5.異世界転生
エン魔の魔法陣に吸い込まれたオレは、しばらく意識を失っていたのだろうか。
目を開くとそこには、中世ヨーロッパを思わせる佇まいの建物が立ち並ぶ、いかにも異世界転生といった感じの世界が広がっていた。
あたりにいる者たちの中には、蜥蜴のような顔を持つ者、猪のような鼻や牙を持つ者、羽根のある妖精じみた者など、さまざまな種族――とでもいうのだろうかが、混在している。
以前のオレなら、物おじしてしまうところだろうが、今のオレは違う。
どうせ、すでに一度死んでいる身、この上どうなろうと怖いものなどない。
さらに、エン魔の話では、オレには、無限の力が発揮できる能力が備わっているはずだ。
――オレ、間違いなく、怖いものなしじゃない。
そんなことを思いながら辺りを見まわすと、リンゴの入ったカゴを抱えてやって来る少女が目に入った。
オレは、いかにも素朴そうなその娘に話しかける。
「こんにちは、ここは……」
「ここは、何という街ですか」と、とりあえず話のきっかけを作ろうと思ったオレを、完全無視で娘が通り過ぎる。
しかし、今のオレは、この程度のことで折れたりはしない。
ナンパ上等、後ろから肩を抱いて話しかけようと手を伸ばす。
――ヒッヒッヒッ、無視はないでしょ、お嬢さん。
娘の肩を抱き寄せようと腕を肩に回したその時、オレの腕が娘の体をすり抜ける。
「?!」
オレは、なかば空振りを喰らったような状態になり、思いっ切り前につんのめった。
何事も無かったかのように立ち去る娘。
どうやら娘には、オレが見えていないようだ。
ピッ。
『 +1 アクリョウポイントガ、カサンサレマシタ』
『ポイントノゴウケイハ81デス』
どこからともなく聞こえてくる謎の音声。
――な、なんだコレ?
オレは、異様な音声に慌てて周囲を見まわすが、どうやら音声は直接頭の中から聴こえてきているようだ。
そうこうしている間も、蜥蜴顔の人?や、得体の知れない動物がひく荷車などが、オレの体の中を通り抜けていく。
「キミ、いい加減、出てきなさい」
今度は、壁の向こう側から響いてくるような、かん高い声。
しかし、この声には聞き覚えがある。
声のする方へ振り返ると、そこには、巨大なエン魔の顔。
視界のすべてを覆いつくすエン魔。
巨大なパープルサファイアの瞳が、さも不機嫌そうにオレをにらみつける。
「こっち、こっち!」
エン魔がこれまた巨大な手で手招きをする。
手招きをするエン魔の方へ、しぶしぶといった心持ちで歩いていくと、透明なガラスのようなものがオレの体を通り抜けていく。
次の瞬間、オレは、オレの部屋にいた。
目の前には、ベッドが置かれていて、腰掛けたエン魔が、オレをにらんでいる。
振り返ると、テレビのディスプレー。
その画面には、異世界転生もののアニメが映し出されていた。
リンゴのカゴを持った娘が歩いていくのが映っている。
となると、オレは、このディスプレーの中から出てきたということか?
「キミは、どんだけ異世界好きなのよ」
エン魔が呆れたように言う。
どうやら、オレの願望が出てしまっていたようだ。
最近は、多忙な仕事に流されて、まったく触っていなかったが、仕事に余裕のあった入社したてのころは、RPGのオンラインゲームにはまっていた。
それほど、上手いというわけでもなかったが、異世界の世界観が好きで、ゲームをしている間は、仕事での嫌なことも忘れることができた。
最近とは言っても、もうオレは死んでしまったのだけれど……。
「キ、キミ。わたしを見下ろすなんて一千億年早いわ。ひざまづきなさい」
エン魔が上目遣いにオレをにらみつけていた。
異世界転生は、失敗?
次回、聡亮の正体?が明らかになります。
お楽しみに!!
【応援よろしくお願いします!】
「面白そうな話だな」と思ってくれた方、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちで大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
よろしくお願いします。