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44.最後の食事

読みに来ていただきありがとうございます。

今回も、お付き合いよろしくお願いします。


緊縛されて、夢野、不機嫌です。


それでは、ごゆっくりどうぞ。

 オレは、小さな公園にあった遊具を今晩の寝床にすることに決めた。


 コンクリートでできた大きな半球状の部分に滑り台が付けられたもので、半球状の部分には、登って遊べるようボルダリング用の壁みたく手や足をかける石が埋め込んである。

 その半円状の部分がドームのようになっていて、広いとは言えないが中に入れば、多少の雨風は防ぐことができそうだった。


 建物の中というのも考えたのだが、周囲にある建物の崩壊はひどく、いつ倒壊するとも知れない状態では安全とは言えない。

 それよりも何よりも、餓鬼が潜んでいたりしたら発見が難しいばかりか、袋小路に逃げ込んでしまう結果になりかねないとも思えた。


 実際、ここに来るまでに幾度となく餓鬼に襲われている。

 しかも、餓鬼が襲うのは基本的に夢野なのでたちが悪い。


 オレとエン魔の存在を認識できる者には、渡良世との一件以来、出くわすことは一度もなかった。

 夢野の持つ呪符の効果は絶大だが、オレ達は夢野のサポートにまわることくらいしかできないのだ。


 そして、夢野の体力もかなり消耗してきている。


 第六天魔の暗冥門に近づけば近づくほど、餓鬼の気配を感じることが多くなってきていた。

 その反面、人の気配はまったく感じなくなっている。


 夢野の話では、人々は拠点を築き、得体の知れないものたちから身を守って暮らしているはずだった。

 この辺りの人たちも、そこに集い強固な砦を築いているのだろうか。


 それとも、一人残らず餓鬼になってしまったのか。

 餓鬼に喰われると、喰われた人もまた餓鬼と化す。


 あのコンビニ店長のように……。


 オレは、滑り台の脇につくられた砂場に、折り畳み式のたき火台を組み立る。

 そして、固形燃料、かさばらないように収納できるよう、人形の中から人形、またその中から人形と次々に人形が出てくる、どこだかの国の民芸品マトリョーシカのように重なるステンレスでできたカップを準備する。


 いずれも、崩れ落ちたビルで荒れ放題となっていたアウトドア用品店から拾い集めたものだ。

 これらの装備品は、至るところで勝手にかき集めてきたもので、この世界が元に戻ることがあるのなら、店の人たちにこの恩を返さなければと思う。


 ――餓鬼になってしまったあのコンビニ店長は、元に戻るのだろうか……。


 そもそも悪霊になってしまったオレが考えることではない。

 オレは、一旦、この考えを頭の中から追い出すことにした。


 夕暮れは、いつしか辺りを漆黒の闇に包んでいく。


 以前の世界であれば、まだ多くの人や車が行き交う時間帯なのだろうが、今は、もうすでに闇は濃く、まったく音のない静寂な世界だ。

 夜のない街などという表現をよく耳にしたが、道路照明や街の灯りがどれだけこの世にあふれていたのかを思い知る。


 そして、その恵みを当然のように利用して生活してきたのだ。


 オレは、周辺で集めてきた建物の残骸とおぼしき木切れを組んで、中央の固形燃料に火をつけた。

 キャンプを含め野営などまったくしたことのないオレだったが、幾度となく行われたこれらの作業は、オレの手際をかなり良いものにしていた。


 闇と静寂の中に、炎のゆらめきとパチパチと木切れの弾ける音が響きわたる。


 頃合いを見て、ペットボトルのミネラルウオーターをカップに注ぎ火にかける。

 ミネラルウオーターのペットボトルは、まだそれなりに残ってはいるが、食料となるものが底を突きかけていた。


 オレは、コミカルなカバの遊具――子供がまたがったりして遊ぶコンクリート製のアレだ。――を背に、たき火に当たっている夢野に話しかけた。


「夢野。ラーメン作るけど、ご飯も食べるか?」


 先ほどから夢野は、たき火台から落ちたチリチリと燃える炭を、にらむように無言で見つめ続けていた。

 かろうじて口だけ動かし、オレの言葉に消え入るような声でつぶやく。


「大丈夫です……」


 どうやら夢野にしては珍しく、怒っているのか、すねているのか、崖でのことでかなり機嫌を悪くしたようだった。


 そんなことはまったく気にとめず、滑り台で遊んでいたエン魔は、どこで見付けてきたのかこんにゃく麺とやらを胸元から取り出し、調理もせずに丸かじりして目を光らせていた。


 ――こんにゃくだったら、何でもいいのか?


 大体、オレとエン魔は、何も食べなくていいのだから、少しでも夢野のために残しておくような配慮がほしい。

 エン魔の能天気な行動に、少々あきれかえるオレ。


 そこに響きわたる異音。


 ぐぅ、きゅぅぅぅぅ……。


 音の方へ目を向けると、顔を真っ赤にした夢野がお腹を押さえて、ガックリと肩を落としていた。


 意地を張る夢野になんとかラーメンとご飯を受け取らせる。


 オレは、インスタントコーヒーをいれ、一息ついた。


 一人で食事をするのは気が引けるというので――オレは何も食べなくて大丈夫なのだから気にする必要はないのだが、夢野が食事をとるとき、オレはコーヒーを飲むことに決めていた。


 同じように作っているはずなのに、なぜか夢野のようにはおいしくできない。

 本当は、夢野に入れてほしいのだが、今はそういうわけにもいかないだろう。


 この夜が、なんとかまともな食材を使用できた最後の食事だった。


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よろしくお願いします。


次回、「45.ウミガメとマンタ」

お楽しみに!!

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