56.茸のパスタ
読みに来ていただきありがとうございます。
今回も、お付き合いよろしくお願いします。
エン魔を鎮めるには、「こんにゃくを供えなさい」ってことです。
それでは、ごゆっくりどうぞ。
――だから、肉の種類だって言ってんだろ! この、だめン魔!
オレの心の暴言を読み取ったエン魔の気を静め、なんとかエン魔の雷を回避することができたオレ。
――おお、閻魔様。
さすがのオレも、思わず深く感謝する。
そこへ、夢野が割って入り自己紹介を始めた。
「今度は、私たちの番だね。私は夢野詩織。夢宮神社で巫女をしています」
軽くどよめく、素義と紗羅。
あまり込み入ったことは、話してほしくないのだが、夢野は基本、裏表のない性格だ。
オレの考えなどまったく気にとめず、話を進めていく。
「私、餓鬼を……」
「お、おーっと。はい! はい! 今度はオレ。」
オレは、夢野の言葉をなんとかさえぎった。
夢野は、餓鬼が封印できるとかいうことを話そうとしたに違いない。
――夢野ー。なんでも話せばいいってもんじゃないぞ。
まったく、エン魔も夢野も危なっかしくてしょうながい。
オレの強い発言に、「そんなに自己紹介がしたかったの?」といった周りの反応。
それを、軽い咳払いで受け流す。
「高槻、高槻聡亮です。よろしく」
必要最小限の自己紹介に、素義と紗羅は、安堵したようだった。
オレがいきなりハイテンションな自己紹介を始めたら、逆に薄気味悪いとでも思ったのだろう。
「そして、なんて言ったらいいか……」
エン魔を指して、言葉をにごらせるオレ。
――しまった。エン魔をどう紹介したらいい?
そもそも、名前からして怪しすぎる。
――偽名でも付けるか。エンコ、エコ、マコ、エマ、エマ! エマがいいんじゃ……。
オレが頭をフル回転させていると、エン魔が横から割って入ってくる。
「わたしは、冥界の王にして死者の生前の罪を裁く神、閻魔。閻魔大王様と呼びなさい」
そして、エン魔は、髪に指をサラッと通すと、足を組んで決めポーズをとる。
愕然とするオレと、ポカンとする素義と紗羅。
そんなオレたちをしり目に、小さな胸をそり返して、エン魔が続ける。
「そして、畏れ、崇め奉り、供物を供えなさい」
ますます、エン魔の調子が加速していく。
――仕方がない、最後の手段だ。
オレは、気づかれないようにエン魔の頭を人さし指で指すと、その指をクルクルと回し、パッと手のひらを開いて見せた。
「彼女、ちょっと頭おかしいので相手にしないで」という意味を、素義と紗羅に手振りで伝える。
エン魔は、それに気づき――オレの手振りに気付いたというよりは、どちらかというとオレの心を読んだのだろうが、頬をふくらましてオレをにらみ付ける。
「ちょっと、ソースケ、いい加減にして。もう絶対、地獄送りだからね」
――オレの地獄送りは、今に始まったことじゃないだろ。
オレは、心の中で悪態を付くことくらいしかできない。
紗羅は、オレとエン魔を、ほほ笑ましく見つめる。
「仲がいいのね」
オレからすると、勘違いもいいところだ。
エン魔も、当然、同意見といった表情で、オレをにらむ。
そうとも知らず、素義もまた、あたたかい笑みを浮かべる。
「それでは、料理を運びますからごゆっくりどうぞ」
前菜から始まってスープ、魚料理、メインディッシュの肉料理と、次々と運ばれる料理。
エン魔には、茸がふんだんに使用されたパスタが運ばれてきた。
渋々といった感じで、パスタを口に運ぶエン魔。
が次の瞬間、エン魔の顔がパッと明るくなる。
「なっ、なにこれ」
驚き半分、うれしさ半分といった表情で、パスタをかき込むエン魔。
茸のクリームパスタのように思えたそれは、パスタの代わりにしらたきを使用したものだった。
――どこから探してきたのだろう。
粋な計らいに、感動すら覚えるオレ。
夢野も、興味津々の様子で、しらたきパスタに目を輝かせる。
「きっとこれ、ダイエットにもいいよ。私もこれ頼もうかな」
――いーや、夢野、とりあえずダイエットより体力の回復の方が先だ。
安らいだ時間を久方ぶりに満喫していると、そこに男の声。
「あれ、お嬢さん。お一人ですか?」
声に目を向けると、男女のカップル。
テーブルでイチャイチャしていた、あのラブラブカップルだ。
女は、女性に声をかけた男に対して不満顔。
どうやら二人には、オレとエン魔が見えないようだった。
オレは、夢野に「一人ということにしてくれ」という意味を伝えようと、人さし指を立てて目配せする。
夢野は、オレの意図を読み取ると、ぎこちない微笑みで返事を返す。
「は、はい」
隣に目を向けると、エン魔は、まだ、夢中になってしらたきパスタをかき込んでいる。
カップルは、夢野に目を向けていて気付いてないようだが、箸が浮遊するというポルターガイスト現象が起きているはずだ。
思わず声が出るオレ。
「エン魔、箸を置け!」
ドキリとしたオレだったが、カップルには声も届かないようだった。
だが、エン魔は、オレの声に驚いてテーブルに箸を落としてしまう。
カタ、カタ、カタ……。
突然の異音とテーブルを転がる箸に驚くカップル。
女がいぶかし気な表情で、男の手を引く。
「なんだか気味わるい。もう行きましょ」
男は、女に引っ張られながらも、振り向いて手をあげる。
「失礼、また機会があれば……」
オレとエン魔が見えるのは、やはり素義と紗羅だけということらしかった。
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二人にだけは、謎に聡亮たちが見える。
ちなみに、素義は、「もとよし」です。
次回、「57.地下の結界」
お楽しみに!!




