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18.多重結界

読みに来ていただきありがとうございます。

各階ごとにビルの中を横切らないと上の階に進めないのです。

それでは、ごゆっくりどうぞ。


「ソースケ! たいへん! 三階への階段がないよ!」


 大きな声をあげるエン魔を、オレは、小声でたしなめる。


「しーっ」


 見える者もいるのであれば、聴こえる者もいるはずで、注意するに越したことなない。


 エン魔の視線の先に目を向けると、なるほど三階へと続く階段が見事に破壊されていた。

 こうなると、上の階に行くためには、一旦、二階の廊下を通って――ビルの反対側とでも言うのだろうか、突き当りに位置する、もう一方の階段を使うしかないということになる。


「しゃーない。突っ切るぞ、エン魔」


 周囲に気を配り、オレは、ささやくような小声でエン魔に伝える。


「エン魔言うな! 閻魔大王様と……」


「しーっ」


 大声で叫ぶエン魔をなんとか制して、オレは二階フロアの廊下に足を踏み出す。

 ふてくされた表情でエン魔が後に続く。


 廊下の二分の一辺りまで来たところで、突然、オレの体に高電圧の電流が流れ込んだかのような痺れが走る。


「うぉっ、うぉぉぉうぉっ。な、な、な、なんだ、こっ、これ」


 痺れによって、ろれつが回らなくなり、全身が麻痺するような嫌な感覚が駆けめぐる。

 オレは、思わず後ずさり、廊下に腰を落とした。


 死んで以来、初めて受ける身の危険を感じる衝撃だった。


 そして、頭の中に響きわたる音声。


 ピッ。

『 -10 アクリョウポイントガ、ゲンサンサレマス』

『ポイントノゴウケイハ91デス』


「ソースケは、悪霊だから、結界を張られると通ーれないの」


 エン魔がニヤニヤしながら続ける。


「わたしは、悪霊じゃないから、ぜんぜん平ー気だけどねー」


「……」


 唖然として言葉も出ないオレ。


 どうやら廊下の中央部分には、何重もの結界が張られているらしい。

 その幾重にも張られた結界は、厚さにして5メートル近くあり、オレがそれを抜けるのは、間違いなく死に等しい。

 いや、悪霊なので、祓われるとでも言うのだろうか?


「さぁ、ソースケ。『閻魔大王様、お願いします。助けてください』と言いなさい。そして、崇め奉りなさい。ひれ伏しなさい」


 エン魔が勝ち誇ったように言う。

 オレは、無性にくやしかったが、背に腹は代えられない。


「え、え、閻魔大王様、お、お、お願いします。た、た、助けてください」


 ――くーっ。くそっ!


 ムカつきながらも、オレは、やむを得ず、頭を床にこすりつけるようにして、ひれ伏す。


「なーんか気持ちが入ってないけど、まあ、いいわ」


 エン魔は、小さな胸をよりいっそうそり返して言う。


「託宣をあげる。心して聞きなさい」


 エン魔の託宣――といえるほどのことだろうか?――は、こうだ。


 どうやら餓鬼など異界からの者を封じるため対策として、結界などの仕掛けが、このビルには施されている。

 ただ、廊下には、厚い結界が張られているのだが、オフィス内には、結界の張られている様子はないということだった。


 つまり、一旦、廊下からオフィス内に入って、結界の張られた部分を通過した後、廊下に戻れば結界をやり過ごすことができるというわけだ。


「じゃ、わたしは先に行ってるからねー」


 エン魔が結界部分を通って、廊下の向こうへ進んでいく。

 どうやら、エン魔にとっては、結界などないも同然のようだ。


 オレは、やむを得ず、エン魔を信じて、恐る恐るオフィス内に足を踏み込んだ。


結界を無事、やり過ごすことができるか。

次回、巫女三人衆?など登場

お楽しみに!!


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