4.勝手放題
「キッ、キミ。それは、非常に危険なものなの。取りに行くから絶対に動かないでね」
エン魔が打って変わった猫なで声で言う。
オレがエン魔の胸元から、ポロリと落ちた古めかしい書物を手にした瞬間、エン魔の顔から血の気が引くのがはっきりとわかった。
オレは、しげしげと書物を見まわす。
――この古ぼけたのが、そんなに大事なのか?
エン魔は、玉座から飛び降りて、慎重な足取りで近づいてくる。
「そのまま、そのまま、なにもしない、なにもしない……」
オレの一挙一動に気を配りながら、心配そうな表情で、ブツブツとつぶやくエン魔。
エン魔の凍りつくような表情を尻目に、ニヤリと口角を上げるオレ。
「これって、紙っぽいから破けるよね」
オレは、その書物を真ん中あたりから開き、両手で裂くようなふりをする。
「ヒョエッ!」
悲鳴を上げながら、またしても、一瞬固まるエン魔。
両手を前に出し、なにやら上下に振りながら、少々パニックにおちいっているようにも見える。
「ほんっとに、いい加減にして! いっ、いいわ、地獄行きは勘弁してあげるから、手を放して! 下に置いて!」
オレは、書物を引き裂くように、両手に力を込めて言う。
「この際だから言うと、オレは、欲望のままに、勝手放題生きるときめたんだ。それができる能力をくれ!」
エン魔が呆れたように眉をひそめる。
「キミねぇ。やっぱり地獄行き!」
オレは、その言葉を聞く間もなく、さらに両手に力を込める。
ビリッ。
書物から破壊のきざしを告げるかすかな音。
エン魔がパープルサファイアの瞳を大きく見開き、愕然とした表情を向ける。
「わかった、わ、か、り、ま、し、た! 無限の力が発揮できる能力を与えてあげるわ!」
エン魔が慌てふためいて、書物につかみかかる。
オレは、つかみかかるエン魔を、ヒョイとかわす。
「とか言って、返した途端、地獄送りとかしようとしてない?」
小さな舌をペロッとだすエン魔。
「ばれたか」
小さくつぶやき、そして、深くため息をつくと、両手の指を複雑に組んで印を結ぶ。
エン魔が呪文を唱えると、四方に梵字のようなものが施された魔法陣がオレの足元に浮かびあがった。
と同時に、オレの体に不思議な力が満ちてくるのがわかった。
約束通り、エン魔がオレに、何かしらの能力をくれたのだ。
「さあ、キミの好きなところへ行くといいわ!」
言い放ちながら、書物をつかむエン魔。
「さあ、放しなさい!」
エン魔の言葉に逆らい、オレは、放すまいと渾身の力を込める。
中ほどから開かれた書物は、オレとエン魔とに引っ張られ、今にも引き千切れる寸前。
オレの体が魔法陣の中に吸い込まれるように沈んでいく。
「能力も与えたのに! 放しなさいよっ!」
半べそで叫ぶエン魔。
「ヘッヘッヘ! 残念だけど、好き勝手ついでにもらっていくぜ!」
真面目だけが取り柄のオレは、もうやめだ。
これからは、不真面目上等、欲望のままに、勝手放題生きてやる。
オレは、そう決めたのだ。
ビリリリッ!
今度こそ、豪快な破壊の響きとともに、あたり一面に頁を散らしながら、書物が真っ二つに砕け散った。
「な、な、な、何てこと……」
エン魔が半狂乱になりながら、乱れ散る頁を拾い集める。
オレは、そんな光景を夢の中での出来事であるかように見ながら、魔法陣の中に沈んでいった……。
いやー。聡亮も思い切ったことをしたもんだ。
でも、そもそも、これが悲劇の始まり……。
また、読みに来てください。
お楽しみに!!
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