22.夢野の願い
今回も、お付き合いよろしくお願いします。
浄玻璃鏡が映し出す真実。
それでは、ごゆっくりどうぞ。
浄玻璃鏡に映る渡良世は、手にした閻魔帳を開くと、開いた頁に手をかざす。
閻魔帳の頁から、柔らかな青白い光が、ゆらゆらと立ち上がる。
と同時に、闇の中の人影が徐々に人ではないものの影に変貌していく。
身体が痩せ細り、特に手や足は、骨と皮だけではないかと思えるほどに干からびていく。
髪は抜け落ち、頭蓋骨の形を浮かび上がらせた頭部には、眼窩に見開かれた眼球だけが怪しげな光をおび、強い生命力を放つ。
手足の指には、異常に長く鋭い爪。
それは、エン魔のいう餓鬼の姿だった。
「いやー!」
さらに勢いを増して、泣き叫ぶ夢野。
ギョロギョロと動きまわる餓鬼の眼球が夢野を捉える。
餓鬼が下あごから大量のだ液をしたたらせながら、素早い動きで夢野に飛びかかった。
夢野もまた、身をひるがえし、餓鬼の爪をかわす。
防戦一方で手も足もでない夢野に対し、餓鬼の爪がじわじわと夢野の肩、わき腹、太ももに赤い筋をきざみだす。
夢野としては、山下さんを傷つけることはしたくないのだろう。
しかし、餓鬼と化した今となっては、目の前にいるのは、もう以前の山下さんではない。
夢野の顔が苦悩の表情にゆがむ。
「山下さん。ごめんなさい」
大粒の涙を流しながら、指で星形――五芒星を空に描く。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
餓鬼の両腕が、真っ黒な細かいすすのようになって、チリチリと燃え尽きていく。
夢野が結界を展開したのだ。
あとずさる餓鬼の額に、すかさず夢野が呪符を貼り付ける。
餓鬼の動きが鈍り、その場に倒れ込んだ。
倒れて動けなくなった餓鬼の肩に手をかけ、うなだれる夢野。
頬を涙でずぶ濡れにして、もはや山下さんではなくなってしまったモノの顔を、涙でかすむ瞳で見つめ続ける。
夢野は、自分自身の危険に対してよりも、他の人たちが餓鬼にされていくことに、胸を裂かれるような痛みを感じているようだった。
夢野には、餓鬼の動きを一時的に封印することはできても、餓鬼を人に戻すことはできない。
渡良世が、いかにも残念そうなフリをして、夢野を見つめる。
「詩織がおりこうにしていれば、こんなことにはならなかったのにね」
すべて、夢野が悪いとでも言いたげに続ける。
「ヒヒッ、山下さん、かわいそうに……」
夢野は、うるむ瞳に、強い敵意をにじませ、視線を渡良世に向ける。
渡良世は、なおもへらへらと笑う。
「まだ、わからないようだね。詩織。じゃ、次は竹下さんだ」
そしてまた、閻魔帳をパラパラとめくる。
夢野がふたたび顔色を変えて、すがるように訴えかける。
「お願いします。なんでもします。もう止めてください。お願い、お願い、たすけてー!!」
渡良世は、ニヤリと口角を上げて、閻魔帳に手をかざす。
閻魔帳から、やわらかく青白い光が放たれ始めた。
浄玻璃鏡が映し出したのは、ここまでだった。
夢野の残留思念だけでできるのは、これが限界ということだ。
「お願い、お願い、たすけてー!!」
夢野の涙の訴えが、まるでオレに向けられているかのように感じられる。
エン魔はエン魔で、閻魔帳を見つけたことで、いてもたってもいられない様相だ。
閻魔帳は、衆生の善業、悪業を書きつづったものであるが、内容を書きかえれば、それが真実となってしまう。
心ない者の手に、閻魔帳が渡れば、この世の理すら崩壊しかねない事態となってもおかしくはないのだ。
閻魔帳、恐るべし。
次回、夢野の救出に向かいます。
お楽しみに!!
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