46.星形の痣
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それでは、ごゆっくりどうぞ。
「ソースケ!あそこ!」
夢野の背後、瓦礫の陰をエン魔が指差す。
目線を向けるのとほぼ同時、得体の知れないモノの影が瓦礫の後ろにすばやく消える。
その動きだけが気配を残す。
夢野は、すでにいつでも受けて立てる構えをとっていた。
こういった時の夢野の反応は、速い。
エン魔もさすがに押し黙り、わずかな異変すら見逃さないよう周囲に目を走らせている。
しかし、辺りに動くモノの気配は、全く感じられない。
オレたちは、たき火を背に広がり、闇から発せられる動きと音に意識を集中させた。
たき木のはじける音だけが響き渡り、息が詰まるような沈黙の時が続く。
ダッ。
何の前触れもなく突然、何かの駆ける音とともに、あらぬ方向から黒い影が飛ぶような勢いで向かってきた。
――速い!
夢野は、結界を張ることはもちろん身動きすらできない。
オレにしたって、十分な間がないと何もできない。
――夢野が危ない!
奴らの獲物は、夢野以外にはないのだ。
オレは、エン魔に目配せして訴える。
エン魔が「ほーら、ほら、ソースケ。わたしをもっとほめたたえなさい」と言わんばかりに、小さな胸をそり返し、ニッと口角を上げて不敵に笑う。
ドバッシャーン。
次の瞬間、辺りが真っ白な閃光に包また。
エン魔の雷が最大出力で放たれたのだ。
目が効いてくると、雷の放たれた場所には、衝撃によってかなりの窪みが生じていることがうかがえた。
――やったか?
ミギャー。
上空から不気味に響き渡る獣の鳴声。
どうやらエン魔の雷の放たれた瞬間、すばやい身のこなしで高く跳び、雷をかわしたのだろう。
月明かりに照らし出されたその姿は、間違いなく餓鬼のそれだった。
――こっの、だめエン魔、だめエン魔! だめン魔!!
オレの心を読み取ったのか、幼女となったエン魔が目をしばしばさせながら、まったくろれつの回らない口を開く。
「だ、だ、だめン魔いうにゃー」
完全におねむのようだ。
強い光に目を伏せていた夢野も、頭上から襲いかかる餓鬼に対してなす術がないようだ。
最悪の事態が頭をよぎったそのとき、予想に反して、餓鬼は、夢野にはまったく目をとめずに跳び越えると、なんとオレに向かって襲いかかってきた。
――み、み、見えるのか?
餓鬼の鋭い爪が眼前に迫る。
――ま、まさか、霊体のオレを引き裂けるのか?
オレの心配とは裏腹に、案の定、餓鬼の体当たりはオレの身体を見事にすり抜けた。
餓鬼の行動がオレにとって脅威にならないことがわかったのは良かったのだが、餓鬼は体当たりを一向にやめようとしない。
オレに体当たりを仕掛け、そしてすり抜け、転がる。
もはや体当たりとはいえない動きを、餓鬼はとめどなく繰り返していた。
シィㇱィー、ミギャー。
そしてまた……。
夢野は呪符を手にしているが、餓鬼の素早い動きについていけず、ただ立ちすくむだけといった様相だ。
しかし、夢野に目を向けられるくらいならこの方がいい。
幼女エン魔は、ペタンと座り込み、夢うつつといった状態で目をこすっている。
――まったくの、だめン魔状態だ。
しつこいくらいに跳びかかり続ける餓鬼に、なんの手立ても思い付かない。
やけになったオレは、手元にあった小石を拾って餓鬼に投げつける。
餓鬼は、その小石を難なくかわすと、なぜかきびすを返して走り去っていく。
そしてまた、すぐさま戻ってくると、オレから数歩離れたところに何かを置いた。
よくよく見ると、それは、オレがたった今投げつけたはずの小石だった。
餓鬼は動きを止め、頭蓋の眼窩にはまった血走った眼球でオレをにらみ、引き裂いたように吊り上がる口から大量のよだれをたらしている。
よく見ると、何かの文字が書かれた木の板が縄で首に結び付けられている。
切り刻まれても復元する餓鬼にもかかわらず、何かの傷痕なのか、胸の中心にいびつな星形の痣が見てとれた。。
餓鬼が威嚇とも取れるうなり声を上げる。
シィㇱィㇱィㇱィー。
オレは、背筋に冷たいものを感じて、立て続けに小石を投げつけた。
餓鬼は、それにすばやく反応し小石を軽くよけると、ふたたび駆け出していく。
そして、しばらくするとまた戻ってきて、最初に置いた小石の横に、今投げた小石をすべて一列にならべていった。
意味不明の行動をする餓鬼だったが、同時になにか引っかかるものを感じる。
だが、そのなにかが頭の中から見つけ出せない。
餓鬼の眼球が、ギョロリとぬめった光をおびて、オレを捉える。
シィㇱィー、ミギャギャ。
取りあえず、今の状況をなんとかしなければならない。
オレは、両手を軽く握ると、視野の中に吹き荒れる風の動きを、意識の中心、そのさらに奥底に描き出すように強く念じる。
悪霊っぽい青黒い炎がオレの身体を包み込み、周囲の空間に異変が生じ始める。
微妙な気圧の変化が気流を生み出し、やわらかな風がただよい始める。
オレは、なるべく薄く丸い小石を拾うと、円盤を投げる要領で、空のある一点に向けて思いっきり投げ上げた。
それに加勢するかのように、やわらかな風が強烈な突風へと変化し、小石をさらに遠方にさらっていく。
餓鬼がそれを追って、猛烈な速さで駆け出して行った。
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次回、「47.記憶の断片」
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