのだが、かわいいのだ。
そのエン魔がスッポンポン。
――めっちゃエロいぞ。エロエン魔。
夢野もまた、なにも身に着けず水際のへりに腰をかけている。
どうやら、腰あたりまで水につかっているようだ。
ここからでは、濃いモヤに遮られ、かろうじて身体のシルエットを捉えることができるかどうかだ。
それでも、適度に引き締まった身体に、女性らしい艶やかさが感じ取れる。
――夢野ぉー、大きく育ったね。
エン魔は、素っ裸にもかかわらず、まったく恥じらいもなく堂々とした振る舞いで、夢野を前に仁王立ちしている。
そして、何か不思議なものでも見るような目で、夢野を見つめた。
「シオリー。なんでそんなに釜茹でになりたいの?」
――ん? 釜茹で……?
霊体であるオレには、熱い冷たいといった温度の皮膚感覚もないようで、気付いていなかった。
ここの水は、水というよりは湯といったほうがいい温度なのだろう。
ここに立ち込める白い霧は、湯煙の立ったものだ。
どうやらここは、温泉施設のようだった。
――ということは、ここはもしや女風呂……。
それにしても、エン魔もオレと同様に霊体であるはずなので、温泉につかれるはずもない。
夢野にどうそそのかされたのかはわからないが、裸になる必要などまったくないのだ。
まあ、当の本人がいいのであれば問題ないのだが、エン魔が裸になってうれしいのは、この場面ではオレくらいだろう。
――もうまったくの、だめン魔ぶり。
夢野が肩まで湯につかり、心地よい表情を浮かべる。
「いいから、いいから、こっちこっち」
そんなこととは露知らず、エン魔を手招きする夢野。
それに応じ、夢野の隣に腰掛けるエン魔。
夢野の誘いどおりしてみたものの、何が何だかわからないといった様子で、瞳をパチクリとさせる。
夢野は、得意げな表情でエン魔の反応をうかがう。
「どお? どお?」
はたから見ると、湯煙の向こうで湯につかる美女二人といった情景だが、エン魔には湯につかっているといった感覚はないだろう。
夢野もエン魔も、オレの存在にはまったく気づいていないようだ。
――フッ、フッ、フッ、フ。
よこしまな魂胆が、オレの悪霊モードを呼び覚ます。
オレは、湯の底に仰向けに寝転ぶと、這いずるようにしてゆっくりと、夢野たちとの距離をつめる。
――このまま進めば、眼前に夢野やエン魔のムフフ……。
芋虫のようなその動きを見ることができたなら、なんとも気色悪かったことだろう。
しばらく進むと、オレの顔のすぐ横に足の指が現れた。
爪には、何も塗られていないようだが、温泉の熱で紅潮しているのか、赤味がさしている。
そこから細くひきしまったかわいいくるぶし、色白の肌がふくらはぎにかけて艶やかだ。
もはや、心臓の早鐘が限界に達しそうになる。
心臓あったらの話だが……。
やや顔を上げてみると、揺らぐ水面の先にやわらかそうにそびえるマシュマロの山二つ。
山の頂点は、桜色に色付いている。
――ち、ち、近っ!
そして、その山の谷間の先に夢野の笑顔がのぞく。
エン魔との話に夢中になっているようで、こちらには、まったくの無警戒のようだ。
オレは、頭の位置を夢野の足と足の間に微調整する。
――ふっ、ふっ、ふ。夢野、悪いな。オレは、先輩である前に、悪霊なんだ。
ピッ。
『 +10 アクリョウポイントガ、カサンサレマシタ』
『ポイントノゴウケイハ480デス』
オレの下劣な考えが悪霊ポイントを生み出す。
オレは、夢野の白いふくらはぎの林の間をゆっくりと進み、ゆで立ての卵のような太ももにはさまれた。
――もうすぐ、もうすぐ、夢野のムフフ……。
次の瞬間、なんと夢野は素早い動きで立ち上がり、突然、湯船から離れてしまった。
ほぼ同時に、エン魔も湯船から上がる。
――ま、まずい?
そう思った瞬間、全身に強烈な衝撃が走り意識が吹き飛ばされる。
消えゆく意識の中で、エン魔の話す声をかろうじて耳が拾う。
「シオリー、気付かな……た。今、湯の中に何か……ように……」
どうやらオレは、エン魔の雷を喰らったようだ。
オレの意識は、完全に闇の中へと落ちた。
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雷を喰らって、意識を失う聡亮。
次回、「69.薄闇の二人」
お楽しみに!!
 




