17.正面突破
今回も、お付き合いよろしくお願いします。
とりあえず、夢野の様子を見に行きます。
それでは、ごゆっくりどうぞ。
オレは、出発を延期することにした。
昨夜の夢野の行動と、そもそも日増しに元気がなくなる夢野が心配で仕方なかったのだ。
あの夜も、夢野は簡単にここを出て行ったわけではない。
出ていくまでの小一時間、夢野は、オレをずっと見つめ続けていたのだった。
その瞳には、涙を溜め、幾度となくため息をつき、ときに苦いものを飲み込むような苦悩の表情。
オレは、夢野に気づかれないように薄く目を開けながらも、しっかりとその表情を捉えていた。
そして夢野は、思いを吹っ切るかのように、突然、立ち上がると、ここから出て行ったのだった。
オレは、とりあえずオレや夢野が勤務していた会社のあったビルに向かうことにした。
夢野の話によると、そのビルは、人々が集まり、餓鬼などの危険から身を守るための拠点となっているそうだ。
こういった、いくつかの拠点によって、何とかこの危機的状況をしのいでいるのだろう。
夢野は、渡良世と、そのビルで落ち合うことになっていると言っていた。
エン魔が猛反対するかと思いきや、やけにあっさりとオレの意見を聞き入れてくれた。
供え物ともいえるこんにゃくゼリーの手前、エン魔も見て見ぬふりはできないのかもしれない。
今まさに、オレとエン魔は、そのビルの前にいる。
ここに来るまでに、二時間ほどをついやしたが、悪霊であるオレは、疲れを全く感じない。
交通手段を使えば、一時間もかからない工程だが、歩きとなるとさすがにかかる。
電気が通っていないため、当然、電車は動いていない。
たとえ、電気が通っていたとしても、この状況では、運行にたずさわる人はいないだろう。
車は、あちこちに放置されているが、道路には亀裂が走り深い谷となっていて、とてもじゃないが安全に走らせることはできない。
当たり前のようにあったものがなくなるということが、こんなに大変なのだということを、改めて気付かされたのだった。
――大体、悪霊なんだから、瞬間移動くらいできてもいいんじゃない?
「ソースケ、それは、わたしのセリフだよ」
オレの心を読み取ったエン魔が、ブツブツと文句を言う。
要は、オレの能力不足ということなのだろう。
疲れを感じないのは良いのだが、緊急時に時間を浪費するのは、いただけない。
ビルの入り口には、いかにも厳重警戒といった様相で、いかつい警備員が二人、周囲に目を光らせている。
手にしているのは、ライフルだろうか。
さすがに、本物ということはないとは思うが、どちらにしろ、弾が当たらないオレには、関係ない。
オレは、正面突破を試みることにした。
エン魔が言うには、「わたしたちが見える者もきっといるよ」ということだったが、そのときはそのときだ。
心配をよそに、二人の警備員は、まったく気づく素振りを見せず、おれとエン魔は、警備員の間を悠々と通り過ぎることができた。
ビル内は、照明が落ちていて薄暗く、どこからともなく入り込む外の光だけが、かろうじてビル内の構造を浮かび上がらせていた。
真っ暗な闇に向かって伸びる長い廊下。
その左右には、部署ごとのオフィスが並ぶ造りだが、まったく人の気配はない。
死ぬ前には、毎日のように通っていたはずのビルなのに、まったく別のビルではないかといった印象を受ける。
入り口すぐ横に、エレベーターホールがあるが、エレベーターが動いているはずもなく、脇にある階段を使用して二階に上がる。
――夢野たちは、オレたちのオフィスにいるのか?
オレのデスクがあったはずの、あの四階にあるオフィスだ。
「ソースケ! たいへん! 三階への階段がないよ!」
先行していたエン魔が、大きな声をあげる。
ビルには、数々のトラップが仕掛けてある。
次回、悪霊の聡亮に結界が……。
お楽しみに!!
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