52.白い闇と光
読みに来ていただきありがとうございます。
今回も、お付き合いよろしくお願いします。
はたして、光の輪郭の正体は?
それでは、ごゆっくりどうぞ。
「ソースケ! 見て!」
それは、よく目をこらして見ないと煙の濃淡と勘違いしてしまいそうな微妙な光だった。
その光が白い闇のように立ち込める煙の中に、かすかな光の輪郭を浮かび上がらせている。
四角く規則的に連なる光の列。
それは、まぎれもなく建物に並ぶ窓から漏れ出る光だった。
オレは、両手を軽く握ると、巻き起こす風の流れを、意識の中心、そのさらに奥底に描き出すように強く念じる。
悪霊っぽい青黒い炎がオレの身体を包み込み、周囲の空間に異変が生じ始める。
微妙な気圧の変化が気流を生み出し、やわらかな風がただよい始めた。
そして、一陣の疾風が周囲の煙をなぎ払いながら駆け抜け、灯りのともった建物に向かって叩きつけるように吹きすさぶ。
エン魔がスカートをおさえながら、眉尻を上げる。
「ちょっと、ソースケ、いい加減にして! こっちは風吹かなくてもいいでしょ!」
――残念でーした。
必死にスカートをおさえるエン魔だったが、結局、エン魔の純潔、潔白の白パンツはチラチラと見え隠れしていた。
こんな緊急時でも、悪霊ポイントの確保は怠らない。
――なんてマメなオレ。
ピッ。
『 +5 アクリョウポイントガ、カサンサレマシタ』
『ポイントノゴウケイハ448デス』
辺りの煙が消し飛ぶと徐々にホテルのエントランスらしきものが目に入ってくる。
息を詰まらせる、オレ。
――もともと、息してないと思うけど……。
それは、高級ホテルのようで、室内には灯りがともり人々の行き交う影がその光の中に見て取れる。
そこだけが以前の素晴らしい世界――今となってはそうとしか思えないのだが、のまま変わっていないのではないかとさえ思えた。
しかし、さらに全貌が見えてくると、やはりその建物は、周りの建物と同じように上層階は崩れ落ち十数階付近から上は失われていた。
そして、そのすぐ後ろには、その建物の高さの5倍以上はありそうな絶壁がそびえ立ち、その崖の上から水が溢れ滝となって流れ落ちてきていた。
大地震は、偶然にもその建物のすぐ後ろに亀裂を生じさせ、川ごと分断し隆起させ、高層ビルに匹敵する高い壁のような絶壁を造りだしたのだった。
背後には切り立った崖、前面には先の見えない白い闇、流れ落ちる滝によって、生命線である水も確保できる。
よくよく考えれば、これほど守りを固めるのに都合の良い立地はないだろう。
突然の突風に驚いたのか自動ドアが開き、ホテルのエントランスに二つの人影が姿を現した。
――電気が通っているのか?
ふたたび唖然とするオレ。
二人はエントランス前で何やら意見交換をしているようだったが、しばらくすると、スラリとした長身の男性が、意見を交わし合っていた女性を残し、まっすぐオレたちの方に向かって近づいてきた。
エン魔がやや身構える。
「ソ、ソースケ……」
オレは、後ずさりながらも言葉を継ぐ。
「見えてるのか?」
オレが悪霊として認識されているのだとしたら、どのような除霊攻撃を仕掛けてきてもおかしくはない。
しかし、オレの予想に反して、男は穏やかなまなざしでオレたちを迎え入れる。
長い髪を後ろで一つにまとめ上げていて、見方によっては女性とも見まがうような中世的な顔つきをしている。
手足はスラリと長く、特に足は異常なほどに長い。
そして、いかにもホテルの従業員といったきっちりとした服装をしていた。
男は、想像を裏切る高めの声で言う。
「これはこれは、お三方、よくぞここまでご無事で来られました。お疲れでしょう。さあさあ、心おきなく疲れを癒していってください」
――お三方?
振り向くと、そこには今にも倒れてしまいそうにフラフラとしながらも、夢野が弱々しい笑顔を浮かべていた。
「私、がんばったよ」
その言葉を発するのが最後の力だったのか、夢野はふたたびそこに倒れ込んでしまった。
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要塞のようなホテルにたどり着いた聡亮たち。
これで、夢野も一安心か?
次回、「53.夢野の気持」
お楽しみに!!
 




