47.記憶の断片
読みに来ていただきありがとうございます。
今回も、お付き合いよろしくお願いします。
追い払った餓鬼が戻ってこないか見張ります。
それでは、ごゆっくりどうぞ。
オレの巻き起こした強烈な突風が小石を遠方にさらい、餓鬼がそれを追って猛烈な速さで駆け出した。
オレは、しばらく様子を見て餓鬼が戻ってこないことを確認する。
泊まる場所を移動することも考えたが、夢野の体力のことを考えると、さほど長い距離を移動できるとも思えない。
万が一、餓鬼が戻ってきたとしても、狙いがオレなら多少厄介であるとはいえ、危機的な状況におちいることは少ないだろうと踏んだ。
そのうえ、オレもエン魔も寝る必要がないので、夢野には滑り台に付いているドームの中に寝てもらい、オレとエン魔で見張っていればいい。
――しまった! 今、エン魔は、だめン魔状態だった。
雷を放ったエン魔は、呪力だか、魔力だかを多量に消費するらしく、回復には一定の睡眠が必要なようなのだ。
結局、オレ一人が見張りを務めることになるのだったが、たいして変わることはないだろう。
オレ自身霊体なので、別に眠たくなるわけでもなければ、疲れが取れないわけでもない。
大体、疲れること自体がないのだ。
――それにしても、幼女エン魔、めっちゃカワイイ。
オレは、ペタンと座ったままこっくりこっくりしているエン魔を抱きかかえ、あぐらをかいたひざの中に寝かせると、そっと頭をなでる。
子猫のような無防備な寝顔に、頬をツンツンしたくなる。
断わっておくがオレは、ロリコンではない。
ほんとは言いたくはないのだが、ただでさえ、はっきり言ってかわいいエン魔が――性格は抜きにしての話だが、幼女になってスヤスヤと眠っていれば、どんなに極悪非道なヤツでもツンツンしたくなるに決まっている。
――お、おっと、危ない、危ない。
オレは我に返ると、餓鬼の気配に注意すべく、目を閉じて意識を周囲に広げる。
目を閉じてはいても、意識はより周囲に張りめぐらされている。
言ってみれば、瞑想をしているような状態で、感覚が研ぎ澄まされ気配に敏感になる。
どれだけの時間が流れたのか、寝るはずのないオレが、なぜか夢の中に迷い込んだように幼いの頃の思い出の中にいた。
とは言っても、周囲への警戒が緩んでいるわけではない。
それとはまったく別のもう一つの感覚が、確かに思い出の中にあるのだった。
なぜ突然、こんな思い出の中に入り込んだのか不思議に思う。
そこでオレは、悪ガキにいじめられていた子猫をかばうように抱きかかえながら、袋叩きにされていた。
足をすくわれ転げたところを、数人の奴らに蹴り飛ばされる。
それでもオレは、頑として子猫をはなさなかった。
次の場面では、やせ細り傷ついた子猫を、オレは看病していた。
子猫は、少しずつ元気を取り戻していく。
――そうだ。
オレはかつて、確かに数年間、その猫と共に過ごしたのだった。
おぼろげながらも、頭の中に思い出の記憶がよみがえってくる。
そこに突如、思い出をさえぎるように響きわたるエン魔の声。
「キャー!キモイ、キモイ、キモイ」
オレは、はたと目を開いた。
そこに飛び込んできたのは、パープルサファイアの瞳。
毒虫でも見つけたときのように、目を細めにらみ付ける。
もう数センチ動いたら、唇と唇が触れてしまうかのような距離にエン魔の顔。
エン魔が、気のせいか頬を赤らめて目をそらす。
「ソ、ソースケ。い、いったい何しようとしてんの。い、いい加減にしてくれない」
エン魔は、十分に力を回復したのだろう、すでに幼女エン魔ではなくなっていた。
オレは、そのエン魔を膝にのせ抱きしめていたのだ。
警戒のために周囲への感覚を研ぎ澄ませば研ぎ澄ますほど、それに相反して、手近の感覚が薄らいでいたのだ。
「閻魔なのに。冥界の王、閻魔なのに。閻魔なのに……」
衆生の者がたやすく触れられる存在ではないとでも言わんばかりに、エン魔がこめかみを引きつらせながらつぶやく。
ピシッ、ピシッ。
にわかに空がかき曇り、雲と雲の合間に稲光が走り出す。
あわや雷をくらうかと思ったのだが、エン魔はなんとかそれを踏み止まったようだった。
せっかく回復した力を、またここで使ってしまっては元も子もないと思ったのだろう。
しばらくすると、朝の光が差し始め、餓鬼からもエン魔からも危害を被ることなく、無事に心配な夜が明けたのだった。
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線路は続くよ、どこまでも♪
次回、「48.燃える列車」
お楽しみに!!
 




