66.急降下
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けも娘が目覚めたのは、すっかり陽は落ち、夜も深まった頃だった。
オレは、安心して深く息をつく。
オレは、眠り続けるけも娘にずっと付き添っていたのだった。
閉じた瞳の端にとどまっていた涙の玉も、今は完全に乾き切っている。
かみ切った両腕も、やっと元のように再生したようだが、さすがに純粋な餓鬼だったときとは違いかなりの時間を必要とした。
眠りから覚めたけも娘は、そっと青い瞳を開くと、すばやく上体を起こす。
オレは、その俊敏な動きに驚き、少し後ずさる。
「だ、大丈夫か?」
けも娘は、いるはずがないと思っていたオレがいることに気づくと、瞳を大きく見開き、驚愕の表情で一瞬固まる。
そして、血まみれの自分の身体に視線を泳がせ、オレから距離をとるように後ろに跳ねた。
「ガウ」
血まみれのその姿は、まさに餓鬼を思わせる。
その姿をオレに見られたのがショックだったのか、けも娘の視線が泳いだ。
けも娘は、少しためらうも、オレから逃げるようにして駆け出そうとする。
オレは、逃げ出そうとするけも娘の動きを止めようと、背後から抱きつくように全力で跳びつく。
反射的に起こした行動だったが、よくよく考えれば霊体であるオレは、けも娘に触れることすらできないはずだった。
今、オレにできるのは、騒霊――要は、物をつかむことだけだ。
しかし、オレのこの場当たり的な行動が功を奏す。
けも娘が付けている唯一の物に、オレの指がかかったのだ。
それは、木の札を付けるために、けも娘の首に巻かれた縄だった。
しかしながら、オレは、けも娘の圧倒的な勢いに負けて、けも娘を止めるどころか、身体ごと持っていかれ、けも娘もろともバルコニーから宙に飛び出すこととなってしまった。
バルコニーのフェンスや窓枠などの凹凸を足がかりに、想像を遥かに超える俊敏さで、ビルの外壁を下っていく。
オレは、振り落とされないように注意を払う。
とは言っても、霊体であるオレは重量があるわけでもないので、力はまったく必要としない。
予想もしない方向へ急激に振り回されるのは、気分のいいものではないが、気を抜いて手を放してしまわないように注意してさえいればいいのだ。
万が一、手を放してしまったとしても、恐怖体験第2弾が待っているだけで、身体的――いや霊体的には、痛くもかゆくもない。
けも娘の動きが重力とその反動で、さらに加速する。
――これはこれで、コ、コ、コワ……。
オレは、目を閉じて、けも娘に身をまかせる。
けも娘がどこを目指しているかは分からないが、下に降りるまでは、なすがままになるよりほかはない。
バッシャーン。
突如、鳴り響く轟音。
けも娘の首縄から手が離れ、転がるオレ。
驚いて目を開くと、なにかゆがんだような空間がそこにあった。
低い姿勢で周囲を見まわす。
数メートル先までしか光が届いていないのか視界が悪いが、白い煙の闇とは、明らかに感じが違う。
視線を上げると、その空間をけも娘がくるくると飛んでいる。
周囲の状況に戸惑いながらも、ゆっくりと立ち上がる。
すると、ゆがんだ空間からすぽっと頭が抜け出て、あの白い煙の闇に包まれた空間が目の前に広がった。
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光の届かない空間とは?
次回、「67.ゆがむ空間」
お楽しみに!!
 




