37.小さな囁き
読みに来ていただきありがとうございます。
全身をカベにたたきつけられ動けない夢野。霊力を使い果たして動けないエン魔。どうする?
それでは、ごゆっくりどうぞ。
「……」
「……」
「夢野」
「……」
「夢野」
オレが消滅するのを見届けた夢野は、オレの声に、まったく反応せず、うつむいたまま身動きすらしない。
普通に考えれば、当然、消滅したはずのオレの声が聞こえるはずはなく、気のせいだと思ったとしてもしかたがない。
その間にも、支配欲の闇にかられ修羅と化した渡良世が、一歩また一歩と夢野との距離を縮める。
エン魔の雷から受けたダメージも、徐々に回復してきているようだ。
命令に従わない夢野に腹を立てたであろう渡良世が、この先、どんなひどい仕打ちをするかわかったものではない。
いやもはや、殺してもいいと思っているかもしれない。
そうなれば、死ぬまでの間、どれだけおもちゃのようにもてあそばれ、なぶり殺しにされるか考えただけでも身の毛がよだつ。
オレのそれこそ魂のさけび。
「ゆー!めー!のー!」
夢野が顔をあげ、オレの姿を探して、キョロキョロと辺りを見まわす。
すでに目の前には、修羅が血の色に目を光らせて迫り来ている。
修羅の巨大な腕が、夢野をかわいがろうとつかみにかかる。
オフィス内には、そよ風のような柔らかな風が漂い始めていた。
「夢野! 呪符をばらまくんだ! できるだけたくさん」
オレの声に従い、夢野は、ありったけの呪符を取り出し、両手の指にはさむ。
しかし、カベにたたきつけられた衝撃で、思うように体に力が入らない。
修羅は、そのことに気付くと、巨大な指を夢野のあごに当て、顔を強引に押し上げる。
「いい関係がつくれると思ったのに残念だ」
真っ赤な目を夢野に向けると、巨大な腕で夢野の脇を締め上げ、つかみ上げる。
夢野は、苦し気な表情を浮かべながらも、まったく動くことができない。
ビリッ
修羅は、つかみ上げた夢野の白衣を指先でつまんではぎ取る。
「やさしくしてあげようと思ったのにねー」
いやらしく、そして、ゲスに笑う。
と次の瞬間、宙に舞う数多の呪符。
夢野が最後の力を振り絞り、両手の呪符を修羅に向けて投げ放ったのだ。
そこに、強烈な突風が吹きつけ、呪符が修羅の顔、体、手足のいたるところに貼りついていく。
グッ、グオォォーォーォー。
修羅の動きが鈍り始める。
夢野は、指を複雑にからめて印を結ぶと、呪文を唱え始めた。
「し、詩織。こっ、このー!」
修羅は、動きを制限されつつも、ぎこちなく指を動かして閻魔帳を操り、夢野を餓鬼に変貌させようとする。
呪文の効果が早いか、閻魔帳の効果が早いかの争い。
その争いの終止符はオレが打つことになる。
オレは、修羅の背後からヒョイと現れると、これまたヒョイと閻魔帳を奪い取って、ドヤ顔を決め込む。
「はい、終了。お疲れさまー」
修羅は、あり得ないオレの出現に意表を突かれ、なんの抵抗もできないまま、夢野の唱える呪文によって、完全に動きを止められ封印されていった。
夢野とエン魔も、何が起きているのか訳が分からないといった表情で、呆然としている。
実は、オレは、烈火の禍事のごとき爆発によって、大黒山伏との対決に勝利したのち、新たな能力?を手に入れていたのだ。
ピッ。
『ポイントノゴウケイハ425デス』
そして、ファンファーレが鳴る。
チャララ、ラッチャラーン!
『300ポイントヲ、コエマシタ』
『ブンレイデキマス』
『ブンレイシマスカ?』
――ブンレイ?
何のことかわからなかったが、オレは「ブンレイ」とやらをしてみることにした。
するとなんと、オレは、二つに分裂したのだった。
「ブンレイ」は、たぶん「分霊」。
要は、読んで字のごとく霊を分けること。
わかりやすく言えば、分身の術といったところなのだろう。
聡亮の分霊と夢野の気力によって、ことなきをえることができました。
次回、もう一人のオレ。
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