64.飢えと痛み
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けも娘を追ってビルの壁を下るオレとエン魔。
多少のいざこざはあったものの、なんとかけも娘の入っていった部屋のバルコニーまでたどり着くことに成功した。
エン魔は、いまだご機嫌ななめのようで、バルコニーの柵にもたれ、あらぬ方向にむくれた顔を向けている。
オレは、バルコニーの壁を背にして、サッシのガラス越しにそっと部屋の中をうかがう。
照明のないその薄暗い部屋のかた隅に、うずくまるけも娘がいた。
よく見ると、けも娘の周りの壁や床には、血しぶきによる血のりが貼り付いている。
そんな中で、けも娘は、血のしたたる肉にむしゃぶりついていた。
したたり落ちる血がけも娘の周りに血だまりを広げていく。
「ギミィーミィー」
けも娘は、飢えと痛みと悲しみが入り混じったような苦悩の表情で、こぼれ落ちそうな涙を瞳にため、その肉に喰らいついているのだった。
肉を喰らい尽くしたけも娘は、今度は自分の腕にかぶりつく。
ガキッ、ベキッ!
異様な音を響かせ腕を力づくでかみ切る。
「ウギー、ウギー」
激痛に顔をゆがませるけも娘。
こぼれ落ちる涙のしずくが血だまりの中に溶けていく。
見ると、けも娘はすでに片腕を失っていた。
もう一方の腕をかみ切ったことで、両腕とも失ってしまったことになる。
オレの背後から、不意にエン魔が部屋の中をのぞき込む。
「他者を傷つけることを自らに禁じたのね……」
エン魔が珍しく神妙な面持ちで口にした内容はこうだ。
けも娘が餓鬼である以上、寿命を全うするまで飢えの苦しみは続いていく。
けも娘は、その飢えを、他者を喰らうことによってしのぐのではなく、自らを喰らうことで克服しようと決めたのではないかという。
満たせない飢えに常にかられている餓鬼には、喰らえる物は手当たりしだいに喰らい尽くすといったことのほか、考えを差し挟む余裕などないはずなのにだ。
ましてや、自分を痛め付けて苦痛を増やす意味がどこにあるというのだろうかと思う。
だが、この戒めを課したことが、けも娘を餓鬼でないモノへと変貌させたのかもしれないのだという。
しかし、また逆を考えれば、この戒めを犯したとき、けも娘は元の餓鬼へと戻ることとなる。
今一度、餓鬼に戻ってしまえば、もう二度とこのような奇跡が起きることは期待できない。
飢えと苦痛にあらがい続けてなお、餓鬼でないモノであろうとする決意のよりどころは何なのだろう。
両腕を失ったけも娘は、くわえた自らの片腕を血だまりの中に落とすと、真っ白な頬を赤黒く染めながら、肉塊と化した腕にむしゃぶりつく。
「ギミィーミィー」
けも娘の青い瞳からは、涙の粒がとめどなくあふれ続けていた。
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次回、「65.綿の玉」
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