40.気力と体力
読みに来ていただきありがとうございます。
連載再開、2話目です。
それでは、ごゆっくりどうぞ。
連日のように続く、登り下りを繰り返す果てのない登山のような日々の中で、夢野の体力は明らかに削り取られていた。
オレとエン魔には、まったく休息といったものがいらないのだが、夢野だけはそうはいかない。
夢野にペースを合わせなくてはならないのは当然のことなのだが、それもまた進行を鈍らせる理由の一つとなっている。
――今日は、この断層を越えるまでにしよう。
オレとエン魔は、夢野の呪符の力を借りて、なんとか修羅と化した渡良世を封印することに成功した。
エン魔は、両手の指を複雑に組んで印を結ぶと、呪文を唱え、四方に梵字のようなものが施された魔法陣を渡良世の足元に浮かび上がらせる。
その中に沈んでゆく、動きを封じられ、もはや巨大な銅像のたぐいと化した修羅の渡良世。
怒りの形相が、切り取った映像の一部のように顔面に貼り付いたまま、魔法陣の中に消えていく。
渡良世の持っていた閻魔帳は、エン魔の持つ閻魔帳と一つになったのだが、それでもまだ、全体のごく一部分のようで、大半はいまだ失われたままの状態だった。
それにしても、つくづく閻魔帳が恐ろしく危険なものであることを思い知らされた一件だった。
閻魔帳の書きかえによって起きる異変もさることながら、閻魔帳は人を虜にする力を秘めているようだ。
渡良世から閻魔帳を奪ったオレは、閻魔帳を手にした瞬間、このままこの閻魔帳の力を使えば、それこそ好き勝手に世界を思い通りにできるじゃないかという考えが、頭の中に巣くっていくのを感じたのだった。
――オレが本当に望んだのは、そういうことだったはず……。
オレの中に、閻魔帳を誰にも渡したくないという気持ちが膨れ上がってきた。
オレは、なんとかその気持ちを抑え込んで、エン魔に閻魔帳を渡すことができたのだった。
少しでも、心に疲れがあれば、閻魔帳の魔力に魅入られて、オレも修羅と化していたかもしれない。
夢野を助けることができたオレとエン魔は、当初の計画通り第六天魔の暗冥門に向かって旅を進めることにした。
暗冥門がこの世界を呑み込んでしまうまでに、どれだけの時間が残されているのかわからないが、のんびりと構えている余裕はないだろう。
夢野を連れていくべきかどうかは相当に迷ったのだが、いくら呪符を操る巫女であるとはいえ、やはり一人おいて行くのは危険だという結論に達したのだった。
それよりも何よりも、夢野自身がそれを望んでいた。
オレとしても、夢野の呪符がないと異界の者たちを封じる術がない。
そのうえ、オレ自身、呪符に触ることができないのだ。
助けた直後の夢野は、職場の仲間を次々と餓鬼に変えられ、深い精神的ダメージを受けていた。
当初、廃人のようだった夢野だったが、長い道のりをただ黙々と前進し続けるという行動の中で、何か思うところがあったのか、吹っ切れたのか、徐々にではあるが元気を取り戻してきていた。
そういった意味では、かかった時間もまんざら無駄というわけではないのかもしれない。
ただ、精神的な気力が回復するのと、体力的な疲れとはまた別の問題なのだ。
オレは、崖を登り切ると下にいる夢野にロープと垂らし、声を上げる。
「夢野! しっかりとロープを身体に縛り付けてくれ!」
下方から、夢野の声がかすかに響いてくる。
「センパ~イ! 縛ったことないんで、わかりませ~ん」
それもそうだ、自分の身体を縛ったことがあるヤツなんて、普通に考えたらいるわけがない。
大体、言ったオレ自身、よく考えたらどうすればいいのかわからない。
オレも夢野もごく一般的なサラリーマンなわけで――ここでの夢野はひと味違うのだが、当然、サバイバル訓練などを受けたことがあるはずもないのだ。
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