63.純潔潔白の攻防
読みに来ていただきありがとうございます。
今回も、お付き合いよろしくお願いします。
アスパラ畑で始まった水合戦。
夢野とけも娘そしてエン魔の楽しげな声と笑顔があふれかえる。
そうして、しばらくの間、はしゃぎまわっていた三人だったが、突然の異変に空気が一変する。
またしても、急にけも娘が苦しみ出したのだ。
ガクガクと震えながら、引きつった口角から大量のだ液をしたたらせる。
青い瞳には、なにかしら邪悪な影がさし始めていた。
両手で顔を覆い、うずくまるけも娘。
オレたちが近づくと、けも娘は急に駆け出し、崩れかけた壁の向こう――何もない空間にとび出した。
崩れて上層階を失っているとはいえ、十階以上はあるビルの上から飛び降りた格好だ。
オレは、恐る恐るビルの下をのぞき込む。
エン魔もオレの後に続く。
崩壊したビルの最上階となってしまったこのフロアには、転落防止の柵などはなく、不用意な行動をとれば命取りになりかねない。
ただ、オレには、とうに取られる命などないのだが……。
しかし、転落するときの恐怖だけは尋常ではないのだ。
――さ、さすがに高すぎ……。
オレは、床に腹ばいになると建物の端に手をかける。
なんとか首だけ出して下を見ると、けも娘が四、五階下の部屋へと入りこんでいくのが見える。
あの辺りの階は、全く使用されていないようで、人の出入りがないどころか、大地震の後から手が付けられておらず、瓦礫に埋もれて部屋に行くことすらできなくなっている。
壁伝いに下りて、バルコニーから侵入するより手はないだろう。
オレは、意を決して、壁側に身を乗り出す。
手がかり足がかりになりそうなものを探して、指と足をかける。
要は、高所で高度なボルダリングをするようなものなのだが、オレ自身には、重量というものがないに等しいので、手足には何の負担もかからない。
高所に対する恐怖さえ克服できればなんてことはない。
万が一落ちてしまったとしても、霊体であるオレは、はっきり言って痛くもかゆくもないはずだ……と思う。
だが、生身の人間がここから落ちれば、つぶれたトマトのごとき有様となるであろうイメージが頭から離れず、霊体となってなお、ジリジリとオレの心に恐怖を湧き上がらせる。
手足がガタガタと小刻みに震えだし、止めようにも止めることができない。
――大丈夫、お前はすでに死んでいる。
どこかで聞いたようなセリフを自分に言い聞かせるオレ。
そう言えば、言われたヤツは、破裂してトマトケチャップのようになっていたような……。
その時、震える足が目標を踏み誤り、身体のバランスが大きく崩れる。
オレは、文字通りわらをもつかむ思いで、やみ雲に手を伸ばす。
このまま転落かと思われたオレだったが、偶然にも伸ばした指が何かにかかった。
落下しかかったオレの身体の動きが、間一髪のところで止まる。
「ちょっと、ソースケ。もう、ほんっと、いい加減にしてくれない」
頭上から、不機嫌そうなエン魔の声。
振り向くと、なぜかエン魔が顔を赤らめながらオレをにらんでいる。
エン魔は、片手の指を排気口の凹凸になんとか引っかけてぶら下がっている。
オレが指をかけたことにより、エン魔もいっしょに転落するところだったようだ。
オレは、少し視線を落とすと、自分の指のかかった先に目を向ける。
――お、おっ!
なんとラッキー、いや、何の偶然なのか、オレの指は、エン魔のパンツにかかっていたのだった。
純潔、潔白の白パンツがずれ落ち、もう少しでエン魔の……。
もちろん、オレが霊体でなければ、パンツもろとも転落しているところだっただろう。
エン魔が顔をさらに真っ赤にしながら、切れ気味に語気を強める。
「ソースケ。早くなんとかしなさいよね」
オレは、周りを見まわしながら少し考えると、左右に身体を振る。
すぐそばにある窓枠に飛び移るために弾みをつけることが目的であるかのように装いつつ、実はエン魔のパンツをずり落とす計画だ。
こうなると、霊体であるがための影響力のなさが、逆にじれったい。
オレは、反動を利用してスイングをより加速する。
ズッ、ズルッ
エン魔の白パンツが少しずつずれ始める。
――ムフフ……。
エン魔が片手でスカートをしっかと抑えながら、涙の球を瞳に浮かべる。
「キャー! わたしは閻魔よ! 神なの! ソ、ソースケ! いっ、いやー!」
そんなエン魔の訴えを完全に無視し、さらにスイングに拍車をかけるオレ。
ピッ。
『 +20 アクリョウポイントガ、カサンサレマシタ』
『ポイントノゴウケイハ463デス』
オレの邪気をはらんだ想念と、エン魔への所業が悪霊ポイントを生み出す。
潤んだ瞳を細めてにらむエン魔は、なぜか不気味なほど落ち着きを取り戻している。
だが、その背後には、頂点に達した怒りの黒い炎がメラメラと燃え上がっているのが見えるようだった。
エン魔が排気口らしきものにかけていた命綱ともいえる唯一の手、その指の力を少し緩める。
「ソースケ。一回、いっしょに落ちてみる?」
エン魔のその言葉に、オレの背筋は一瞬のうちに凍り付き、もはやエン魔のパンツどころではなくなってしまった。
【応援よろしくお願いします!】
「面白かった」「続きが気になる」と思ってくれた方、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちで大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
よろしくお願いします。
落ちるぞ、落ちるぞ、落ちるぞ!
次回、「64.飢えと痛み」
お楽しみに!!




