31.大黒山伏
今回も、お付き合いよろしくお願いします。
両腕を失った聡亮、もはや、万事休すか……。
それでは、ごゆっくりどうぞ。
大黒顔の山伏が放った独鈷杵によって、オレは、一瞬にして両手を失ってしまった。
だが、このまま、なすがままにされているわけにはいかない。
オレは、気持ちを切り替えると、すばやく近くの事務机にもぐり込み身をかくす。
ピッ。
『 リョウウデヲ、ウシナイマシタ』
『ソウレイカガ、シヨウデキナクナリマス』
『リョウウデノサイセイジカンハ15フンデス』
『ソウレイカハ15フンゴニ、シヨウデキマス』
デスクに独鈷杵が突き刺さる衝撃が振動となって伝わってくる。
大黒山伏は、確実にオレの居場所を捉えている。
――んっ! 今、再生時間は15分って言ったよな。
オレは、全身の力が抜けるほどに、ほっと胸をなでおろす。
オレの腕は、15分でなんとか元に戻るようだ。
オレは、一生、両腕のない人生でなくて霊生を――生って、そもそも生きてもいないが、送らなければならないものと覚悟しかけていた。
まあ、よくよく考えると、もともと悪霊であるオレが両腕を失っても、なにか不都合があるとも思えない。
ただ、騒霊化も同時に失っている以上、薄笑う大黒山伏をなんとかしなければならない今だけは、文字通り手も足も出ず、逃げまわるしかない。
シャリ。
シャリ。
大黒山伏の持つ錫杖の音が、オレが身をかくすデスクに、確実に近づいてくる。
オレは、息をひそめて――そもそも息してないかもしれないが、凍りつく。
シャリン。
大黒山伏は、デスクの直前、オレからするとデスクの向こう側で足を止めたようだ。
もしオレに心臓があったなら、すでにノドから飛び出しそうになっている。
ドン。
ドン。
バシン。
突然、デスクに鋭い音と衝撃。
大黒山伏が、オレをいぶり出そうと考えたか、デスクを思いっ切り蹴り上げ始めたのだ。
オレは、両手で頭を抱えて、耐え忍ぼうと思ったが、もうすでに両腕は失ってしまっていたのだった。
――っくー。
しばらくすると、音はやみ、ふたたび大黒山伏が動き出す。
シャリ。
デスクの右側に回り込もうとする大黒山伏。
オレは、すかさず、デスクの左側に低い姿勢で回り込む。
ちょうど大黒山伏とオレの間にデスクをはさんだ状態に回り込み、なんとか身をかくしながら、大黒山伏をやり過ごす。
――なにかないか、なにかないか、なにかないか。
なにか打つ手を考えないと、腕が回復したとしても後がない。
ジャリリリン!
そんな考えをさえぎるかのように、突然、頭上から錫杖が突き下ろされた。
横に転げながら、なんとか錫杖をかわす。
続けざまに、すさまじい衝撃音を響かせて、デスクの上に跳び乗る大黒山伏。
そして、間髪入れず、不気味な薄笑いを浮かべた大黒顔がデスクの周囲を見まわす。
オレは、となりのデスクのカゲにもぐり込んで、なんとか大黒山伏の目からのがれた。
それからしばらくの間、オレは、とにかくオフィスにあるさまざまな物を利用して、大黒山伏のヘビのような目を避けつつ、機が熟するまでの時間を出来る限りかせぐことに、まさに、全身の全霊を傾けた。
そして、時が来る。
大黒山伏も、もうすでに気付いているだろう。
オフィス中に立ち込める高濃度なアルコール臭。
屈強な大黒山伏も、少々呼吸が困難なのか、むせ込みながら、異様な事態に顔をゆがめる。
オレは腕が復活すると、身を隠しながらも、ドラックストアで入手した消毒用アルコールの原液を、オフィス中にまきながら移動していたのだ。
気化した高濃度のアルコールは、火種さえあれば爆発する。
オレは、バーベキューなどでよく使用する着火用ライターをバックから引っ張り出すと、意を決して立ち上がる。
同時に、視覚に捉えた空間の風の流れを、意識の中心、そのさらに奥底に描き出すように強く念じる。
青黒い炎がオレの体を包み込み、周囲の空間に異変を生じさせ始めた。
そのとき、大黒山伏がオレの動きに気付き、すばやく錫杖を放った。
――やっ、やばい!
悪霊ポイントは、もうすでに限界で、この錫杖をくらえば、間違いなくオレは消滅することになるだろう。
しかし、視野の中にオフィス全体を捉えていなければならないため、動くことはできない。
空気の流れが集まり、強烈な流れとなって、オフィス内につむじ風が巻き起こり始める。
――まっ、まだだ。
オレのひたいに向かって、強烈な勢いで飛ぶ錫杖。
――!!
ヤバい。聡亮が死ぬ。いや、払われる? 消滅する?
次回、アルコール爆発。
お楽しみに!!
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