57.地下の結界
読みに来ていただきありがとうございます。
今回も、お付き合いよろしくお願いします。
地下から異様な音が響いて……。
それでは、ごゆっくりどうぞ。
ヒューヒュルー。オーアオー。
風が鳴くような不気味な音が、かすかに響きわたる階段。
食事を終えて人心地付いたオレたちは、部屋へ戻ることにした。
上層階を失ったこのビルは、さすがにエレベーターまでは動いておらず、階を移動するときには階段を使わなければならない。
風が鳴くような音とは言ったが、実際には、風が吹いている気配はどこにもなく、空気の動きをまったく感じない。
その異様な響きは、異形のモノたちが発するうめき声を連想させた。
とは言っても、意識を聴覚に集中させなければ気付くことはまずない微妙な音で、気のせいと言われればそうとも思う。
ちなみに、エン魔と夢野は、まったく気付いていないようだった。
オレは、エン魔と夢野を先に上に行かせ、音のする下方へと階段を折り返す。
階段を下るほどに、音は、心なしか大きくなって来ているように感じられた。
食堂のある一階を通り過ぎ、地下へと続く階段を下りようとすると、そこには、関係者以外立ち入り禁止のプレートの付いた網フェンスが設置されていた。
少し迷ったが、プレートの内容には無視を決め込み、フェンスを開いて階段を下っていく。
地下へと続く階段には、照明がないのか妙に薄暗い。
オレは、慎重な足取りで一歩また一歩と段を下っていく。
ビリッ。
その時、全身に軽く電気が走ったような衝撃を受ける。
軽くよろけるオレ。
――こっ、この感触は……。
ピッ。
『 -5 アクリョウポイントガ、ゲンサンサレマス』
『ポイントノゴウケイハ443デス』
――結界!?
この先は、結界によって異形のモノの侵入を封じているのだ。
軽い接触だったので良かったが、不用意に足を踏み込んでいたら、大事になっていたかもしれない。
オレのような悪霊は、結界に対してまったく手も足もでない。
そこへ突然、さびた鉄の扉が閉まる音。
と同時に、さっきまでの異音が、バッサリとやんだ。
コツ、コツ、コツ。
階下から忍び寄る何者かの足音。
オレは、後ずさりながら身体を強張らせる。
「高槻さん。ここは、立ち入り禁止でーすよ」
そこに現れたのは、にっこりとほほ笑む紗羅だった。
オレは、苦笑いを浮かべながら、なかば逃げ帰るかのように、その場を後にしたのだった。
――どういうこと?
オレは、三階の廊下を部屋に向かいながら、頭に浮かんだいくつかの疑問を整理する。
一つ目の疑問は、誰が結界を張ったかということだ。
ドアなどに呪符を貼るものと違って、空間に結界を張ることは、そうたやすくできるものではない。
とはいえ、そもそも素義も紗羅もオレやエン魔が見えているわけで、それくらいの力を持っていても不思議ではないかもしれない。
ではなぜ、オレやエン魔が霊体であることに気づかないのか。
オレが悪霊だということに気づけないのであれば、それはもう、結界を張るとかいう以前の問題だ。
二つ目の疑問は、結界を張る場所だ。
餓鬼などの侵入から建物を守るのであれば、当然、結界はエントランスに張るべきだ――もし張られていたら、オレも入れなかったが……。
なぜ、人の出入りがなさそうな地下への階段なのだろうか。
それとも、素義や紗羅自身ですら、結界の存在に気付いていないということなのだろうか。
キュイー、キュルキュル、キィキー。
キュイー、キュルキュル、キィキー。
歩きながら考えに浸っていると、いつの間にかやって来たホテルワゴンに、ぶつかりそうになる。
手入れが行き届いていないのか、錆びた車輪から耳障りな音を響かせている。
――こんな状況で、ルームサービス?
オレは、半歩ほど廊下の端に寄りワゴンを避ける。
ワゴンを押している従業員らしき者は、オレに気付いているのかいないのか、素知らぬ顔で何事もなかったかのようにオレの横を通り過ぎていった。
ただオレは、横を通り過ぎるワゴンに言い知れない違和感を覚えていた。
その違和感は、どこからくるものなのか。
――んっ!
オレの背筋に冷たいものが走る。
思い起こしてみると、ワゴンにかけられたクロスの起伏が意味するのは、布に包まれた遺体だった。
そして、そのクロスの下からのぞいていたのは、まさかとは思うが、人の指ではなかったか。
しかしながら、地下階段の不気味な雰囲気に当てられたオレは、妙な錯覚におちいっているのかもしれない。
オレは、考えを吹っ切って、もう一度辺りを見まわす。
しかし、すでにワゴンは、どこへともなく消えるようにいなくなっていた。
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なにか怪しげな空気が……。
次回、「58.白い煙の空間」
お楽しみに!!
 




