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41.閻魔縛り

読みに来ていただきありがとうございます。

今回も、お付き合いよろしくお願いします。


夢野は大丈夫なのか?


それでは、ごゆっくりどうぞ。

 ――マズいぞ、これは。


 霊体となってしまったオレは、生身の人間だったころの感覚を、知らぬ間に忘れかけているようだ。


 夢野に身体をロープで縛るように言ってはみたものの、転落したとしても痛くもかゆくもないオレと違って、万が一夢野が転落すればひとたまりもない。

 そして、その恐怖に打ち勝って崖を登るということは、よほど強い精神力がなくては無理というものだ。


 何よりも、よほど鍛え抜かれた者でなければ、10メートルの崖を登り切るには、握力、腕力が持たない。

 ここまでに、かなりの体力を消耗している夢野であればなおさらなのだ。

 そんな当たり前のことに考えが及ばなかった。


 オレは、軽く自己嫌悪する。


 ほかに登れそうなところはないか周囲を見まわしてみるが、崖は見渡せる限り果てることなく切り立っている。

 迂回するにしても、かなりの遠回りを覚悟しなければならなくなるだろう。


 キュルキュルキュル、グオオーン。


 オレが頭を悩ませていると、突然、背後から轟音が響きわたる。


 振りかえると、エン魔が喜々とした声ではしゃいでいた。


「おおっ! ソースケ! コレ、動くよ! コレ、何するものなの!」


 ひまを持て余したエン魔が、乗り捨てられていた車をいじって、エンジンをかけたようだった。


 あきれ果てて、知らずと渋い表情となるオレ。


「少しは、真剣に考えてくれよー」


 はしゃいでいたエン魔が、一変、ピクリと眉尻を上げて、にらむような目をオレに向ける。


「ソースケー。いい加減、わたしの偉大さに気づきなさい」


 小さな胸をそり返して、なおも続ける。


「『お願いします。閻魔大王様。どうか教えてください。お願いします。』でしょ」


 オレは、ヒクつく顔面をなんとか抑えて、言葉を棒読みする。


「エン魔、お願いだ。教えてくれー」


 エン魔は、しばらくの間オレをにらみ続けると、あきらめたかのように軽くため息をついた。


「まったく、もう。気持ちがぜんぜん伝わってこないんだけど、仕方ないわね」


 言うが早いか、崖の下にダイブする。


 ロープがスルスルと崖下に引かれていく。

 オレは、慌ててロープをつかんだ。


 ――エン魔、ロープの扱い方、知ってんのか?


 崖下をのぞくと、エン魔が夢野にロープをかけているようだった。


 ――ん?


 かすかな声に耳を傾けると、夢野があえぎにも似た声を漏らしている。


「えっ、あ、あ、あん。そ、そんなとこ……」


 おれは、崖下に身を乗り出す。


「夢野! エン魔! 大丈夫か!?」


「わたしに任せなさいって! ちょっと、動かない動かない。もう、じっとしてて!」


 どうやらエン魔は、オレの言葉は無視して、夢野に言い聞かせているようだった。


「エン魔ちゃん、やめ、やめて。あん、ダメ、おねがい。ひょえー!」


 ここからではよくは見えないが、夢野も夢野でやはりそれどころではない様子だ。


 ――いったい何やってんだ? まったく。


 そうこうしている間にも、ロープは、スルスルと崖下に引かれ、予備のロープをつながなければならなくなってしまった。


 ――いくらなんでも、使いすぎだろ、コレ。


 しばらくすると、ロープが二度リズムよく引かれた。

 準備ができたことを示す合図だ。


 同時に、下からエン魔の声が響く。


「ソースケー! 上げていいよ!」


 さらに、夢野の悲痛な声。


「センパーイ、勘弁してくださーい!」


 意味不明な夢野の言葉に頭をかしげながらも、オレは夢野を引き上げようとロープを引っ張るのだった


勘弁……?

夢野、エン魔、大丈夫か?

次回、「42.そーれ、騒霊」

お楽しみに!!



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