49.けも耳の餓鬼
読みに来ていただきありがとうございます。
今回も、お付き合いよろしくお願いします。
ふたたび、緊張感が走る展開?
それでは、ごゆっくりどうぞ。
燃える列車事件?から三日後の夕暮れ。
オレは、いつも通り寝床となる適当な場所を見つけて、火を起こし夢野のための休息時間を確保していた。
第六天魔の暗冥門には、一向に近づいている感じがしない。
水はあるが、食料はさすがに尽きかけていた。
以前と変わりなく火を囲んでいるように見えても、オレの手にしているカップに入っているのは、コーヒーではなく白湯だ。
美味くはないが、オレの体調にはなんの影響もない。
オレが白湯を飲んでいる理由は、夢野が気を使わなくていいようにするためだけなのだ。
とはいえ夢野の食事も、バー状クッキーのごとき栄養補助食品を節約のため半分にしたものと、カップに入っているのは当然のごとくただの白湯だった。
ただ、オレとは違って夢野にとっては死活問題なのだ。
夢野の表情にも明らかに衰弱の色がさし始めていた。
自然と押し黙り、たき火の炎を見つめるオレと夢野。
エン魔だけが空気を読まず、騒がしく辺りを物色している。
「こ、これ、動くよ」
どこかで聞いたようなセリフを吐きながら、喜々として携帯電話をのぞき込む。
どうやら放置された携帯電話でも見つけたようだ。
オレは、その姿を横目で見ながら気付かないフリをする。
電源が入ったとしても、今のこの状況では、SNS、WEBどころか電話すらつながることはない。
エン魔にあれこれと使い方を聞かれるのは面倒だった。
まあ、適当に動かしていればカメラなどの基本機能くらいは動かせるようになるだろう。
案の定、エン魔は辺りをパシャパシャとやり始めた。
「こっ、これすごい。浄玻璃鏡と違って、思念がまったくいらないじゃない」
エン魔の持つ浄玻璃鏡は、過去の人のおこない、善業悪業を映し出す鏡で、携帯電話のカメラ機能など比べものにならないくらい不思議なモノなのだ。
がしかし、エン魔からすれば人の思念がないとただの鏡でしかない浄玻璃鏡よりも、いつでもどこでもスイッチ一つでその場面を写すことができる携帯電話の方が何かすごいモノのように見えるようだった。
そんなエン魔がまたしても怪しい影の存在に気付く。
ふたたび辺りに緊張感が漂う。
周囲の闇の中に目を走らせるエン魔。
夢野は、異変を感じ取って顔を上げたが、疲労のあまりもはや立ち上がる気力は残っていないようだった。
オレは、残骸の中から見つけた鉄パイプを手にして身構えると、夢野と付かず離れずの適切な距離を保つ。
夢野が襲われたときには、割って入って夢野を守ることができて――と言っても時間稼ぎくらいにしかならないかもしれないが、オレに向かって来たときには逆に夢野と離れることができる。
ダッ。
――来る!
地面を蹴る音と共に、跳ね上がった黒い影は、月を背にそのシルエットを浮かび上がらせる。
小ぶりな胸に引き締まったウエスト。
そして、ちょっと大きめな安産型の腰。
それは、一見、全裸の少女のように見える。
――えっ! けも耳? シッポ?
その一見けも耳全裸少女は、真っすぐにオレに向かってくると、目の前で屈み込み、上目づかいにオレに視線を送る。
ざんばらなショートヘア、幼い少女のような顔、小さな胸、お腹に至るまでが、すべて真っ白。
真っ白と言うのは、人間の肌の色白を表現する意味での白ではなく、雪のようにではなく、雪の白だ。
よく見ると顔や胸なども、真っ白な短い体毛――獣毛に覆いつくされている。
わき腹から背中、両手、両足、そして驚きのけも耳とシッポは、黒と灰のトラ柄の縞模様で、もちろん、何かを着ているのではなく、体毛の毛色で描き出されている。
青いつぶらな瞳が月の光を反射する。
その大きな瞳は、明らかに人間のものではなく、夜行性動物の持つ縦長の瞳孔がのぞいていた。
首には、木の板が縄でくくり付けてある。
そしてもう一つ胸の中心にある特徴的でいびつな星形の痣。
――あの餓鬼なのか?
異形の化け物と言うよりは、どちらかと言うと、けも耳全裸エロカワ娘と言った方が的を射ている姿だが、餓鬼の変貌した姿なのだとしたら油断はできない。
――それにしても、なんてエロかわゆい……。
緩みそうになる顔を引き締めて、けも耳全裸エロカワカワカワ娘の動きに注意を払う。
けも耳全裸エロカワカワカワ娘は、物を持つには不都合にも思える丸っこい指で、たどたどしくつまんだ何かを目の前に置く。
それは、薄くて丸い小石。
五日前の夜、餓鬼を遠ざけるために、どこへともなく投げ捨てたものだった。
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小石を拾って戻ってきたのね……。
次回、「50.肉を喰らう者」
お楽しみに!!




