58.白い煙の空間
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部屋に戻ると夢野はすでにベッドで眠っていた。
ベッドに腰かけてオレが戻るのを待っていたらしいが、よほど疲れていたのだろう、すぐに眠気に襲われ眠り込んでしまったらしい。
ここまでの過酷な旅のことを思うと、当然といえば当然だろう。
オレは、そっと掛け布団を夢野にかける。
野営のときには見せなかった幸せそうな夢野の寝顔に、オレの心もすこし安らぐ。
――さて、これからどうしたものか……。
オレは、夢野を起こさないように気を配りながらも、周辺の状況を確認するため、そっとサッシを開きバルコニーに出る。
部屋の案内図によると、かなり広いバルコニーが設置されているはずだった。
と言うのも、白く濃い煙に覆いつくされたその空間には、本当にバルコニーが存在するのかさえ目にすることができず、足場を確認しながら慎重に進むしかない。
それでもなんとか、バルコニーの先端部分と思しき柵にたどり着き、そこに手をかける。
前方に目を凝らすも、当然といえば当然なのだが、まったく先を見通すことができない。
後から遅れてついてきたエン魔が、難しい顔をのぞかせる。
「ソースケ。この煙の中、餓鬼でいっぱいだよ」
どうやらエン魔は、夢野が目覚めるまでの間、オレが付き添っていることを良いことに、建物の外にまで散策に行っていたようだった。
「えっ」
オレは、一瞬息を飲む。
エン魔が目を輝かせて、小鼻を膨らます。
「縄を足に縛り付けて、木にぶら下がって、遊んでるの」
――まったく意味不明。
唖然とするオレに、身振り手振りを加えて声を弾ませる。
「そった木の反動でピヨーンって」
――木の反動?
エン魔の身振りから整理すると、しならせた木にワイヤーロープを縛り付け、餓鬼の足にワイヤーが絡むとしなった木が解き放たれ、その反動で餓鬼の身体が宙に投げ出されているようだった。
「あちこちでピョーンピョンしてたから、わたしもやってみたけど……」
残念そうに表情を曇らせるエン魔。
「縄が足にかからなかったわ」
当然、霊体的なオレやエン魔にワイヤーがかかるわけがない。
エン魔は、それがアクティビティか何かだと勘違いしているようだ。
オレは、今までの話の内容から、これしかないだろうという結論を口にする。
「それって、もしかして罠じゃない?」
いまいちピンと来ないといった表情のエン魔。
「ワナ?」
エン魔の感の悪さに、目をひそめるオレ。
「動物なんかを捕まえるときに使う仕掛けのこと」
よりいっそう目を輝かせ、語気を強めるエン魔。
「おおっ。ワナ、やってみたーい」
オレもまた、眉間にしわを寄せ、声を高める。
「いや、罠にはまったら危険なんだって」
「うん、そう。こーんなにはまったの、こんにゃくゼリー以来」
エン魔が満面の笑みを浮かべる。
――こりゃ。だめ、だめ、だめン魔だ。
一向にかみ合わないエン魔との会話に、オレは苦笑いするほかなかった。
それにしても、重ね重ね不思議なのは、なぜここには、結界ではなくて原始的な罠なのだろうか。
餓鬼を捕らえても、餓鬼の再生能力をなんとかしなければ、後の処置に困ってしまう。
そして、間違って餓鬼にやられれば、犠牲者を出すどころか餓鬼を増やすことになり、利点をまったく感じない。
放置しておけば、捕まった餓鬼を目当てに他の餓鬼が集まり、危険以外のなにものでもないはずだ。
オレが考えをめぐらせていると、エン魔が白く垂れ込めた闇のある部分を指し示す。
オレとエン魔の視線に緊張が走る。
エン魔の示した真っ白な空間には、二つの青い光。
それは、数メートル先のバルコニーの柵の上に浮かんでいた。
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白い闇の中に青い光が輝く……。
次回、「59.青い瞳」
お楽しみに!!




