21.浄玻璃鏡
今回も、お付き合いよろしくお願いします。
夢野の真相が明らかになります。
それでは、ごゆっくりどうぞ。
いったん、シェルターに戻ったオレは、夢野をどうしたものかと考えていた。
エン魔も、こと夢野に関してだけは、無視できないようだった。
そんなにも、こんにゃくゼリーが心をつかんだのだろうか?
もちろん、オレは、夢野が幸せなのであれば、渡良世といっしょであっても――オレの気持ちは別として、見守っていくべきだと思うのだが、どう見ても幸せそうには見えない。
「やむなしね」
エン魔が小さな胸の谷間から、炎や神獣などの精緻が細工の施された鏡を取り出す。
その鏡は、エン魔と最初に出会ったときに一度目にした、あの浄玻璃鏡だった。
この鏡を使えば、夢野に起きた出来事を、過去にさかのぼって見ることができるだろう。
「ほんとうは、衆生の世にかかわったら、ダメなんだけどね」
いつもになく、真剣なまなざしで、鏡を見つめるエン魔。
本来、浄玻璃鏡は、エン魔が罪を裁くとき、その者の所業を映し出して、善悪を見定めるものであり、他の者の過去をのぞき見るためのものではない。
「いい、ソースケ、心しなさい。見られたくないもの、見たくないものを、見なくちゃなんないかも」
エン魔の言葉に、少したじろぐオレ。
夢野にしてみれば、秘密にしておきたいことが当然あるはずで、それを知ることは、そのことに責任を持つということでもある。
オレにしたって、夢野と渡良世の濡れ場など――絶対にないと思いたいが、間違っても見たくはない。
オレは、意を決して、エン魔に真っすぐな視線を送る。
「OK! 了解だ」
エン魔は、夢野がカフェオレを飲むときに使っていたカップを手にして、鏡の前に置く。
なんでも、夢野の残留思念とやらが必要らしい。
しばらく、鏡をのぞき込んでいると、写っていたオレやエン魔や背景などの像が、渦を巻くようにして乱れぼやけていき、とある場所のある一場面を映し出し始めた。
いくつかのランプの炎によって、なんとか必要な光りを与えられた暗い部屋。
そして、部屋に置かれた豪華な椅子に足を組みのけぞって座る、渡良世。
渡良世の正面には、ひざまずく格好の夢野がいた。
炎の光りによって、まったく印象を変えているが、そこは間違いなく、先ほど行ったオフィスのようだった。
光りの届かない闇の中にも、人らしき影が数人。
よく見ると、倒れて動かなくなっている者も見て取れる。
怪しい雰囲気に、オレは、息を押し殺すようにして、見入っていた。
エン魔も、いつになく真剣な表情。
浄玻璃鏡に映る渡良世が声をあげる。
「詩織、もう少し、おりこうさんにしてないとねー」
渡良世は、なにかの書冊を取り出すと、パラパラとめくり始める。
すると、突然、稲妻でも落ちたかのように、そして、気が違ってしまったかのように夢野が泣きさけぶ。
「お願い、やめてー! やめてください。やめてください。何でも言うことを聞きます。お願いします。お願いー!」
オレも思わず、大声でさけぶ。
「え、エン魔! あっ、あれ!」
「……」
声も出ないエン魔。
その書冊は、うっすらとした妖気を放っていて、オレの目を通してみると、ぼんやりとした緑がかった白い光に、包まてているように見える。
渡良世が手にしているのは、まぎれもなく閻魔帳の一部だった。
ケホケホとむせかえる夢野に、たたみかける渡良世。
「口では何とでも言えるからねー。少しは身に染みて感じてもらわないと……」
渡良世は、開いた閻魔帳の頁に、手をかざすようにする。
「山下さん、出番ですよ」
闇の中の人影らしきものに視線をやる渡良世。
聞き覚えのある名前に、ある人物がオレの頭をよぎる。
――山下さんって、山下先輩のことか?
閻魔帳の頁から、柔らかな青白い光が、ゆらゆらと立ち上がる。
と同時に、闇の中の人影の中の一つが苦痛のうごめきを見せ始めた。
ついに、閻魔帳の一部分を発見。
次回、夢野の悲痛なさけびが……。
お楽しみに!!
【応援よろしくお願いします!】
「面白そうな話だな」と思ってくれた方、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちで大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
よろしくお願いします。
 




